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向かう前に

 眩い閃光が過ぎ去り、徐々に落ち着きを取り戻し始めた視界。

 連続して耳に届き続けていた雷鳴らしき音と断続的に明滅を繰り返していた雷光らしきものがおさまったその場には、とても魔湧き中だとは思えないほどの静寂が残っていた……。


「ふぅ~、危なかったねぇ」

『ギリギリだったな。あと十メートルも進んでいれば確実に焼け焦げていたぞ』


 静寂が場を支配して数秒。

 雷鳴の名残も薄れやっと聴力を取り戻し始めた耳と頭に聞こえてきたのはどこか気の抜けるようなフィナンシェの声と他人事のように恐ろしいことを告げてくるテッドの声。

 テッドの言っていることは嘘偽りのない純然たる事実だろうから本当にあとほんの十メートルほど前まで進んでしまっていたとしたら、今頃俺たちは焼け死ぬかカード化し、この場には立っていられなかったのだろう。


《ひとまずは、巻き込まれずに済んでよかったと言うべきか》


 これまでと同じであるならこのあと数分間は大規模魔術の発動はないはずだし、そのあいだにノエルを見つけ合流すれば今みたいに大規模魔術に巻き込まれそうになることもない。

 今の雷の連発のおかげで進行方向上に存在していた魔物もほとんどカード化したようだし、魔物がいなければお手の物。テッドやフィナンシェたちの感知能力があればノエルもすぐに見つけられるだろうし、とりあえずは一安心といったところだろうか。


「トールさん、フィナンシェさん、お怪我はありませんか!?」

「フィナンシェ殿、無事か?」

「うん、大丈夫! 私もトールも無事だよ。シフォンちゃんたちこそ怪我はなかった?」

「はい。運の良いことに誰も怪我せずにすみました」

「シフォン様はもちろんのこと、我々護衛騎士も誰一人として被害は受けていない。それにしても――」


 フィナンシェと会話を交わしている様子からしてシフォンたちも全員無事なようだし、……というかテッドが被害に関して何も言ってこない時点で確実に全員無事なのだろうし、次の大規模魔術が発動される前にさっさと移動してノエルを見つけてしまった方がいいだろうな。

 そう考え、この場にいる全員に向けて声をかける。


「怪我がないなら早くノエルを探そう。次も避けられる保証はないぞ」

「うん。そうだね! ノエルちゃんを探そう!! ノエルちゃんのことだからきっとダンジョンの入口近くにいるよね!」

「そうだな。ノエルならきっと入口付近にいるだろうな」


 何かの行方も気になるが、今はノエルだ。

 ノエルを見つけなければまたいつどこから危険な魔術が迫ってくるかわからない。

 ノエルならきっと魔物の湧き出てくるダンジョン入り口を見張れる場所にいるだろうし、もし大規模魔術の準備や発動のためにダンジョン入口とは全く別の場所にいたとしてもダンジョン付近でテトラたちの持つ松明の火が揺れているのを見つけてくれればダンジョン入口付近への魔術攻撃は止めてくれるはず。

 ノエルを見つけるために、あるいはノエルに見つけてもらうためにも、まずはどちらの可能性も高いダンジョン入り口付近に向かうのがいいだろう。


「リオン。ダンジョン入口は確かあっちだったな?」

「はい。そちらの方向へ直進すれば七分以内には入口に辿り着くと思われます」


 ダンジョンの方向もテトラとリオンのやりとりのおかげで大体わかったし、あとは進むだけ。

 と、そう思ったのだが……。


《ノエルを見つけたらすぐに教えてくれ》

『直上にいるぞ』


 テッドにノエルを見つけたら教えてくれと頼むと、すぐに直上にいるとの答えが返ってくる。


「上?」

「どうしたのトール? 空なんか見上げて」

「トールさん?」

「トール殿?」


 直上というのが気になり首を上に向けて動かしてみるも、暗い空が広がっているばかりで何も見えない。

 だがしかし、テッドが言うのだから真上(そこ)には間違いなくノエルがいるのだろう。


 突如その場で上を見上げ始める。

 そんな謎の行動を訝しんだのか、つられて視線を上げたらしいフィナンシェたちの中で一番にそれに気づいたのはやはりというべきかフィナンシェだった。


「あ、ノエルちゃん!」

「ノエルさん?」

「ノエル殿が上に?」

「うん! ノエルちゃんがゆっくり下りてきてる!」


 前々から暗い洞窟の中や夜でもよく物が見えていたフィナンシェの言葉を聞いて、シフォンたちもより注意深く空を注視し始める。

 たまたまだが、これで上を見上げた理由を説明する手間が省けた。


 そして……。


「ちょっと! アンタたちなんでこんなところにいるのよ! 危うく巻き込んじゃうところだったじゃない!」


 地上から三メートルほど上空。

 なんとか足が見えるところまで下降してきたノエルが、そう叫ぶ。


 どうやら、さっきの魔術に俺たちが巻き込まれずに済んだのは偶然ではなかったらしい。

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