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勝負ともいえぬ勝負

 振り下ろされたクオールの刀をカーベが真正面から受け止める。

 製造できる者どころか整備できる者すらほとんどいないクオールの刀と違い、カーベが手に持つ得物はどこにでも売っていそうな普通の直剣。

 多少質は良いもののかなり長いこと使いこまれ脆くなっているその剣で、幾度もクオールの攻撃を受け止めては弾き返す。


「オラオラ、どうしたァ!? テメェの全力はそんなもんかよ!!」


 自慢の技はことごとく弾き返され、相手の男に攻撃が通った手応えは一切なし。

 カーベからも荒々しい挑発の声がかけられる中、クオールは決して手を休めることなく、狙いに気づかれないように気をつけながらただひたすらにその時を待つ。


(あと少し、もう少しだ……)


 ――もう少しで、この男の癖を読みきれる。


 激しい攻防を行いながらもクオールは目の前に立つ男――カーベの動きを見切ることに全神経を注ぎ、動きを見切った後は目の前の敵に対し最高のタイミングで必殺の一撃を叩き込もうと考えていた。


(この男は自分よりも強いかもしれないが、未だ全力を出さずに遊んでいる。ならば私が遊ばれている今のうちに……この男が本気を見せるその前に、勝負を決める)


 そう考え、目の前の男の一挙手一投足を見逃さないように、しかし自分が動きを見切ろうとしていることを男に悟られないように、身を削るような細心の注意を払いながらクオールは時が来るのを待つ。


(いま戦っている相手は自分よりも格上の者。動きを見切ったと悟られればその瞬間から小手先だけでは対応できない動きに切り替えられ、全力で叩き潰される)


 そんな考えが胸中に渦巻くがゆえに、より冷静に、より慎重に……。

 長年の戦闘経験からくる自信と判断が、クオールの理性を全力で働かせ、カーベの動きを見極めさせていた。


 しかし……。


 ほんの数分前カーベがこぼした「なかなか倒れない」という言葉。

 カーベがクオールに対しそう言葉をこぼしたのは、クオールの実力もさることながらその身体から放たれる刀の動きに見覚えがなく、軌道が予測できずに翻弄されていたからである。

 だからこそカーベは無理に攻めることをせず、まずは受けに徹しクオールの動きを見ることに集中し、その恐るべき戦闘センスと対応力をもってたった十数分――戦闘時間としては長いが初めて見る相手の動きを見切るには早い時間の中――でクオールの振るう刀の動きに自身の動きを合わせ始めてきた。


 そう。クオールよりも遥かに強いはずのカーベが全力を出していなかったのは、何もクオールとの戦いを楽しんでいたからという理由だけではなかった。

 クオールがカーベの動きを見極めようとしていたように、カーベもまたクオールの動きを見極めようとしていたのである。

 そして――――


「やっと見えるようになってきたぜ。テメェの武器、少し厄介だったが慣れちまえばもう関係ねぇ。こっからは本気でいかせてもらうぜ」


 ――クオールがカーベの動きを見切る前に、カーベが一足早くクオールの動きを見切った。


 カーベが言葉を言い終えた瞬間、カーベの目がスッと細められ、その表情からは愉悦や怒り、焦りといったすべての感情が消え去る。

 クオールがカーベと相対してから初めて見るカーベの本気の表情、真剣な瞳。

 本能が、やばいと直感を告げる。


「まっ……ぐぁあッ」


 瞬間叫びカーベを静止させようとしたクオールの声は、すぐに苦痛の悲鳴へと変貌した。


 ――待て。この先に行かせてなるものか。


 まずはそう叫び、そのあとに後ろにいるランゼへと男の危険性を伝えようとしていたクオールの手足が、ボトボトと地面へ落ちる。

 そして、四肢を斬り落とされ地面に落ちたクオールの頭の上から、冷ややかな声がかけられる。


「なんだよ。しゃべれんじゃねえか。なら、テメェをカードにすんのは後回しだ。あの女をぶっ殺したら名前を聞きに戻って来てやるからそれまでカード化すんじゃねぇぞ」


 そう言い残し、ランゼとトールたちのいる方へ走っていく男の姿を見ながらも手足をもがれたクオールにはもうどうしようもない。


 勝負は一瞬だった。

 否、それは勝負ですらなかった。


 何をされたのか、クオールがそれを認識する前にクオールを斬り捨てたカーベはもはや戦えぬ身体となったクオールをその場に置き去りにし、何の感情も見せぬまま、ただ静かにトールたちのもとに向かって走り去っていった。

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