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魔物たちの変化

 水縹の煌めきが薄暗い戦場に一本の軌跡を描く。

 すると、軌跡の通過点に存在していた魔物たちのカラダが二つに分かれ、斬られ、カード化し、軌跡の近くにいた魔物たちも軌跡を描いた者がその場を過ぎ去ったことにより発生した風圧によってその身を宙へと飛ばされ、地面や、あるいは背後にいた魔物等と激突し、カード化、または動けないほどの重傷の身へと一瞬のうちにそのカラダの状態を変化させる。

 軌跡は数十秒、留まることなくその線を延ばしていき、やがて戦場をぐるりと旋回するとあるべき場所に還っていく。


「シフォン様、魔物の間引きが完了しました。外壁に接近しようとしていた魔物を二百体ほど間引いて参りましたので、これでしばらくは魔物の増加を防げるかと」


 ブルークロップ王国護衛騎士にのみ装着を許された水縹色の鎧を身に纏い、ほんの三十秒ほどの時間でラールの街壁へと迫ろうとしていた魔物たち二百三十二体を蹴散らし戻ってきた張本人――ブルークロップ王国第三王女シフォン直属護衛騎士隊隊長テトラが、ラールの街壁付近にて待機していた自らが守護すべき主シフォンに向かって息を切らした様子もなく当たり前のように結果を報告する。


「はい。テトラたちは引き続き、魔物の討伐を。私の守りよりもラールの守護、ひいては魔物の殲滅を優先して行動してください」

「はっ、ラールの街は必ずや我々が守り通してみせます」


 テトラからの報告を受けたシフォンは正面から大量に押し寄せてくる魔物の大群に気圧され足が震えそうになるのを必死に抑え込みながらも毅然とした態度を心がけつつ気丈に振る舞う。

 それを見聞きしたテトラも、シフォンが震えを我慢していることに気づいたことなどおくびにも出さずにシフォンの言葉へと誓いを返す。


 シフォンたちがトールたちと別れラールに降り立ってから、約三十分。

 その三十分のあいだに、ラールの戦況は大きく変わっていた。

 一騎当千の力を持つ護衛騎士六名とその主である回復魔法の使い手シフォンが戦場に加わったことにより、もはや活路はないと思っていた戦場には光に照らされた大きな希望の道が現れ兵士や冒険者たちもその士気を上げて戦況を大きく盛り返し、現在では魔物との攻勢は逆転。

 シフォンを守るように布陣しながらも的確に魔物の数を削っていく五人の護衛騎士と一人その陣から抜き出て圧倒的な強さによって魔物を殲滅していくテトラの活躍によって、ラールは安定して魔物から街を守ることに成功していた。


 無論、最前線であるラールに配属された兵士やラールを戦場として選んだ冒険者たちの強さも中々のモノ。

 この調子であれば魔湧き終了まで持ちこたえることも難しくはない。

 そう判断できるほど人間側が優勢の状況。

 しかし……。


(本当に、このまま何事もなくラールを守り切れるのだろうか?)


 テトラはラールの死守をシフォンへ誓いながらも、ある一つの不安に胸をざわつかせていた。






 テトラの胸中に一つの不安の種が宿る。

 その種は突如魔湧きが開始された半刻ほど前からゆっくりと成長を始め、今では芽を出そうというところまできてしまっていた。


 思い出されるのはリカルドの街にてヒュドラから追われていた時。

 あの時も、突然のスタンピードに通常では有り得ない数の魔物、何故か追いかけてくるヒュドラと、イレギュラーが重なっていた。

 そして今回も、予定よりも早い魔湧きの開始に想定を遥かに超える魔湧きの規模と、およそ尋常ではない事態が重なってしまっている。


『かつてブルークロップ王国を襲った一万の魔物の群れは、ロール・ブルークロップ王女を狙ったものであった』


 ユールに与えられた屋敷にてバルコニーから魔湧きの開始を確認した時、そんな言葉が数百日ぶりに頭の中で再生された。


 数百年前に起こった大規模なスタンピード。

 それに参加していた魔物たちの狙いはロール王女であった。


 これが嘘か本当かは、ロール王女のいた時代から甦った当時を知る者、トーラに訊いても真相は確かめられなかった。

 ヒュドラに追われた際によぎったその話の真偽を確認しようとテトラはスタンピード後に国に戻ってから色々な文献、智慧者を当たり真相を確かめようとしたが、ついぞ正解を知ることはかなわなかった。

 トーラに尋ねてわかったことはシフォンとロール王女の見た目や雰囲気がそっくりであるということだけ。

 まるで生き写しのように瓜二つであるトーラの証言からシフォンとロール王女には何か共通点のようなものがあるのではないかと推測を立ててみることはできたが、考えることができたのはそこまで。

 まさか魔物が人間の外見や雰囲気を理由に襲ってくるとは思えず、他に考えられるとしたら二人に共通する何らかの力や運命の存在。特に、ブルークロップ王家の者のみが使用できる神授の魔法、回復魔法に理由があるのではないかと考えもしたが、シフォンの回復魔法の腕が他の王族と比して優れているということもなければロール王女にも特殊と呼べるような力はなかったとトーラが言っていた。


(だから、もしかしたらロール王女が狙いだったかもしれないと言われているスタンピードもシフォン様を狙っていたように感じられたあのヒュドラも、すべては根拠の薄い戯言、勘違いだったのではないかと判断していたのだが……)


 テトラはそう考えながら目の前の状況を冷静に見つめ直す。

 十秒、二十秒、三十秒と見つめ――そして、気づく。


 ラシュナのダンジョンから溢れ出した魔湧きの魔物たちが、徐々にその行先を、シフォンのいる方へと変え始めていた。

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