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今日一番

「――なのよ。つまり、誰がやったかは知らないけどこの結界が張られたせいで少しやばい状況になったかもしれない、ってことね。最悪それだけ理解してくれればいいわ。わかったかしら?」

「うん、ありがとうノエルちゃん!」

「ありがとうございます。とてもわかりやすかったです」

「情報、感謝する。しかし、そうなると……」


 体感でだいたい五分くらいだろうか。

 思いの外長く続いたノエルからの状況説明が終わると、それぞれが口々にノエルへと感謝を告げながら与えられた情報を元に現状について語り合い始める。

 ノエルが説明してくれていたあいだに護衛騎士たちも完全に立て直し戦況も安定したがゆえに話し合いをする余裕もあるが、余裕があるからといって状況が良いわけではない。

 何かの行方や対処法についても未だ見当がついていないし、ダンジョンごと閉じ込められたことによって魔物は増える一方。要塞都市からの援護も期待できず、逃げ場もなし。

 周囲から完全に隔離されてしまったこの状態でシフォン目掛けてやってくる魔物たちと戦い続けなくてはいけないことになったというのだから、心労も大きく身体も重い。

 いざとなればノエルの浮遊魔術で結界すれすれの高度まで上がってしまえば魔物の攻撃は届かなくなるとはいえ、最悪の場合あと半日以上はこのまま結界の中で魔物と戦い続けなくてはいけないかもしれないと思うとどうしても先の長さに気持ちが参ってしまいそうになる。


「……ですね。ラシュナの判断ではないでしょう」

「でも、それなら誰がこの結界を? これほどの結界、どこかの組織が主導していないとありえませんよね?」

「そこが気になるところだな。ノエル殿から聞いた範囲と強度からしてこの結界を構築するためには並ではない結界魔法の使い手が最低でも百人は必要になると考えられるが、結界魔法の使い手は少ない。ましてや並ではない実力の者となると……ラシュナにそれほどの人材が集まっていたとはとても考えられん」

「ではやはりこれは……」

「魔物を閉じ込めるための結界ではなく、魔物ごと我々を閉じ込めるための結界だろうな。結界を張った者の狙いとしては上手く事が進めば我々全員がカード化、悪くても疲弊は望めるといったところか」

「稚拙な考えですね」

「本当にな」


 護衛騎士たちが話し合っている内容も気になる。


 たしか、『結界等による閉じ込め策は下策』……だったか。

 ラシュナに来るまえ、魔湧き中のダンジョンを封鎖するのは危険を伴う行為だとノエルから聞いた覚えがある。

 理由は、封鎖してしまうとそれを解除したあと面倒なことになるから…………封鎖されているあいだ一向に減ることなく逆に増え続けた魔物たちが一斉に解き放たれ、それと戦わないといけなくなるよりは封鎖などせずに少しずつでも湧き出てくる魔物の数を減らしていった方がいいからとか、ダンジョンを封鎖してしまうと通常はそのダンジョンからは誕生しないような強力な魔物が生まれてしまうことがあるからだとか、しっかりとは覚えていないがたしかそんな感じだったな。

 とにかく、魔湧き中……特に、今回のような規模の魔湧きにおいてダンジョンを結界で覆うなど下策も下策であり、ラシュナにはノエルから聞いたような結界を用意できる力はないらしいということからもこれを指示したのも実行したのも要塞都市ラシュナではない。と、テトラたちは考えているようだが……まぁ事実、その通りだろうな。


 これが魔物を抑え込むためのラシュナの策ではないのだとすれば、この結界の作成者に二つほど、心当たりがある。

 おそらくは、カーベやその関係者が用意した人材が発動した結界、あるいはカーベとは別に俺たちを襲ってきた男女の二人組、その二人のうち謎の結界を発動させ膨大な魔力の奔流と光を生み出したのちにどこかへ消え去ってしまったという女の方の仕業だろう。


《カーベか女か》


 できれば魔湧き対策の結界であってほしいが、その可能性は限りなくゼロに近い。

 タイミングと状況から考えても、カーベか女が用意した結界に違いないだろう。

 つまり、どちらにせよ俺とテッドは依然として狙われ続けているということに……。


『人気者だな』

《……困ったことにな》


 からかうようなテッドの言葉に、ため息が出る。


 本当に、こんなことで人気者になってもまったく嬉しくない。

 これならまだ【ヒュドラ殺し】への弟子入り志願とかそういった連中に迫られる方がマシだ。

 …………と一瞬思いもしたが、弟子入りを迫られるのもそれはそれで対応も気持ちも楽ではないような気がする。最悪の場合、弟子入り志願者との戦闘にまで発展する可能性を考えると危険度は現在とそう変わらないような……。


 と、そこまで考えたところでノエルから準備ができたとの声がかかる。


「魔術を発動するわ! 音と衝撃に注意しなさい! それと、光で照らしてあげるからちょっと厄介な敵とかいうやつもしっかりと捜しなさい!」


 そう言い終えたわずか一秒後に発動された大規模魔術。

 ノエルのいる位置から横に向かって伸びていく光の帯が甲高い音と若干の風を発生させながら地上をなめるようにして左から右へ移動していき、結界内にいる魔物のほとんどを一掃したことを確認したノエルがその光の魔術を消し去った後。フィナンシェが呟く。


「……あれ? おかしいよ?」


 その内容は、今日一番おかしく、今日一番不穏なもの。


「魔物が……出てこない……?」


 ――ノエルが結界について説明し、テトラたちが意見を交わし合い、大規模魔術が発動され、消え去った後。


 跡には、何かはおろか魔物の一体でさえも残っておらず……。

 新たに魔物が湧き出してくるはずのダンジョン入口からも、一体の魔物すら湧き出てくることがなかった……。

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