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向かう先で

 ラールにて魔物たちの行動に異変が起き、防衛に多大な貢献をしていたシフォンたちがいなくなったことでラールの守りに綻びが生じ始めた頃。


 次に事態が動いたのはシールであった。


「おい、女。お前にはそろそろ退場してもらうぜ」

「テメェがいると仕事になんねえんだよ」


 突如ラシュナのダンジョンへ向かって引き返し始めた魔物たちの行動を訝しみ、明かりの届かぬ闇の中へとひとり魔物を追いかけてきたフィナンシェの前に二人の男が現れ、そう告げる。

 言葉を投げかけられたフィナンシェは明らかに友好的ではないその言い草から敵対の意志を感じ、即座に迎撃の構えをとる。

 頭上から足元まで含めた、全方位どこから攻撃されても反応できる姿勢を整えつつ油断なく周囲に気を巡らせるフィナンシェ。

 そのフィナンシェの目に、新たに五人の人影が映り込む。


「退いて。じゃないと斬るわよ」


 外面モードのフィナンシェが、端的に短く言い切る。


 自分へと話しかけてきた二人の男の前に突然五人もの人影が現れたことと男の一人が言っていた「仕事」という言葉。

 それらの情報から目の前にいる者たちが人間のカードを持ち歩くような存在、おそらくはカードコレクターであると推測したフィナンシェは話し合いは無意味と断じ、たっぷり三秒待っても男たちに動く気配がないことを確認してから一足飛びに相手との距離を詰め、攻撃を開始した。


 まず初めに倒されたのは、フィナンシェから見て一番左に立っていた人影。

 たった一歩で三メートルは離れていたその人影の前まで移動したフィナンシェが、鋭く三回剣を振るう。

 狙ったのは首、両腕、頭。

 最初の一振りで首を両断した後すぐに返す剣で相手の両腕を胸ごと切り裂き反撃を封じ、トドメとばかりに宙を舞っていた頭を叩き潰す。

 すると相手のカード化を確認する間もなくそのまま隣にいた人影にも同様の攻撃を繰り返し、さらにその隣にいたもう一人にも同じ要領でトドメを刺す。

 躊躇すればヤラれる。

 それがわかっているからこそ、フィナンシェの剣に躊躇いはない。


「おいおい、話し合いもなしかよ。そりゃぁあんまりなんじゃねえか?」

「まぁどうせ話し合う気なんてなかったけどな」

「ケケケッ、ちげぇねぇ」


 攻撃を始めたフィナンシェに対し相手の男二人がそんなことを言っている間に五つあった人影のうち三つが斬り倒されるも、男たちに動揺はなし。

 余裕の原因はわからずとも、動揺せずにいられるだけの何かがあるのは確か。

 フィナンシェは気を緩めることなく残りの二人も冷静にカード化していく。


「あ~あ、よっええなコイツら」

「本当につかえねぇな。さっすがザコ」


 四人目が倒され五人目もヤラれようとしている時ですら、この余裕。この言い草。

 しかし言葉とは裏腹に、二人の男は武器を構えたり新しくカードを戻そうとしたりといった行動をとらない。

 そのことに疑問を抱きながらも五つの人影すべてを倒し終えたフィナンシェが残る男二人に近づこうとしたまさにその時。

 フィナンシェの向かうとしていた先。二人の男のさらに後方から、派手な音が鳴り響いた。


「おっ、終わったみたいだな」

「これでお役御免か」


 謎の音が響く中、フィナンシェは音に気をとられることなく二人の男へと剣を振り下ろす。

 そして、何の抵抗もすることなく剣を受け入れる男たち。

 男二人がカード化する直前、大きな音に紛れるようにして何事かを呟いていたのを、フィナンシェは聞き逃さなかった。






 男たちを倒したフィナンシェは魔物たちが引き返していった先、ラシュナのダンジョンへ向かって足を急がせる。

 その最中考えるのは先ほど聞こえた謎の音と倒したばかりの男たちのこと。


(あの大きな音。それにその後の『終わった』『お役御免』って言葉……これってやっぱり、そういうことだよね)


 謎の音が響いた後に不気味な笑みを見せそのままあっけなく倒された男二人と、その男の前に現れた五人の人影。

 人影のうちいくつかが人間でなかったとか人影の中や後ろにさらに誰かが隠れていたとかそんなこともなく、普通にカード化した男たちのカード七枚を集めてから魔物たちの追跡を再開したフィナンシェは『あの二人はカードコレクターじゃなかった』という結論を導き出した。

 より正確には、『あの二人はカードコレクター本人ではなかった』。

 フィナンシェの前に立ち塞がった二人の男もその二人の前に現れた五人も、全員フィナンシェを足止めするための捨て駒であり、おそらくは何らかの準備が整うまでラシュナのダンジョン方面へと誰も通さないことを目的としていた者たちなのではないのかとフィンシェは考える。


 七人でフィナンシェを倒せれば完璧。

 倒せなくとも準備が終わるまでの時間を稼げればそれで良し。

 そういった目的で立ち塞がった者たちであるのなら、散り際の言葉にも納得がいく。

 そしてもしそうであるならば、あの七人を操っていた本当のカードコレクターかそれに準ずる何者かがこれから向かう先にいて、その者が邪魔されたくなかった何かはすでに完了してしまっている。


 すべての魔物が一ヶ所へと集中するように一斉に移動していることと魔物たちが目指しているその場所にいるのではないかと思われる謎の人物。

 その二つに嫌な予感を覚えながら向かった先で――フィナンシェはある一体の化物と遭遇した。

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