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食い止めるために

「ちょっと! アンタたちなんでこんなところにいるのよ! 危うく巻き込んじゃうところだったじゃない!」


 見上げていた先――空から聞こえてきたその声は、紛れもなくノエルの声。

 どこか非難するような口調と声音ではあるが、この言い方からしてさっきの魔術が俺たちをギリギリ巻き込まないですむような位置までしか発動されていなかったことは単なる偶然ではなかったのだろう。


「ちょっと厄介な敵を追いかけてきたんだが……ノエルこそ、どうして俺たちがここにいるとわかったんだ?」


 俺たちを避けるように大規模魔術を調整してくれたのだろうノエルに若干の感謝を抱き、発言の途中でもしかしたらさっきの雷によって何かも活動を停止したかもしれないということに思い至りつつ、ノエルにここへ来た理由を問う。


 どうやってかは知らないが魔術の発動前に俺たちを見つけ、魔術の効果範囲を変更。俺たちを巻き込まないように大規模魔術を発動させたあと浮遊魔術を使用してここまでやってきた……というところまではなんとなく推測できるが、見渡す限り夜闇しかないこの場所で一体どうやって俺たちを見つけたというのか。そこが、わからない。

 と、思ったが……。


「そんなの、暗い中に一ヶ所だけ火の灯ってる場所があったらそこに何かいると思うわよ」

「火の……? ああ、松明か」

「そ、リオンとアンジェが持ってる松明のことよ。ここのダンジョンには火を操れるような魔物はいないんだからこの暗闇のなか一ヶ所だけ明るかったりしたら人がいると思って当然でしょ? まさか見知った顔が勢揃いしているとは思わなかったけど……って、そんなことよりもちょっと厄介な敵とやらはどうしたのよ? まだ倒していないんだったら早く捜さないとまずいんじゃないかしら?」

「そうだ、こんなことをしている場合じゃなかったッ! 人間みたいな上半身を持つ下半身が馬の魔物を見なかったか!?」

「……見てないわね」


 まぁ、ノエルからすればラール、シール、ナールと別々の場所に下ろしたはずの俺たちが何故か集合していてこの場所に勢揃いしているのだから驚きもするよな……と呑気に納得していたところで急に何かのことを思い出させられ慌てるも、手がかりはなし。

 ノエルは何かを見ていないようだし、何かと俺たちを繋いでくれていた魔物の大群という目印もノエルの魔術によって消失。途切れてしまった。

 しかも、魔物の群れが途切れたのは一時的というのがこの上なく厄介。

 魔物を取り込みながら真っすぐにラシュナのダンジョンを目指していたと思われる何かはノエルの発動した魔術により魔物の群れがカード化したことが原因で魔物を見失い、その後新たにダンジョンから湧き出てくる魔物の群れを待たずに別の場所にいる魔物を求め移動した結果その進路をラシュナのダンジョンとは別の方向へと大幅に修正してしまった可能性があり、さらに今からここら一帯をノエルに照らしてもらって何かを捜そうにももうすでに新たにダンジョン入口から湧き出てきた魔物のたちのものと思われる足音がすぐそこまで迫ってきてしまっているために目視での発見も難しくなってしまっている。

 もし何かが魔物の群れに紛れてしまっていれば発見は限りなく不可能に近いと言って過言でないだろうし、たとえ群れに紛れていなかったとしても大量の魔物が迫ったこの状況で悠長に何かを捜している余裕はない。


 何かを見失ってしまったかもしれないという不安が大きいからだろうか。

 気持ちは焦り、頭は重い。


 何かがノエルの大規模魔術を凌ぎ生き残ったかもわからず仮に生き残っていたとした場合にダンジョン入口以外の場所へ向かったという確証もないが、触れたものすべてを呑み込み取り込んだもののカラダや性質を再現できるというあの特性が危険極まりないということだけは間違いない。

 もし取り込める数に上限がないのであれば何かは無敵。というよりも、本当に敵と呼べる存在がいなくなるまでこの世界のすべてを捕食しかねないし、何かが生物か否かはまだ判明していないがラシュナのダンジョンから誕生する魔物のカラダばかり再現していたことを考えると何かはまだ生まれて間もない可能性が高い。

 おそらくは今回のありえない規模の魔湧きによって変異的に誕生してしまった魔物。

 それが何かの正体なのだろう。

 そして、そう考えるとこれ以上魔物や人間を取り込んで成長してしまう前になんとしてでも今ここで何かを止めなければいけないという強い想いが湧いてくるが……。


『ダメだな。感知できそうにない』


 テッドの感知では見つけられず。


「アタシはまた大規模魔術の準備に入るから、魔物たちの相手は任せたわよ」


 ノエルはあてにならず。


「さすがダンジョン近く。たくさん魔物が来るね」


 フィナンシェはすでに何かから目前に迫った魔物たちへと意識を切り替えている。


「テトラ、お願いします」

「はい、お任せください」


 シフォンもテトラの傍で戦うつもりなのか武器である棒を持ちながら前へと出てきているし、テトラたち護衛騎士も当然のことながら完全に迎撃態勢。


 ……まぁ、たしかに。

 目の前からやってくる魔物たちをどうにかしない限りは何かを捜すこともできないし、そもそも目の前の魔物をどうにかできなければ死あるのみ。

 何かも一大事なら、魔湧きも一大事。

 ここを生き延びられないようなら何かを止めるなど夢のまた夢。世迷言にしかならないだろう。


《とにかく、まずはこの魔物たちをなんとかしないとな……》


 生き延びるため、後顧の憂いを断つため。

 何かという強大な恐怖を世に解き放たないためにも、ここはなんとしてでもこの魔物たちの群れから生き延び、何かを捜しださなくてはならない。

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