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シールにて動き出す者たち

 トールとテッドに敵が近づき、シフォンに向かって魔物の大群が押し寄せ始めた頃、要塞都市二の街シールでは――驚くほど人間側が優位に戦闘を進められていた。


「急げ! すぐに補給を終わらせろ!」

「そこの魔法つかいたち、ラールに向かって《火球》を飛ばしてくれ! そっちの魔法つかいたちはユールに向かって《火球》を頼む!」


 シールの守護を任された兵士たちが忙しなく指示を出し、動き回り、魔物に付け入る隙を与えぬほどの速度で街壁上から矢や魔法を連射する。

 すると、その度に魔物たちがカード化し、地上で戦っている者たちにも余裕が生まれる。

 街壁上からの攻撃が街壁外で戦っている兵士や冒険者たちの力を十全に発揮できる状況をつくり出し、地上で戦っている兵士や冒険者が十全に力を発揮できているからこそ街壁上の者たちも余裕を持って正確に敵を狙うことができるという好循環。


 特に活躍が大きいのは兵士たちの指示に従いつつ街壁の上から魔法を撃ちまくっている火属性魔法つかいたち。

 この火属性魔法つかいたちのほとんどはシール内、あるいはシールの街壁外で寝泊まりしていた冒険者たちであり、魔湧き終了後の特別報酬を理由に兵士たちの指示に従うことを選択した者たちである。

 その中でも一部の者たちは攻撃ではなく光源を作り出す目的で魔法の行使を命じられており、二十名ほどの者たちが常に《照火》や《火球》を宙に浮かべていることによってシールの戦場は他の三つの街の戦場と比べて遥かに明るく、見通しが良い。

 また、他の火属性魔法つかいたちも兵士の指示通りに魔法を飛ばすことによって魔物の数を減らしつつも暗所を明るく照らすという瞬間的な光源の設置と攻撃を兼用した情報収集および他の三つの街への援護を行っており、次々と遠方に向かって火属性魔法を放っていくことによってシールは他の街と比べてより詳細に魔湧きの規模と戦況を把握することに成功していた。


 突然の魔湧き。

 かつてないほどの大量の魔物。

 夜間の戦闘。

 これだけの悪条件が揃っていながらもシールが有利に戦局を進めることができたのは偏に偶然である。


 シールに存在する三つの街門を守り見張っていた夜番の兵士たち全員がたまたまラシュナのダンジョン方面から打ち上がった魔湧き開始の合図をその目にしていたおかげでたまたま街門付近にテントを張って寝ていた冒険者たちを素早く叩き起こすことに成功し、たまたまその冒険者たちの中に火属性魔法をつかえる者が多く存在し、そしてこれもまたたまたま他の街――ラールとナール――と比べて魔物の到着が遅かった。

 そういった複数のたまたまが積み重なり、偶然にもシールは戦局の安定化を可能としていた。


 そしてさらにそこへ冒険者の中でも高位の実力を持つ【金眼】のフィナンシェが現れ戦線に加わり魔物を殲滅するために出し惜しみすることなくその力を振るっていたのだから、もはやシールが危機に陥ることはない、はずだった…………。






 シールの戦況が変化し始めたのはナールやラールにてトールやシフォンに問題が生じ始めた少し後。ラシュナのダンジョン方面に五つの巨大な炎の柱が確認された、その四半刻後のことである。


 その頃、フィナンシェはノエルとシフォンたちの心配をしながら危機に陥った兵士や冒険者たちを援護する役に徹していた。

 魔物に襲われ攻撃を食らいそうな者がいればその者の代わりに魔物の攻撃を受け流し、あるいは攻撃が当たる前に魔物を倒しカード化し、危険な状態の者がいなければ周囲の魔物を手当たり次第にカード化していく。

 その姿はまるで一振りの鋭い剣のようでいて、戦場を駆け巡りつつ他者の命を救っていく様はまるで慈愛溢れる天使のようでもある。


「速さと技の申し子……」

「あれ、【金眼】じゃないか?」


 誰かがそう言った。

 その言葉に、戦場にいる多くの者の意識がフィナンシェへと向けられ、そして確認する。

 自身は無傷でありながらも目にもとまらぬ速さで次々と魔物をカード化していく心強い味方。

 そんな存在がいることを知り、兵士や冒険者たちは普段以上の力を発揮しながら魔物たちの討伐にあたっていく。

 フィナンシェが兵士や冒険者たちの身も心も助け、支えているおかげで人的被害はほとんどなし。

 フィナンシェの参戦から半刻程度。

 戦場には魔物のカードばかりが落ちるようになっていた。


 通常であれば、それはとても良いこと。

 しかし、それをこころよく思わない者たちもいる。


「目障りだな。()るか」

「ああ、()ろう」


 人がカード化しないことを良く思わない者たちが、フィナンシェの排除へと動き出そうとしていた。

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