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二人組の罠

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 六対二。

 残った敵はカルロス・ケインの二人組。


 そのうち一人はフィナンシェ、筋肉ダルマ、胸のデカいお姉さんの三人の攻撃を見事に防ぎきっている。

 俺の目の前にいるこいつも同程度の実力があると考えた方がいい。

 数の上では有利だが状況はよくない。


「クライヴさん、早くこいつを片付けてあっちの加勢に行かないとまずい気がします」

「ああ、そうだな。ウチのリーダーと【金眼】、それにローザの援護があってもまったくダメージを与えられねぇなんて相当やべぇぞあいつ。まさか俺たちの前にいるこいつもおんなじくらい強いなんてこたぁねぇよな。もしそうなら俺じゃあ歯が立たねえぞ」


 クライヴも相当やばいと感じているみたいだ。

 油断なく正面の敵を見つめているクライヴだがそのこめかみには汗が浮かんでいる。


「ローザっていうのはあのお姉さんの名前ですか?」

「ああ。魔法を撃ってる女がローザ。弓を持ってる奴はジョルドだ。少年の名前はたしかトールだったよな?」

「はい。俺の肩に乗ってるスライムの名はテッドです」

「そうか。そのスライムはテッドっていうのか」


 俺とクライヴが会話をしていても敵は襲ってこない。

 こいつはさっきからテッドから三メート以内の距離には入ってきていない。

 だからテッドを肩に乗っけている俺に襲いかかってこないのは不思議じゃない。

 だが、テッドから三メートル以上離れているクライヴにも襲い掛かってこない。

 剣を構えたまま身動ぎ一つせず俺たちの方を向いている。


 どうして動かないんだ?

 フィナンシェたちが倒されるまで俺たちをここに縛り付けておくつもりか?

 それとも何かを待っている?


 いや、敵が攻撃してこない理由なんてどうでもいいか。

 早くフィナンシェたちを助けに行かなくてはいけないんだ。

 こいつが何かを待っているというのならそれこそ睨み合いなんてしている場合じゃない。

 敵の狙いをつぶすためにも早くこちらから仕掛けなくては。


 そう思うものの俺にできることはほとんどない。


 俺の剣の腕は普通。

 魔法も火や水を出したり風を起こしたりはできるが相手にダメージを与えられるような威力なんてない。精々、相手をちょっとびっくりさせられる程度でしかない。


 自信があるのは回避能力だけ。

 テッドが相手の動きを感知して俺に指示、その指示通りに俺が動き、攻撃をかわす。

 この連携だけなら自信がある。

 しかし、いま目の前にいる敵はそもそも俺たちの三メートル以内に近づいてこない。

 敵が攻撃してこないこの状況において回避能力なんてなんの役にも立たない。


 だから、クライヴやジョルドが動いてくれないとどうしようもないのだが、何故か二人も動かない。


「どうしました?」

「様子がおかしいと思ってな。こういうときは変に動かない方がいいんだ。少年が本気を出してくれるってんなら全然大丈夫だろうが、さっきまでの様子から察するに出したくないんだろ?」


 俺の本気なんて大したものじゃないんだが。

 やっぱりクライヴも俺がスライムを倒せるくらい強いと勘違いしているのか。


「俺が本気を出さないこと、どう思ってます?」


 この状況で俺が本気を出したところで何の足しにもならんが。


「べつに何も。一応言っておくが、本気を出さないことを責めるつもりなんてこれっぽっちもねぇぞ。随分前になるが、力がありすぎて普通の人間の暮らしが出来ねえって嘆いてるやつにあったことがある。少年もそいつと同じだろ? 力加減が上手くできないから本気を出せねえ。しかもスライムを連れられるくらいの力を持っているとくりゃあ加減の難しさも相当なもんだろ。たぶんだが、少年が少しでも力を込めて攻撃しようとしたらこの森が半壊するような威力が出ちまうんじゃねぇか?」


 やけにべらべらとしゃべるな。

 わざと隙を見せて敵の攻撃を誘っているのか?

 こちらから攻撃するのがまずいなら敵から攻撃してもらえばいい、という考えだろうか。

 だが、これだけ長くしゃべっていても敵は攻撃してこなかった。動こうともしなかった。

 やはり、何か狙いがあって動かないんだろう。

 

 それにしても、めちゃくちゃ過大評価されてるな。


《なぁテッド。俺が敵を攻撃すると森が半分なくなるんだってよ。どう思う?》

『勘違いも甚だしいな。戦闘中に笑わせるでない』

《だよなぁ。ところで、敵の様子がおかしいらしいんだが何かわかるか?》

『わからん。そんなこと気にする余裕があるならさっさと倒してしまえ』

《いや、敵が何かを狙っているかもしれないから迂闊に手を出せないって話なんだが……》


 たしかに、テッドの言う通りかもしれない。

 今も後ろからは剣戟の音が鳴り響いてきている。

 音が聞こえるということはフィナンシェたちはまだ敵を倒せていない。


 先ほどまでの戦いでフィナンシェは疲労している。いつ倒れてもおかしくない。

 三人からの攻撃を防ぎ続けている敵の消耗も相当なものかもしれないが、敵の方が早く倒れる保証なんてどこにもない。

 やはり、多少危険でもこちらから仕掛けるべきだ。


「クライヴさん。このままじゃ埒が明かないです。攻撃しましょう」

「しゃあねぇな」


 クライヴはそう言い右腕を意味ありげに動かしながら左手で懐から取り出した短剣を二本、敵に向かって投擲した。

 敵に向かって飛ぶ二本の短剣。

 さらに三本の矢が短剣を追うようにして敵に飛来する。


 敵がクライヴを攻撃しようとこちらに向かってくるなら敵がテッドの三メートル以内に入るよう移動し行動を妨害。

 その場から動こうとしないならクライヴ、ジョルドと協力しさらに追撃する。

 そう考え身構えていた俺の目に飛び込んできたのは、予想もしていない光景だった。


 敵がどう動くかと注意深く観察していた俺たちの目の前で、二本の短剣と一本の矢が、敵に命中した。

 敵の胸部と腰部に短剣、頭部に矢が突き刺さった。


 続いて、敵の行動を制限するために射られたと思われる矢が二本、敵の左右の地面に刺さった。

 さらに二本、敵の前後を塞ぐように飛んできた矢もそのまま敵の前と後ろの地面に一本ずつ刺さった。


 敵は攻撃を、避けなかった。


 数秒後、敵はカード化した。

 強いと予想していた敵が驚くほどあっさりと倒れた。


「あれ?」


 この敵に対して感じる二度目の困惑。

 一度目は敵の左肩にナイフが刺さったときに感じた。


 もしかして俺は思い違いをしていたのだろうか。


 いまカード化した敵は本当は弱かったんじゃないか?

 ナイフが肩に刺さったのは単なる実力不足。

 その後、三メートル以内に近づいてこなかったのも遠距離から攻撃してこなかったのもスライムの魔力にびびっていたからじゃないか?


 カードから戻された奴にどこまで言うことを聞かせられるのかはわからないが、俺を襲ってきた奴は誰一人として三メートル以内に近づいてこなかった。

 ということは身の危険を感じるような無茶はさせられない可能性が高い。

 いまの敵が全く攻撃してこなかったのは、攻撃という行動それ自体が危険であると判断していたからかもしれない。

 あるいは左肩に刺さったナイフに本当に毒が塗られていて、その毒によって体の自由が奪われていたのかもしれない。

 なんにせよ、あいつは弱かった。


 ようするに、勘違いだ。

 相方が強いのだからこいつも強いのだろうと思ってしまったのがいけなかった。

 二人で行動しているのを見て、二人とも同程度の実力を持っていると勘違いしてしまった。

 とんだ杞憂だった。

 随分と時間を無駄にしてしまった。


『何を呆けている。まだ戦いは終わってないぞ』

「リーダー!」


 テッドからの念話と後方から聞こえたクライヴの焦るような声に意識を引き戻される。

 そうだ。まだ戦闘は続いてる。

 早くフィナンシェたちの方に向かわなければ。


 そう思い、振り向いた。

 振り向いたときには、筋肉ダルマが斬られていた。

 二か所で別々に繰り広げられる手に汗握る熱き戦い! となる予定だったんですが気付いたらこうなってました。

 次回はバトルやります。

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