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予期せぬ事態 変化する何か

 戻れと念じながら投げたカードはしっかりとカーベの倒れている方へ向かって飛んでいき、そして、カーベの真上でアイアンゴーレムに戻る。

 テッドからもカーベの身体がアイアンゴーレムの巨体に圧し潰されたと報告を受けたし、カーベがアイアンゴーレムの下敷きになったことは間違いない。

 ……そう。カーベは潰された。

 それは間違いない、はずなのだが…………。






 四メートルほど前方。

 たったいま見事にアイアンゴーレムのカラダが落ち、カーベが潰されたはずのその場所から感じる……何かが動く気配。


 気が抜けたのは、ほんの一瞬だった。

 テッドから問題なくカーベを倒せたとの報告を聞き、安堵したその一瞬。

 油断ともとれないそのわずかな合間に、滑り込まれた。


『止めろ!』

「あっ、トール、そっちにッ!」


 テッドとフィナンシェからのそんな声が聞こえたときにはすでにソレは移動を終え、ソレが俺やテッドの横を通り過ぎたことによって生じた風がおさまったとき、カーベが圧し潰されているはずのそこに――ソイツは立っていた。


 俺からはまだ姿は見えないが、トール曰く、馬のような脚を持ち、カラダ中から棘のように尖った体毛や角を生やした人間のような上半身を持った謎の生物。

 しかも、そこだけならまだ人魔界にいた馬のような下半身と人間のような上半身を持つケンタウロスという種族のようにも捉えられるが、さらにそこにアイアンゴーレムのような右腕とメタルリザードをはじめとする様々な魔物の爪や牙を大量に繋ぎ合わせるようにして作られた左腕が生えているという情報を聞いてしまうと、これはもう本格的に化物と呼ぶ他ない。

 極めつけは、その頭。

 馬のような脚と人間のような胴体、そこに鉄でできた立派な右腕と牙や爪の集合体である左腕を生やした、カーベの顔に似た凹みを持つ頭のようなものを取り付けたケンタウロス型の化物。

 頭部分に置かれているというそのカーベ似の部位には何か意味があるのか、それともたまたまカーベの顔のような形をしているだけで大した意味はないのか……それはわからないが、これはフィナンシェと戦闘中であったはずの何かがカーベの身体を取り込み、取り込んだものを復元するというその性質でカーベの顔を再現したということなのだろう。


『おそらくは体内に取り込んだ魔物のカラダを自分のをカラダをつかって再現しているのだろう』

『そのドロドロ、カラダに取り込んだ魔物の能力やカラダを復元して使えるみたいだから気をつけて』


 思い出されるのは、フィナンシェとテッドの言葉。


 テッドとフィナンシェが叫んだあの一瞬で俺たちを追い抜きカーベに近づき、カード化してしまう前にカーベを取り込んだ……そんなことが可能なのかという気持ちはあるが、ありえない話ではない。

 カードから元の姿に戻るときと同様、瀕死になってからカードになるまでにもわずかに時間がかかる。

 つまりそれは、俺とテッドがカーベを倒したあともカーベがカード化するまでのわずかな時間の中であれば他の存在がカーベに干渉することも可能であったということ。

 そして、どういう思惑があってそう動いたのか。フィナンシェと戦闘中であった何かはカーベの身体を取り込もうと最初にこの場に落下してきたときのような速度で動き、それを成功させてしまったのだろう。


《悪い。カーベを倒したことに安堵した一瞬の虚を突かれた》

『そんなことはもういい。それよりもコイツをどうするかを考えろ』


 謝罪するも軽く流される。


 テッドの言う通り悔やんでも仕方ないのだろうが、悔やまずにはいられない。

 まさかカード化前の一瞬を狙われるとは思っていなかったし、そもそも何かが人間も取り込めるとは思ってもいなかった。

 取り込んでしまえばカード化されずに何かの一部となってしまうということも予想外。

 ……言い訳を挙げようとすればいくらでも考えつくが、どう考えてもこれはカーベをカード化したと油断してしまった俺が悪い。

 フィナンシェからドロドロと称されていたようにこれまで明確なカタチを保っていなかった何かがカーベを取り込んだ直後にそのカラダのカタチをケンタウロスのような姿に固定したということはカーベを取り込むことによって何らかの条件が達成されてしまった可能性が高く、先ほどまででも厄介だった何かがより強くなってしまった可能性もある。

 それを考えると、何がなんでも何かにカーベを取り込ませることだけは阻止しなければいけなかった。


《とりあえず、斬りつけてみるか?》

『やめておけ。剣が取り込まれてしまう可能性がある』

《じゃあ、アイアンゴーレムで圧し潰すのもメルロで突くのも……》

『同じだろうな。取り込まれる可能性が高い』

《だが、さっきは他の魔物のカラダに変形していた部位に攻撃しても取り込まれなかったぞ?》

『先ほどまでとは状況が違う。とにかく、まずは距離をとれ。魔物を投げて試すのも悪くないが、絶対に近づくな』


 後悔をしつつのテッドとの作戦会議。

 とりあえず近づいてはいけないということは決まったが、それ以外はほとんど何も決まらない。

 駄目元でゴブリンのカードを戻しながら投げつけてみるも……。


『取り込まれたな』


 大方の予想通り、ゴブリンは何かのカラダに取り込まれてしまったと告げられる。


《攻撃をしようにも、これじゃあ打つ手なしだな》


 魔物を投げれば取り込まれ、おそらくは剣等で斬ったり叩こうとしたりしても取り込まれる。

 当然、拳や蹴りも通じないだろう。


 無敵。

 そんな言葉が頭に浮かぶ。


「フィナンシェ、何か(アレ)にはもう近づかない方がいい。取り込まれる可能性がある」

「うん、近づくのは危険そうだよね。それはわかったんだけど、でも、それならどうしたら……?」


 何かを追って傍まで寄ってきていたフィナンシェにも近づいてはいけないことを伝えつつ様々な攻撃手段とそれを実行した結果を考えてみるも、やはり全て取り込まれる結果に終わってしまうような気がする。

 フィナンシェも何も良い案が思いつかないようだし、こうなってしまってはもう何かを止めることは不可能なのだろうか?


 おそらくはカーベを取り込むために激しく動いた反動で動けなくなっていたのだろう何かが動かない時間を利用して何かから距離をとりつつ色々と思案してみたが、出てきたのはそんな否定的な結論や後ろ向きな考えばかり。

 可能な限り思考を巡らせ続けてはみたものの、結局、何かが再度動き出すまでのあいだに何かを大人しくさせられるような案は何も思いつかず、再起動した何かは俺たちを無視してシフォンたちのいる方へと向かっていった。

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