それよりも
テトラたちを戦力に加え何かについてわかっている情報を伝えながら何かを追いかけ、正面から来るシフォンを狙ってきた魔物の群れを休む間もなく相手にし続ける。
倒しても倒しても魔物が襲ってくる様は相当な恐怖の上に面倒でもあるが一体一体の強さはフィナンシェや護衛騎士たちに及ぶまでもなく、数に関してもこちらを不利にするほどの脅威にはなりえていない。
唯一の懸念である体力面もシフォンの回復魔法があれば心配の必要がないし、これは予想していた以上の速さで何かを追うことができているのではないだろうか。
というか……。
《なんだか魔物の数が少なくないか? さっきまでシフォンたちが戦っていた数よりも少ないような……》
『確かに、少ないような気はするな』
遠くで炸裂している大規模魔術を見ればそのおかげで魔物の数も減っているのかと勘違いしそうにもなるが、いくら休む間もなく魔物に襲われ続けているとはいえ魔物の発生源であるラシュナのダンジョンに向かっているにしては正面から向かってくる魔物の数が少なすぎる。
俺たちはいま魔物の群れに真っ向から突っ込むようにして走り続けているのだから、単純に考えれば先ほどまで追われるようにして戦っていたシフォンたちが相手にしていた数の、その二倍以上の数の魔物と接敵していなければおかしいはずだ。
それなのに正面から襲い来る魔物の数はシフォンたちが追われながら戦っていたときと大差ない。
《魔物が少ないのはいいことだし、だからこそこれだけの速度で追えてもいるんだろうが……》
ノエルが発動しているのだろう大規模魔術もひっきりなしに炸裂しているわけじゃなく数十秒炸裂したあと数分間は休憩時間のような魔術の発動されていない時間があるし、そんな時間があるということは魔術発動中とそうでないときとでこちらに向かってくる魔物の数も大きく変わるということ。
にもかかわらず、俺たちが何かを追いかけ始めてから二回は魔術の発動が止まった時間があったというのに正面から向かってくる魔物の数にあまり変化は見られない。
魔術が発動されていないあいだに無事にダンジョン前を通り抜けた魔物のほとんどが俺たちのいる場所とは別の場所を目指し進行しているという可能性もなくはないだろうが、今もどう見てもシフォンを狙ってこちらに集まり続けている魔物たちを見ればその可能性は限りなく低いと考えられる。
となると、やはり向かってくる魔物の数が少ないことと大規模魔術の停止後しばらく経っても一向に魔物の数に大した変動が見られないことはおかしいとしか思えない。
『不気味か?』
《ああ。不気味だな》
どうしてか理屈に合わない予想よりも少ない数の魔物たち。
その根本的な原因が不明というのはどうにも不安でしょうがない。
……というより、嫌な予感しかしない。
正直、俺の頭では魔物の数が少ないこととそれがおかしいことには気づけてもどうしてそうなっているのかはわかりそうにないし、これ以上のことはテッドやフィナンシェに丸投げするしかないな。
《なんで数が少ないか、予想はつくか?》
不安を払拭するため、というよりは不安の原因を予想しそれに対処するため、まずはテッドに原因を訊ねる。
一応訊いてはみたもののテッドにも原因はわからないだろうなと思っての質問だったのだが……。
『おそらく、何かが魔物を食い散らかしているのだろうな』
意外なことに、テッドから魔物の少ない原因に感づいているような言葉が返ってくる。
《食い散らかしている?》
『言ったはずだぞ。何かは物を取り込むと。おそらくは何かの食欲と取り込んだカードコレクターの蒐集欲が上手い具合に合致したのだろう。何かは今も進路上にいる魔物を取り込みながら進んでいるのではないか? ダンジョンへ向かっているのも捕食対象である魔物が多いからだろう』
さらに語られた理由に関しても、一応は筋が通っている。
魔物が少ない理由はテッドの言うように何かが魔物を取り込みながらダンジョンを目指しているからということで説明がつくし、大規模魔術の停止後に魔物が増えないことも、魔物の数が増えれば増える分だけ魔物同士の密着率が上昇し逃げ場がなくなるためより多くの魔物が何かに取り込まれやすくなる……と、無理やり解釈できないこともない。
そもそも、魔物と違って初めからシフォンを狙うことのなかった何かが急にシフォンの方へ向かいだしたりそのままシフォンの横を通り過ぎてダンジョンの方へと向かい始めたりしたことが不思議でもあった。
俺やフィナンシェとの戦闘中はダンジョンの方へ見向きもしていなかったのにどうして突然ダンジョンへ向かって邁進し始めたのか。
もしカーベを取り込んだことにより魔物を取り込む傾向が強まったというのであればそのことにも納得がいく。
……なんて考えてみたが、というかそれよりも。
「なぁ、フィナンシェ。これ、ノエルは俺たちが近づいてることに気づいてないよな。まずくないか?」
「う~ん、どうだろ? ノエルちゃんも周囲に人がいないか確認してから魔術をつかってると思うけど、もうあれだけ魔術の撃ち込まれてる場所に今さら近づく人なんていないって考えててもおかしくないし……。もしものときは自分たちでなんとかするしかないんじゃないかな?」
何かがダンジョンに向かっていった理由や襲ってくる魔物が少ない理由なんかよりも今一番に警戒すべきはノエルがばかすか発動している大規模魔術なのではないか。
もしあの魔術に巻き込まれでもしたらひとたまりもない。
そう思い至った次の瞬間、辺り一面を白く染め上げるほどの閃光に視界を埋め尽くされた。