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推論

 当てもなく周囲を探索している最中、テッドから言われた言葉をきっかけにある一つの可能性に思い当たり――


「そういえば、さっき言ったちょっと厄介な敵ってのは触れたものをそのカラダに取り込める性質を持っているみたいなんだ。もしかしたらダンジョンから魔物が出てこなくなったのは何か(ソイツ)がダンジョン内の魔物を捕食しまくってるかもしれないな」

「ちょっ、なによそれ! そういうことはもっと早く言いなさいよ! 今すぐダンジョンに向かうわよ!!」


 ――ということでやってきたラシュナのダンジョン入口。


 何かがダンジョン内から出ようとしている魔物をすべて食い散らかしているのかもしれない――その可能性に思い当たったときからある程度の覚悟はしてきたが……。


「想像通りというべきか、想像以上というべきか……」

『物凄い食い意地だな』


 ダンジョン入口から軽くダンジョン内を覗いただけでも強烈に感じ取れてしまうほどの死臭。散らばる肉片。

 一つ一つが小さく、積み重なったりもしているせいでわかりにくいが、入口付近に落ちているものだけでも百に迫る勢い……あるいは百を超える数の魔物のカラダの一部がここに集まっているのではないだろうか。


「松明の火が届く範囲だけでもこれだけの数……ねぇ、アタシの聞き間違いじゃなければなんだけど、アンタたしか、ちょっと厄介な敵って言ってたわよね? これのどこが『ちょっと』なのよ」

「ノエルさん落ち着いてください。トールさんと私たちでは実力に差がありますから、物の見方が違うのだと思います。トールさん基準の『ちょっと厄介』は私たち基準では『十分以上の脅威』になるというだけのことです」

「それはっ……! …………そうね。少しどうにかしてたみたいだわ。コイツにとって『ちょっと厄介』ならアタシにとっても『ちょっと厄介』。アタシとコイツはライバルなんだから、それは当然のことよね。……いいえ、本当の実力はアタシの方が上なんだから、アタシにかかれば『楽勝』のはずよ! 見てなさい、アンタよりも先にアタシがそのアンタにとってのちょっと厄介な敵とかいうやつを倒してあげるから!!」


 今は「よく見てみればこの程度なんてことないわね!」などと言って自信満々に胸を張っているノエルも、ほんの十数秒前シフォンが宥めてくれるまでは何故か俺に対して怒りをぶつけてこようとしていたみたいだし、やはりこの光景はノエルほどの実力者から見ても十分脅威に感じてしまうほど異常なものなのだろう。

 普通に考えれば、ここにあるのは食い残し。

 全身を余すところなく取り込まれてしまった魔物も相当数いるのではないかと考えると、実際にはいま見えている以上の数の魔物が何かに食われてしまっているということになるからな。

 さらに今見えている範囲より先にもずっとこんな痕跡が続いているのだろうし、数百数千の魔物が食われているだろうこの状況を脅威に感じないはずがないか。

 まだこれをやったのが何かだという確証はないが、こんな光景をつくりだしたのが何かであったにしろ何かでなかったにしろ、今このダンジョン内に化物がいることは間違いないだろう。


《というか、ラシュナのダンジョンは洞窟型だからあんまり大きな声を出すと音が反響して魔物や何かを呼び寄せることになるんじゃ……》

『その心配の必要はないな』

《どういうことだ?》


 今ノエルに対して俺が口を出すとさらに状況がややこしくなる。

 そう思い、とりあえずテッドに念話で懸念をぶつけてみると心配いらないとの答えが返ってくる。が……。


『いま自分で言っていただろう。洞窟型は音が反響すると。よく耳を澄ましてみろ』

《……何も聞こえないが?》


 テッドの言いたいことがいまいちよくわからない。

 耳を澄ましてみても聞こえてくるのはシフォンやノエルの話し声とフィナンシェやテトラたちが転がっている魔物たちの残骸を調べてくれている音のみ。

 テッドが何を聞かせたいと思って耳を澄ますように言ってきたのかはわからないが、特段変わった音は聞こえない。


『聞こえなくていい。それが正解だ』

《正解? と、言われても……》

『わからないか? まだ魔湧きは続いているはずなのに、音が反響しやすいはずのダンジョン内で魔物の鳴き声一つ聞こえてこないんだぞ?』


 …………ああ、なるほど。


 テッドからさらにヒントを追加され、やっと答えと思しき解答に辿り着く。


《このダンジョンの奥。魔物たちの声がここに届かないほどの場所まで、何かは移動している……ということか?》

『そういうことだ』


 おそらくはまだ湧き続けているだろう魔物たちの声が聞こえないのは、今もなお何かが魔物を捕食し続けているから。

 そして、その魔物たちのいる場所から俺たちのいる場所まで音が届かないほど遠く離れているから。

 となれば当然、何かは魔物を一ヶ所に集めるようにして追い込んでいるのだろうし、もしここから何かまでノエルの声が届いたとしても結界が張られるまえ俺たちを無視して魔物に向かっていった何かのことを考えれば目の前に集められた魔物(エサ)を前にして何かがこちらに来ることはまずありえない……ということなのだろう。


 まぁ、この推論を確実なものにするためには魔物が無秩序に湧いているわけではなく少なくとも魔湧き中は決められた場所以外から魔物が誕生することはない、という前提を証明する必要があるが……どうせこれから何かを倒すためにダンジョン内に入るのだし、ノエルの声を聞いた何かがここまでやってきたとしてもそれはそれで問題はないか。

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