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祈祷師ランゼ

 ところかわってナール近郊。


 フィナンシェがアブソイーター六号と対峙していた頃、トールとテッドのそばでも大きく事態が動こうとしていた――――




 ――四人の人間と一匹のスライム以外なにものも存在しない空間。

 在るのは、人と、スライムと、小さな祭壇、それと各人が身に付けていた持ち物だけ。

 文字通り外界とは完全に隔離された白い光を発する結界の中で、二人の男が剣を叩き合わせる。


「なにしてくれてんだよテメェら! 俺とソイツが気持ちよく死合ってたってのによぉ。なに横槍を入れてくれてんだよオイ! ぶっ殺すぞ!!」


 一人は、カードコレクター【豪快】のカーベことタナベラカ・ベーラ・イータ。

 自らと戦闘中であった獲物【ヒュドラ殺し】との間に割って入ってきた男女の二人組に激昂しながら剣を振るう。


「……」


 そんなカーベの攻撃を受けきっているもう一人は、トールとテッドに近づいてきた二人組の一人。

 カーベからの文句に一切受け答えすることなくただ黙々とカーベの猛攻を受け続けるその男の目的は、自らと一緒にこの場にやってきた女にカーベを近づかせないこと。


 剣が交じり、甲高くも鈍い音を響かせながらも両者一歩も退くことなくその場で剣をぶつけ合わせ続ける。


 男たちが激しく斬り結び合っている一方、トールとテッドは四角く切り出した岩を四つ重ねただけのようにも見える小さな祭壇の前で静かに横たわり、そして女はそんなトールたちを間に挟みながら祭壇に向かって祈りを捧げていた。


「四方の守り手たる聖獣よ、我が祈りに応じ清廉なる霊神に我が意を届け、帰還の途を授けたまへ。対価として捧げしは神の力を模した力を持つ現人とその現人が使いし式神の御霊――」


 トールとテッドを贄とし願いを果たそうとする()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()冒険者風の装いをした女。

 その女が祈りを続ければ続けるほど、それに呼応するように結界の光も強まっていく。

 これこそが女の持つ力。

 女は、祈祷師だった。






 女――宮坂蘭世(みなさかランゼ)は“世界渡り”の被害者である。

 トールの言うところの地球界に存在する小さな島国で生まれた、小さな島国生まれの女とその島国とはまた別の小さな島国で生まれた男との間に誕生した、いわゆるハーフ人種の女。

 それが宮坂蘭世であり、要塞都市ラシュナに突如として現れた謎の祈祷師ランゼであった。


 ランゼがこの世界にやってきたのは十日前。

 数年ぶりに大学と呼ばれる学び舎に通っていた頃の友人から食事に誘われ、楽しく夕飯を頂いたその帰り道、ランゼはいきなり道の真ん中に出現したその“石扉”になんとはなしに触れてしまい、こちらの世界へと渡ってきた。

 そして、トールとは違い“世界渡りの石扉”のことなど噂ですら知らなかったランゼは突然視界に移る景色が異国風のものに変わったことや夜だったはずの時間が昼間に変わっていることに驚き、困惑した。


 自分は酔って夢でも見ているのか。

 誘拐、はたまたこれが神隠しというやつなのか。


 そんな考えばかりが頭に浮かぶ中、状況を確認しようと近くにいた人に話しかけるも見た目相応というべきかやはり言葉は通じない。

 なにやら剣や弓といったランゼの生まれた国では知識としては知っているものの実際に見たことはないモノを持ち歩いている者もたくさんいる謎の異国風の町。

 要塞都市三の街ユールに“世界渡り”してきてしまったランゼは、わけのわからないうちに突然言葉の通じぬ異国に飛ばされてしまったという困惑と目の前を通過する人々の持つ武器に恐怖し、泣き出してしまう。

 ユールに暮らしていた者たちも、何もないところで急に火がついたかのように虚空から突然現れた言葉の通じない女の扱いに困惑し、とりあえずは街中に不法侵入してきた怪しい女という名目で衛兵を呼ぼうとする。

 そこをたまたま通りかかり、泣いているランゼに声をかけたのがランゼと一緒にトールたちに近づいてきた男――クオールだった。


 過去にランゼのつかう言葉を話す男と四年ほど一緒に旅をしたことがあると言う齢四十六の男クオールの協力もありなんとかその場を煙に巻き衛兵に突き出されることを回避したランゼは、近くにあった酒場の中でクオールから自分の置かれた状況や今いる街のことを聞き、自分が自分の生まれ育った国どころか生まれ育った世界すら離れてしまったらしいという事実を認識する。

 そして絶望……はしなかった。


 幸いなことに、ランゼには一つ不思議な力が備わっていた。

 それは、神仏に祈ることで思ったことを実現してもらえる力。


 あまり大きなことができる力ではなく、祈りを捧げても通じないこともあるが、晴れの日を雨に、雨の日を晴れにと、天気を変えるくらいなら容易くこなしてしまえる力。

 これを応用すればなんとかして元の世界、元の国に帰還することも可能ではないかと考えたランゼは手当たり次第に思いつく限りの祈祷を試し、気づけばいつのまにか祈祷師と呼ばれるようになっていた。


 そしてその後、予想よりも早く魔湧きが開始された日――ランゼはある一つの希望と出会った。

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