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必然のひらめき

 油断は禁物。

 たしかに今の一撃でカーベが倒れたような気配はあったが、手負いの者は怖い。

 傷だらけになって覚醒した俺と同じようにカーベもまたここから起き上がりさらなる猛攻を始めてくるかもしれない。

 そう考え、倒れゆくカーベの身体から距離をとり油断なく剣を構え続ける。


《倒せたか?》

『動けはしないようだが、カード化はしていないな。意識もまだあるかもしれんぞ』


 テッドからも完全に倒しきってはいないと告げられているし、まだ気は抜けない。

 慎重になりすぎて機を逃してしまっては元も子もないが、功を焦れば足をすくわれかねない。

 ここは無理に近寄ることなく、何があっても対処できる距離から確実に仕留めるべきだろう。


 それにちょうど一つ、思いついたことがある。


《一つ、試してみるか。テッド、カーベの位置を教えてくれ》

『何かするのか?』

《ちょっと思いついたことをな》

『そうか。カーベなら倒れた時と変わらず正面四メートルの場所だ。両腕と剣を胴体の下に、うつ伏せに倒れている』

《四メートルか。なんとか狙えそうだな》

『何をするつもり……ああ、そういうことか』


 二秒にも満たないテッドとの念話。

 カーベの位置をテッドに確認し腰元の袋から二枚のカードを取り出すとテッドも今からやろうとしていることに合点がいったらしい。

 何も言わずとも作戦を把握したらしいテッドからの言葉に、頷きと行動をもって返す。


《一枚目、行くぞ》


 そう念話を送り、一枚の魔物のカードを手にした右腕を上から下へと大きく振り下ろしつつ、途中でカードを手放す。

 首から胸に差し掛かる辺りで手放されたカードはそのまま縦に回転しつつ真っすぐ飛んでいき――


『ダメだな。これでは届かん』


 ――カーベには届かずに地面に落下。

 落下したそれは、()()()()()()()()()()()()()()()()()


 理想は一枚目からカーベの真上にカードが行くことであったから、結果だけを見れば失敗。

 だが、そもそもカードのような形状の物を投げるのは今日が初めて。一枚目から上手くいくとは最初から思っていない。

 ゆえに、気持ちの切り替えも早い。


《どのくらい足りなかった?》

『一メートル十六センチだな』

《なら、首よりも上で手を放してみるか。それならきっと……》

『届くだろうな』


 カーベをカード化する。

 その目的のためにカーベの上までカードを投擲する算段をテッドとつけ、袋から取り出し左手に持っていたもう一枚のカードを右手に持ち直す。

 そして。


《これで決めるぞ》


 そう宣言し、投げたカードは今度こそ真っすぐとカーベの身体の上へ向かって飛んでいき――






 それを思いついたのは偶然であり、しかし、必然でもあったのだろう。


 カード化せずに倒れ伏したままのカーベ。

 四メートルの距離から近づかずにトドメを刺す手段の模索。

 カーベと会う前に触れた魔物によって作られた魔物の壁。

 さらにその前にカード化し、回収していた数体の魔物のカード。

 戻れと念じてから戻るまでにほんの少しだけ時間が生じる、カードの遅延の性質。


 四メートルの距離からどのようにしてカーベにトドメを刺すべきかと考えたときそれらの事象が点と点を結ぶように一つの線として繋がり、瞬く間に一つの回答を導き出した。


 それが――魔物による圧殺。


 カード化の法則により、この世界の生物は瀕死になるとカードになって回復を始める。

 そしてカードから元の生物へと戻るためには誰かに手に持ってもらいながら『戻れ』と念じてもらう必要がある。

 重要なのは、その際『戻れ』と念じられてから元の姿に戻るまでのあいだにほんのわずかな時間差が存在していること。

 つまり、『戻れ』と念じてから投げれば、タイミング次第では狙った相手の頭上に重量のある生物を落とすことも可能なはず。

 テッドへ確認している途中でカーベから襲撃されて聞けずじまいでいたが、おそらくあの魔物の壁は一度カード化した魔物をカードから戻すことによって積み上げたものだったのではないだろうか。そう考えればあれだけの数の魔物が積み上げられていたにもかかわらず鳴き声や身動ぎの音が一切聞こえなかったことにも納得がいく。


 ……と、そこまで考えてしまえばやることは一つ。

 動けない相手に、遠くから、重量のある魔物を、投げる。

 要するに、所持しているカードの中で一番重いアイアンゴーレムをカーベの上に投げ落とす。

 これが一番安全で、威力が高く、決まれば必勝。


 カード化中はどんな生物も手に持てるほど軽くなっているからこそできる、カード化の法則を利用しての攻撃。

 思いついてしまえばなんてことはない。

 ひらめきから実行までは一瞬。

 迷いはなかった。


 カーベとの位置関係を確認してすぐカードを取り出し、投げる。

 結果、一枚目は残念なことに失敗してしまったが、一枚目の結果を受け修正した二枚目の投擲は真っすぐとカーベの上までカードを飛ばしていき――もはや、運命とでも言うべきなのだろう。

 そこでまた、予期せぬ事態が起こった。

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