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十七人の敵

 久々の予約投稿。これで今日はいつもより早く眠れる。

 馬を預けた村を離れてから約半日。

 俺たちは広大な森の中に一本だけ通っている道を歩いていた。


「なあ、この道ってほとんどつかわれてないんだろ? それにしては結構しっかりしてる気がするんだが」


 事前に教えられた情報だと馬を預けた村から先、この森の向こう側には人が住んでいない。

 かつては町が存在していたらしいが数百年前にスライムが縄張りから出てきた際に滅んでしまったらしい。

 たまに酔狂な者が森の向こうへ行こうとすることもあるらしいがそれもごくわずか。

 人のいない場所へと向かうような者はほとんどいない。

 当然、この道を利用する者もほとんどいないはずなのだがそれにしてはこの道はしっかりしすぎている。


「うーん、たしかに。私も森の中に一本だけ道が残ってるって聞いて獣道みたいなのを想像してたけど、地面はしっかり均されてるし道幅も馬車二台がすれ違えるくらいにはあるよね」


 利用されない道と聞いて思い出すのは人魔界にいたころ俺の住んでいた町の近くにあったという村へと続く道だ。

 俺が生まれる前に魔物の襲撃によって廃村となったというその村の跡地へと続いていた道は、俺の物心がつく前には跡形もなくなっていた。

 村が滅んだことでその村へと続く道を誰も利用しなくなり数十年。

 昔はそこに道があったと教えてもらったときにはすでにその場所は草木で覆われていた。

 周囲の木よりも細い木の集まっている場所を見て、多分ここに道があったんだろうなと辛うじてわかる程度にしか名残がなかった。

 それに比べると、いつから存在しているのかわからないというこの道は全く利用されていないにもかかわらずしっかりと踏み固められたかのように均されているし草木が生えることで道幅が狭くなっているということもない。


「案外、魔物が道をつかったりしているのかもな」

「そうなのかなー。あ、そういえばここ以外にも人が管理してるわけでもないのになぜか形を残している道や建物があるって聞いたことあるよ! 不思議だよねー」


 森に入ってから十時間以上。

 他愛のない会話をしながら歩き続け、ようやく森の出口が見え始めたところでそれは起きた。

 最初に気付いたのはテッドだった。


『避けろ!』


 突然のテッドからの念話に反応しフィナンシェを突き飛ばしその反動で俺もフィナンシェと反対方向へと飛んだ瞬間、先ほどまで俺たちがいた場所にナイフが三本突き刺さった。

 ナイフの飛んできた方向には顔を隠した黒衣に身を包んだ奴が一人。


「投げナイフ!?」


 驚いたように叫びながら腰から剣を引き抜いたフィナンシェを横目に俺も周囲を警戒する。


「テッド、敵の数は?」

『いまわかっているのは二人だ』


 二人。

 きっと以前襲撃してきた二人組だろう。


「フィナンシェ、最低でももう一人いる! そいつは任せた!」

「うん、任せて!」


 フィナンシェは投げナイフを投げてきた奴と向かい合っている。

 なら俺の相手は姿を見せていないもう一人だ。

 フィナンシェと背中合わせになるようにしながら敵の投げてきたナイフ三本を地面から引き抜く。


『右前方の木の陰にいるぞ』


 テッドの指示した木に向かってナイフを二本連続して投擲。

 一本は敵の隠れている木に刺さり二本目は木から外れあらぬ方向へ、と思ったところで木の陰から出てきた敵の左肩に二本目が刺さる。


「ぐっ!」


 苦悶の声を上げながら敵がこちらに突っ込んでくる。

 対してこちらは敵のマヌケさに一瞬気が緩んでしまった。

 気を取り直し即座に最後のナイフを投擲するもすでに抜かれていた敵の剣に弾かれる。

 敵との距離はあと数歩。

 やられる! と思った瞬間、急に敵が飛び退いた。


『情けないぞ、トールよ』


 チラリと右に目を向けると肩の上にテッドが乗っていた。

 そうか。敵が飛び退いてくれたのはテッドのおかげか。


「ありがとう、助かったよ」

『気にするな』


 危なかった。

 テッドがかばんから出てきてくれなければ死んでいた。


 敵が木の陰から姿を見せると同時に本来外れるはずだったナイフに当たったせいで意表を突かれた。

 予想もしていなかった事態に困惑し、呆けてしまった。


 もしかして敵は対人戦に慣れていないのだろうか。

 一本目のナイフが自身の隠れている木に当たったから居場所がバレていると思って出てきたのだろうが、出てくるときが不注意すぎた。

 俺が地面に刺さっているナイフを抜こうとしたときも俺がしゃがみこんだ際の一瞬の隙を突いてこなかった。


 いや、だが、二本目のナイフによって負傷してからの動きは妙に手慣れていた。

 ナイフを左肩に受けたのは俺を油断させるための演技か?

 実は肩に分厚い何かを仕込んでいて身体には傷一つついてないとか……ありえるかもしれない。

 俺がナイフを拾うときに攻撃してこなかったのも俺たちがもっと油断したタイミングで不意打ちをするためにもうしばらくは潜んでいるつもりだったのかもしれない。

 フィナンシェや俺が疲弊も油断もしていないタイミングで居場所がバレるような真似をするのは愚策だからな。


「トール、ナイフ触ってたみたいだけど大丈夫!?」


 ナイフを投げてきた奴と戦っているフィナンシェから心配するような声が飛んでくる。


 大丈夫? ナイフ? ……あ!

 俺は即座に浄化魔法を自身の身体に重ね掛けし、フィナンシェに返答する。


「大丈夫だ!」


 フィナンシェが言ってくれなければ危なかったかもしれない。


 あのナイフは敵が奇襲用に用意したものだ。

 奇襲に使うナイフならば毒が塗ってある可能性が高い。そして、毒が塗られているのが刃だけとは限らない。

 投げナイフなんかの投擲物を奇襲に使う場合、投げた道具を相手が利用することも想定してナイフの柄なんかにも毒を塗ることがあると人魔界にいた頃に聞いたことがある。

 さっき俺は素手でナイフを触ったが、それだけだ。傷口から体内に毒が侵入したわけじゃないから浄化魔法でしっかり解毒できたはず。


「お前は、カルロスか? それともケインか?」


 俺は対人戦は得意じゃない。

 対人戦の訓練をしたことはあるが実際の殺し合いは初めてだ。

 今も心臓が早鐘を打ち腕や脚が震えている。

 よく、成功している自分の姿を想像するといいなんて言うが、目の前の敵に勝つ自分の姿なんてものは全く思い描けない。


 だから、とりあえず時間を稼ぐため敵に声をかけてみた。

 当然のことながら反応はない。


 先ほどから睨み合いが続いている。

 敵は三メートル以内には近づいてこない。

 何かを投げてきたり魔法を飛ばしてきたりするような様子もいまのところない。


 敵が全然仕掛けてこないのはテッドの魔力のせいで三メートル以内に近づけないからだろう。

 目の前の奴は近接戦専門なのかもしれない。


 かといってフィナンシェのように気合で近づいてくる可能性もあるから油断はできない。


『まずいな』


 フィナンシェが善戦しているのを見ながらそろそろこちらも動かなければと思っているとテッドが不穏な言葉を発した。


《まずいってなにがだ?》


 俺とテッドが情報をやり取りしていることに気付かれないよう念話で会話する。


『敵の数が増えている。九、十、……十五だ。新たに十五人。囲まれているぞ』

《マジか》

『マジだ』

《もっといるかもしれないよな》

『感知範囲外のことは知らん』

《だよな》


 冷汗がつーっと頬を伝った。






 それからは乱戦だった。


 奇襲されてすぐに敵が隠れていた木に向かってナイフを投げたのがいけなかったのか、それともテッドから新たに現れた十五人の位置を教えてもらった際にその方向へと視線が動いてしまったのがいけなかったのか。

 とにかく、敵にこちらの索敵能力の高さが露呈してしまったのが原因で十五人の敵は一切姿を隠そうとしなかった。

 一気に十五人もの敵が森から姿を現してしまったのだ。


 二人と一匹対十七人。


 絶望的ともいえる状況の中、俺はとにかく動き回った。

 敵の攻撃を避けて避けて避けまくった。

 フィナンシェだけはなんとしてでもリカルドの街へ帰すと強く思うことで辛うじて動くことはできていたが、敵を引き付けるのに精一杯で敵を攻撃する余裕なんてなかった。

 ただただテッドの感知能力を頼りにテッドの指示通り敵の攻撃を避け続けた。

 ほとんどの攻撃が三メートル以上離れた距離から繰り出されるものじゃなければ、俺は戦闘開始から数分もしないうちにやられていただろう。


 俺が敵の攻撃を避け続けているあいだ、フィナンシェは流石の動きで敵を翻弄し、一人、また一人と敵をカード化していった。

 それでも、敵の数が多いために手数が減り、防御を強いられることも多くなっていた。

 怪我を負わされてはいないものの次第に呼吸も荒くなっていった。


 どれだけ敵の攻撃を避け続けたのかわからない。

 俺たちが防戦を強いられる中、敵の勢いは全く衰えない。


 おそらく、カードから戻されて強制的に操られている奴らなんだろう。

 自らの意思で俺たちを攻撃しているわけじゃないせいか攻撃に繊細さはないし連携もなっていない。

 しかし、声を出すことも禁じられているのか音もなく繰り出される攻撃を避けるたびに神経がすり減っていった。

 俺はテッドの感知に頼っているからそうでもないが、ほとんど音を立てずに死角から迫ってくる攻撃を避け、防ぎ続けているフィナンシェの疲労は相当のものだっただろう。


 敵はまだ十人残っていた。


 この時点では俺たちはほぼ詰んでいた。

 勝ち目なんてゼロに近かった。


 状況が変わったのは、空が茜色に染まり始めた頃だった。


 俺もフィナンシェも体勢を崩すことが多くなり、敵の攻撃を食らいそうな場面が増えた。

 このままではやられてしまう。

 そう思った瞬間、フィナンシェを囲んでいた敵の一人が急に火に包まれ、さらに俺の近くにいた一人の頭部に矢が突き刺さった。

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