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回避、回避、回避

『避けろ!』


 テッドからの念話が届いた瞬間、一も二もなく反射的に左後方へと飛び退る。


『右二、左一、後ろ二、左三……』


 続いて、さらに飛んでくるテッドからの指示に従って身体を動かし続ける。

 何が起こったかなど確認する余裕もない。

 周囲では何かの砕けるような音や何かが溶けているかのような音まで聞こえてきているが、だからこそ、身体を止めることはできず、テッドから状況を教えてもらうこともできない。

 おそらくは何かを飛ばしてきたり魔物のカラダを再現してつくった爪や腕なんかで攻撃してきていたりするのだろうが、今はとにかくテッドの指示に従って動き続ける他ない。


『右四、左一、後ろ三……』


 なおも続くテッドからの指示。

 息つく暇もないが、敵からの攻撃は避けられないほどの速度でもない。

 だが……。


 指示通りに動いた直後、動く直前までいた場所から聞こえてくる大小様々な破砕音とピュッやシュッといった何かが空気を切り裂き飛んでくるような音、じゅうううやじゅくじゅくという何かが溶けるような音。

 それらの音に肝を冷やしつつ、一撃でも食らってしまったら終わりだろうという緊張感のなか強張ってしまった身体を強引に動かす。

 すると当然、身体に無理が出てくる。


「ぐっ……」


 最初の被弾は左足。

 上半身だけを右にそらせという指示のすぐ後に飛んできた左への移動の指示に上手く上半身を引き戻しきれず体勢を崩し、持ち直すために左足で踏ん張った一瞬の遅れが原因となったせいで左膝の少し下をかすめるようにして破壊された地面か何かの破片が通過。

 その破片は足の側面を少しかすった程度だったが、まるで土属性魔法《石礫》のような速度で飛来してきたそれは脚に着けていた革鎧とその下の肉を抉り弾き飛ばすのに十分な速度を持っていたのか少量とはいえ肉を削られたせいで身体全体の動きに影響を及ぼし、いつも通りに動いてくれない身体のせいでさらに左足首に小さな破片が被弾。

 そして、左足への被弾をきっかけに脇腹、左腕、右肩と、次々と身体に何かが当たり、負傷箇所が増加していく。


『左五、右三……』


 不幸中の幸いというべきか全ての箇所への直撃だけは免れているが、だからといって敵が攻撃の手を緩めてくれるわけではない。

 むしろ苛烈さを増したようにも思える敵の攻撃は負傷のせいで思うように動けない身体に次々と無理を強い、痛みと失った重さのせいで上手く動かしきれない身体を徐々に削っていく。

 このままではまずい。

 そうは思うも、状況を好転させる策は思いつかない。


『前三、左一……』


 そもそも、時間が経つにつれ負傷が増加していく身体に敵の攻撃を避けるので精一杯な現状。

 好転どころか次第に悪化していくこの状況下になんとか必死に食らいついている状態の俺にできることがあるとは思えない。

 頼みの綱のテトラたちは俺と戦闘中の何かを避けるために俺たちのいるこの場所からは距離をとって向こうで押し寄せてくる大量の魔物と戦闘中だし、ざっと二十メートルくらいは離れているだろうこの距離だと護衛騎士のうち誰か一人の加勢はおろかシフォンからの回復魔法すら期待できない。

 というか、シフォンの護衛を命題としている上に俺の強さを誤解している護衛騎士たちが俺を助けるためにこっちに来るなんてことはもともとありえないんだが……などと考えていた最中――


『跳べ!』

《跳……え!?》


 テトラたちからの援護は当てにできず俺とテッドの力だけでこの場をなんとかしなくてはいけないとの再確認中、いきなり強い思念を送ってきたテッドの言葉に驚きながらも、染みついた習性なのかテッドの声に反応して身体がその場で大きく跳躍する。

 直後感じたのは、足元から聞こえてきたブォンッという大きな音と髪を上に巻き上げるような斜めに突き上げてくる風。

 何が起きたのかわからず困惑する中さらに着地後、テッドから謎の言葉を告げられる。


『良かったな。とりあえずは凌ぎきったみたいだぞ』

《……凌ぎきった? どういうことだ? それと今、何が起こった?》


 突然の事態にまだ思考は追いついていないが、一つだけわかるのはテッドからの指示がなくなったということ。

 跳躍を最後にあれだけ激しく動き回らされていた敵からの攻撃とテッドからの指示がピタリと止まったみたいだが、これはいったい……?


『先ほどもあっただろう。アレは激しい動きをするとしばらく動きを止める癖があるようだ』

《先ほども……最初に俺たちの前に現れたときのあれか? たしか、急に落ちてきたとかいう……それで、そのあとしばらく動かなかった…………》

『そうだ。それのことだ。今のうちに休んでおけ。アレはいま、大きく激しい動きをしたせいで動けなくなっている』

《大きく激しい動き……さっき下を通り過ぎていったあれのことか。だが、動けなくなっているというなら今のうちに攻撃するべきなんじゃないか?》

『いや、今は休め。直になんとかなる』

《じきになんとかって……》

『とにかく休んでおけ』


 敵が動かないというのなら今が好機なのではないかと思い食い下がろうとしたが、テッドの『とにかく休んでおけ』という言葉によって質問に答えるようにして始まったテッドとの会話が強引に打ち切られる。

 そして――その数十秒後、テッドの言っていた通り状況は一転することとなる。

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