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やっぱり

「トール殿!!」


 耳に届いたような気がしたその声は聞き慣れたテトラの聞き慣れない焦ったような声。

 だが、テトラはシフォンや他の護衛騎士と一緒にラールの防衛に参加しているはず。

 そう思いつつ、耳当てを外してからぐるりと辺りを見回す。


 ……やはり、テトラの姿はない。


「幻聴、か…………。 なぁ、テッド。今の……」


 やはり勘違い。

 テトラがここにいるはずがない。

 しかし万が一ということも……。

 そう思考し、テッドにテトラの声が聞こえたかどうかの確認をとろうとした瞬間――


「トール殿!!」


 今度は、はっきりとその声が耳まで届いた。


《テッド、今の声……場所はわかるか?》

『案内すればいいんだな?』

《頼む》


 テトラの声をはっきりと認識した瞬間、身体はすでに動き出していた。

 テトラがいる=なんとかなるかもしれない。

 その一心で声の聞こえてきた方角にアタリをつけ走り出しながらテッドにテトラの居場所までの誘導を頼み、まだ正確にはテトラの位置を把握しきれていないらしいテッドの指示に従って魔物が迫ってきている方向とは反対側――魔物の壁がある方へと向かってひた走る。


 テトラたちと合流したとして、迫り来る多くの魔物の前では俺は無力に等しい。

 大量の魔物を相手にするには圧倒的に実力が足りず、テトラたちとの実力差と連携を考えると俺が手を出そうとすることで逆に戦況を悪くしてしまう可能性も高いだろう。


 だが、生存のために確率の高い行動を選択することは何も悪くない。

 たとえテトラたちに頼りきりになってしまおうとも生き残るために少しでも確率の高い行動に賭けることは当然のことであるし、テトラたちが近くにいるというのに合流しない意味もない。

 それに、完全に頼りきりということにもならないはずだ。


 テトラたちが魔物を倒すかわりに、俺とテッドからは安全地帯を提供することができる。

 テッドから三メートル以内の距離。

 そこは魔物の立ち入らない空間となり、シフォンをその範囲内に入れておけば気をつけるべきは遠距離からの攻撃くらい。

 シフォンとテトラ以外の五人にテッドのことを説明しなくてはいけなくなるが五人が気づかなかっただけで今までもずっと近くにテッドがいたということはシフォンとテトラが証明してくれるだろうし、シフォンとテトラから説明されれば五人もある程度心配を軽減し守りよりも攻撃に割く力の方が多くなるはず。


 問題があるとすればテトラ含めシフォン以外の六人がテッドから三メートル以内に近寄れないということくらいだろうか。

 もしも護衛騎士たちがテッドから三メートル以内の距離に入ってしまった場合にその護衛騎士がしばらく戦闘に参加できなくなる可能性があるのが怖いが、まぁおそらくはテッドの感知を用いながら俺と六人との立ち位置に気を配ってさえいればそんなことにはならないだろう。


 シフォンの安全を確保することで護衛騎士たちの負担を軽減しその実力を十全に発揮できるようにする。

 まだ仮定でしかなく実際にはどうなるかわからないが今想像した通りに事が運べば生存率がかなり上がるのは間違いない。

 

 と、考えてはみたものの……。


《テトラたちの居場所は?》

『ちょうどいま感知範囲内に入ったところだ』

《なら、一度かばんに入ってくれ。それと、七人揃っているか? 何か問題は?》

『シフォンと護衛騎士が六名。全員いるぞ。負傷者もなしだ。ただし、大量の魔物に追われているようだな』

《本当に魔物だけか? シフォンたちを追っている中に人間がいたりはしないか?》

『落ち着け。感知できる範囲にいるのは魔物だけだ。何を心配しているのかはわからんが、あの娘たちがいれば魔物如き恐れる必要もないだろう?』

《それもそうなんだが……》


 テッドの言う通り、テトラたちの力があればラシュナのダンジョンの魔物程度何百匹来ようが心配はいらないだろう。


 ――だが、俺は知っている。

 この世界に来てから何度も訪れた危機の中で、事態が思うように進んだことがないことを。


 ――ゆえに、俺は知っている。

 こういうときにはさらなる問題が発生するということを。


 これは予想ではなく予感。

 しかも、かなり確度の高い予感。


 これまでの経験と照らし合わせてみてもそれは確かな事実で、間違いなく何かが起こるような予感がしている。


 だからこそ。


「トールさん!!」

「トール殿!!」


 シフォンやテトラたちと合流しても気が緩むようなことはなかったし、油断もなかった。


 だからこそ。


「理由はわからないが魔物たちの狙いはシフォン様だ。すまないが、トール殿とテッド殿にはシフォン様の護衛を頼みたい」


 テトラから告げられた内容に驚くことなくシフォンの護衛にまわることができた。


 そしてだからこそ――


『避けろ!』


 ――テッドのその一声への反応やその後の対処等、その後訪れた不測の事態にも、冷静に対応することができたのだと思う。

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