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八時間

「シフォン様、確認が完了しました。先へ進みましょう」


 テッドとの問答が終わりほどなくして、ある程度の安全と転がっていた魔物の状態の確認が終わったらしいテトラからそんな声が発せられる。

 他の護衛騎士やフィナンシェもその言葉に頷きを見せているし、入口付近を調べた限りでは魔物の生き残りや罠のようなものは確認できなかったのだろう。

 とりあえずは一安心。ようやく先に進めるといったところか。


「――は左方、アンジェは後方を警戒しろ。リオンは先行して罠の有無を調査だ。足元への注意は特に怠るな!」


『さすが手慣れているな』

《そうだな》


 テトラの号令の下あっというまにシフォンを中心とした陣形が出来上がっていくのを見ながらテッドと共に感心し合う。


「フィナンシェ殿には前方の警戒を頼みたい」

「任せて!」


「トール殿とノエル殿は自由に動いてくれてかまわない。が、できればシフォン様の隣にいてくれると心強い」

「わかった」

「いいわよ、どんなやつが現れてもすぐにこのアタシの魔術で黙らせてあげるわ!」


 護衛騎士だけでなく俺たちの配置まで考えてくれているのがありがたい。

 テッドとの連携でもそうだが指示があると自分が何をすればいいのか悩まずに済むし、やることがはっきりするぶん行動にも迷いがなくなって迅速な対処が可能となる。

 それになにより、俺の配置がシフォンの横というのがいい。

 少し情けないが、これも適材適所。

 テトラの思惑としてはいざというときにテッドをかばんから出すことで魔物を近寄せず尚且つ実力的に一番信頼のおける俺がシフォンの傍にいれば安心といったところだったのかもしれないが、本当は一番実力の低い俺としてはフィナンシェや護衛騎士たちに囲まれたこの場所にいられるのはかなり安心感が強い。

 少なくとも、これで何かと出会うまでのあいだに魔物からの不意打ちで殺されるなんてことはなくなったはず。


《この布陣ならあまり気を張ることもなく安心して移動できるだろうし、無駄に体力を消耗することもなく何かとの戦いに臨めそうだな》

『何かとの戦いにだけ集中していればよいということか。それは楽だな』

《だろ? といっても、必要以上に気を抜くこともできないから何かに会うまでに多少は疲労もするだろうけどな》


 それでも、何かと戦う際に一番の懸念だった体力の消耗を抑えられるのはデカい。

 何かと出会うまでのあいだに魔物が一体もいないということは考えにくいし、もし俺がその魔物たちと戦えば体力と集中力の消耗は必至。

 かといって、この中で一番戦力にならない俺のためにシフォンの回復魔法を使用するのもシフォンの魔力の消耗を考えれば憚られる。

 ゆえにどのようにして道中の戦闘を回避しようか考えていたが……まさかテトラから戦闘をしなくてもよいと持ちかけてくるとはな。

 おかげで大助かりだ。

 これで、何かとの戦闘のことだけを考えていられる――


『その前に、何かについて今一度ノエルたちに説明を行う必要があるのではないか? フィナンシェ以外の者は何かが物を取り込めることすら知らなかったのだろう?』


 ――と、いうわけにはいかないらしい。


《そういえば、そうだったな》


 俺の説明が悪かったのだろう。

 そもそも何かについての情報を一度も共有していなかったノエルは別としても、何かを追っている途中に一度は情報の共有を行ったはずのシフォンやテトラたちでさえ何かがモノを取り込み、取り込んだものの持っていた姿や力を再現できることを認識していなかった。

 だからこそダンジョンから魔物が出てこなくなった原因が何かがダンジョン内に入ったためだと気がつくのに遅れ、時間と体力を無駄に消費してしまったのだ。

 俺とテッド以外に唯一そのことを認識できていたフィナンシェでさえも何かの取り込む力を甘く見積もりダンジョンから魔物の出てこなくなった原因が何かのせいかもしれないという可能性を見落としていたようだし、たしかに、ここは今一度何かに関して判明していることや推測できる事柄をしっかりと話し合っておくべきだろう。






 ――と、意気込み何かに関する情報を共有しながら慎重に進むこと八時間。


 テトラの所持していたラシュナのダンジョンの地図を見る限りだとすでにかなり深部まで来ているはずなのに、未だ何かに近づいたような気配はなし。

 魔物たちの残骸は転がっているものの、ダンジョン内は驚くほどに静か。

 自分たちの息遣いと足音以外、何も聞こえない。


 ゆえに、二時間ほどまえからいくつかの仮説がぐるぐると頭の中を巡っている。


「なぁ、もしかして実は……」


 ――もしかして実は何かとはすでにどこかですれ違ってしまっているのではないか。

 ――もしかして実はもうすでに魔湧きは終了しているのではないか。

 ――もしかして実はノエルの言っていた限定隔離型結界という説が正しく、ここにある魔物の残骸は結界が発動されるまえに何かによる捕食かそれ以外の要因でこうなってしまったものであり、そして、何かはこの限定隔離型結界が発動されたときその範囲内にいなかった……つまり、何かはもともとこの場所にはいないのではないか。


 そう、言おうとしたとき。

 遠くからガラガラと、物が崩れるような音がした。

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