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ラールの戦況

 要塞都市一の街ラール。

 この街はラール、シール、ユール、ナールの中で最もラシュナのダンジョンに近い場所にあり、必然、来襲する魔物の数も四つの街の中で一番多い。

 それ故に守りも堅く、要塞都市内で最も多くの戦力を配置されている場所でもあるのだが、今回の魔湧きは普段の魔湧きとは事情が違った。

 普段の魔湧きでは、魔湧き開始前にはダンジョンの入口から膨大な魔力が噴出したり何体かの魔物が少しずつダンジョン外へと出てきたりと、何らかの兆候が表れてからその後一気に大量の魔物がダンジョンの外へと飛び出てきていた。

 しかし今回の魔湧きにそのような兆候はなく、疾風のように唐突に、そして急速に、魔物の大群が洞窟型ダンジョンの一つ、ラシュナのダンジョンに存在する唯一つの入口から湧き出てくることとなった。


 ダンジョン入口から次々に外へ出てそのまま正面へと直進――要塞都市ラシュナに向かって直進していく魔物たち。

 対して、魔湧きに対抗する人間側には気の緩みが存在した。

 予定では魔湧きはまだ数日先。常ならば兆候が発生してから動き出したとしても魔物が街に到着するまでには余裕で迎撃撃退の準備が完了する。

 そんな思い込みと油断が、人間たちの動きを鈍らせた。

 予定よりも早く何の兆候も見られないまま始まった突然の魔湧き発生。

 ダンジョン付近でダンジョンの入口を見張る役目を負っていた兵士たちはその状況に驚きと戸惑いを感じながらもあらかじめ決められていた通りに街へと魔湧きを知らせるための火属性魔法《火球》を空に向かって発射。それを確認した街で見張りを行っていた兵士たちは街の住民に対しすぐに警戒令を発令し、各部署、各兵士たちへと魔湧きの開始を報せに走った――が、不運なことに時刻は夜。

 いつ魔湧きが起きてもいいようにと五日ほど前から街門付近の兵舎や詰所に兵士や街の重鎮のほとんどが詰めてはいたものの、魔湧きはまだ先だと思い就寝してしまっていた兵士たちの中にはすぐに目を覚まさない者もおり、夜間訓練も行っていたとはいえ暗い夜の中では日中ほど早くは動けない。

 そして、今回の魔湧きの発生と魔物たちの行軍は唐突且つ迅速。

 ただでさえ動きの鈍る夜の中、気持ちにおいても油断があり心の準備ができていなかった兵士たちはその半分近くが初動を遅らせ、魔湧きに備え外に配置されていた篝火のすべてに火を灯すことも叶わぬままに魔物たちに街へと張り付かれることとなった。






 要塞都市一の街ラールを統括する立場にいるガルブ・ス・ドュ・ドールは、自身の執務室にて頭を抱えていた。


「魔湧きの突発、異常な数の魔物、対応の遅れ、冒険者たちの被害、戦力の低下……」


 数日後に迫った魔湧きに対し準備を進めつつ魔湧きとは関係のない事務作業も進め、やっとのことで本日分の仕事が終了しベッドに向かうとしたそんなときに突如もたらされた魔湧き開始の報。

 それを皮切りに次々ともたらされる凶報を前に、ガルブは状況を好転させる策を思いつけずにいた。


「せめてこれが夜でなかったのならば……」


 せめてこれが夜でなければ。

 まだ日のある日中であったなら、兵士や冒険者たちも起きていて初動が遅れることもなく、篝火に火を灯す時間も準備に充てられ、篝火の明かりが及ばない場所でも戦闘を行うことができた。

 今回の魔湧きの規模が異常なほどに大きいことを考えても、ここまで追い詰められるようなことにはならなかったと考えられる。


 しかし実際は、魔湧きが起きたのは夜であり、魔湧き開始当初の兵士や冒険者、特に見張りや夜番の義務のない冒険者のほとんどは就寝中であり、そのせいで街の外にテントを張って生活していた冒険者の半数近くが何もできぬまま魔物の襲撃によってカード化、あるいは戦闘に参加できないほどの傷を負わせられてしまった。


 兵士たちだけで対処するには難しい規模の魔湧き。

 そういった魔湧きの際に活躍し、役に立つのが冒険者という存在であった。

 当然、四つの街の中で魔湧きの被害を一番受けやすいラールに集まってくる冒険者たちの多くは腕に自信のある実力者であり、こういった際には非常に有用で重宝されるべき存在であった……のだが、突発的な魔湧きと夜、そして魔物たちの数の多さといった不幸が重なってしまったせいでその半数がすでに戦線を離脱。


 著しい戦力の低下を前に魔湧き開始からわずか半刻ほどの時間で要塞都市一の街ラールは背水の陣といった様相を呈し、絶望的な状況に追い込まれていた。

 そしてだからこそ、ガルブが頭を抱えていた頃より数分後にもたらされるブルークロップ王国護衛騎士たちの参戦にガルブやラールで戦っていた兵士や冒険者たちは希望を見出すことになるのだが……。

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