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 俺たち……おそらくはシフォンを目掛けて落ちてきただろう物か生き物かも判然としない何か。

 テッドはその何かに対し、それが生き物だった場合にはかなり有効な手となるスライムの魔力による威圧を試みているが……。


『ソイツが生物でなかった場合は――』

《生物でなかった場合は?》


 気になるのは、その何かが生物ではなかった場合の対処法。

 これまで全てを見通してきたはずのテッドの感知でも生物か否か判別できないようだし、何かというのが生物でない可能性も十分にありえる。

 そしてもしそれが生物でなかった場合にはそれがテッドの魔力に触れたとしても何も変化は起こらず、ただ無防備に突っ立っているだけの俺とテッドなど簡単に斃されてしまう。

 ゆえに、策が必要。

 あるいは策と呼べないまでもある程度の行動パターンは決めておかなければ……もし出だしで遅れでもしたら完全に息の根が止まる。

 とは思うが、残念なことに俺では対処法の一つどころか目の前のこれが動いて襲ってきた場合にどう動けばよいのかすら思いつかない。

 だから、この後のことはすべてテッド頼み。

 ここから先のテッドの言葉は一言一句聞き逃せない。

 そう考え、テッドからの念話に意識を集中させる。

 敵らしき何かがすぐ目の前にいるこの状況。

 テッドの言葉を聞き流したり覚えきれずにもう一度聞いたりといった余裕はない。


 それゆえに――


『ソイツが生物でなかった場合は――お前がなんとかしろ』


 ――後に続いた言葉……何か案があるのだろうと信じていたテッドから告げられたその丸投げの言葉に、愕然とせずにはいられなかった。






 テッドの考えを聞いたらすぐにでもその考え通りに動けるようにと準備を始めていた身体が硬直する。

 ほんの一秒前まで感じていた身体の熱もすっかりとどこかへ消え去り、冷えた身体に滲む汗も冷たい。

 筋肉が強張ってしまったせいですぐには動けそうにない。


《え? ……は?》


 あまりの衝撃に一瞬頭が真っ白になり、なんとか意識を持ち直してから二度、聞き返す。

 だが――


『ソイツの動きが鈍らなかったのならお前が全力でなんとかしろと言ったのだ。安心しろ。指示は出してやる』


 テッドから再度伝えられた内容は先ほどと変わらず。

 さっきの言葉は実はまだ途中で、このあとにさらに何か言葉が続くのではないか……と、淡い期待を抱いてみたりもしたが、そんなことはなさそうだ。


《どうやら本当に何の策もなくその場その場の判断で行動しろと言っているらしいな》

『正体の知れぬ相手に策など立てられるか』

《それは……まぁ、たしかに。それで? お前が出てきてから数秒が経過しているが、その正体の知れぬ何かの様子はどうなんだ?》

『動きに変化は見られたぞ。全体的に動きが速く、激しくなってきている。一見すると何かにもがき苦しみ暴れているようにも思えるが、もともと挙動がおかしな相手だ。確証はない』

《動きが速く激しく……》

『とにかくお前は何が起きても動けるように警戒しておけ。もしかするとコイツが動く前の予備動作かもしれん』


 テッドとの会話でも大した情報は得られない。


 警戒自体は言われずとも魔湧きが始まってからずっとしているしソイツが落ちてきて地面を砕いて以降はさらに注意を深めてはいるが、テッドの感知があっても反応がギリギリになってしまうような何かを相手にたった二メートル程度という至近距離から警戒をしていて何か意味はあるんだろうか?

 この距離でテッドの魔力に触れたせいか挙動に変化はあったらしいが、それがもしテッドの言うように攻撃かなにかのための予備動作なのだとしたら目の前で動いているその何かはテッドの魔力に怯えていない可能性が高いし、二メートルくらいしか離れていないこの距離で先ほど落下してきたときのような速度で動かれたらいくらテッドの指示があったとしてもさすがに対応しきれない。

 警戒することで多少は生き延びる可能性を上げることはできるのだろうが、それはいったい如何ほどの上昇幅なのか。


《というか、そもそもその何かとやらは一体どんな見た目をしているんだ? 物か生物か判断できないということはアイアンゴーレムやアイアンビットのような鉱物型の魔物みたいな姿か?》


 ……と、テッドに訊いてみたものの、アイアンゴーレムやアイアンビットでさえテッドの感知なら一発で魔物だと判別可能なはず。

 たとえ体内に臓物等がなくともカラダの内にある魔力を見れば魔物か否かは判断できるというのがテッドの言だったはずだ。

 となると、まったく姿かたちを想像できないな。

 何かが動いているような気配は俺でも感じられるんだが……。


 俺やテッドとシフォンたちを分断させて以降不気味なほどに次の攻撃を仕掛けてこない何かを訝しみつつもこのまま攻撃してこないでくれと願いながら、少しでも目の前の何かについて情報を知っておきたいと思いテッドに訊ねる。

 すると、すぐに答えが返ってくる。


『カタチは……ない。変形型だ。液体のようなカラダを動かしつつカラダのあちこちから色々な魔物の肉体を現出させては消してを繰り返している』

《色々な魔物の肉体を現出?》

『確認しただけでもアイアンゴーレムの腕、ブルシットホーンの角と蹄、メタルリザードの牙と爪に鱗、ライオニードルの硬質化した体毛、オークの耳……ラシュナのダンジョンから誕生する魔物が多いことを考えると、おそらくは体内に取り込んだ魔物のカラダを自分のをカラダをつかって再現しているのだろう。それもただカタチを真似ているだけではない。内部構造まで完璧に再現されている』

《よくわからないが、面倒くさそうだな……》

『避けろ!』


 目の前の何かの姿についてテッドに確認し、ある程度確認を終えたところでの会話の途中でのテッドからの指示。

 それに従って、すぐさまその場から退避する。


 よくわからないが、面倒くさそうだな。

 そう言い終えるかどうかといったタイミングで、目の前の何かが動き出した。

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