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もしかして俺たちのせい?

 子どもたちの世話をした日から十日が経った。


 あれから毎日、三~五つの依頼をこなしている。

 一日に複数の依頼をこなしているといっても街中での雑用依頼ばかりなため実入りは少ない。

 稼いだ報酬のほとんどはその日の生活費に消えている。

 それでも、人魔界にいた頃と比べたら格段に良い生活が出来ているし収支が赤字になった日はない。

 本日も依頼を四つこなしたため黒字確定だ。

 あとは冒険者ギルドに行き依頼達成の報告をして報酬を受け取ってから飯を買って宿に戻るだけ。

 今日も美味しいものを食べ、良いベッドの上で快適に眠ることができる。

 冒険者業は順調であると言えるだろう。


 襲撃については、カルロスたち二人と出会った日の夜以降一度もない。

 何も起こらないのが不気味でしょうがないが、相手の正体も目的もわからない状態では何も手が出せない。

 フィナンシェの予想ではテッドを狙ったカードコレクターによる襲撃の可能性が高く、カードコレクターは狙った獲物が手に入るまで何度でも襲ってくるようなしつこい連中が多いという話だった。

 そのため再び襲撃があると予想していたのだが、もしかしたら襲撃者たちはあの一度の襲撃で諦めたのかもしれない。

 前回の襲撃の結果は散々だったし俺たちから手を引いたんじゃないか。

 そう思いたくなるくらいには平穏な日常を送れていた。


 カルロスたちと出会った日以降一度もないというと、あの日以来一度もカルロスの姿を見ていない。

 ケインの姿は何度か目にしたり、筋肉ダルマからあいつがいたぞと忠告を受けたりもしたがカルロスの姿は全く見ていない。

 カルロスが姿を見せないのはどこかの室内に籠っていたりこの街を離れているからではないかといくつか理由を考えてもみたが、どれもしっくりこなかった。

 しっくりこなかったのは、ケインが一人で行動している理由が思いつかなかったからだ。

 ケインはカルロスの護衛であるはずだ。

 それなのにこう何度も、それも数日にわたってケインが一人で行動しているというのはおかしく思える。

 ケインがカルロスを護衛していない理由を考えれば考えるほど、このあいだカード化させた襲撃者の正体がカルロスだったからではないかという考えが強くなった。

 それに、カルロスたちが襲撃者の正体だと考えられる根拠はもう一つある。


「トール、また見られてる」

「ああ、わかった」


 今フィナンシェが小声で告げてきたことこそ、カルロスたちが襲撃者の正体だと考えられるもう一つの理由だ。


 ここ数日、俺たちは何者かに監視されている。

 常に行動を監視されてるわけじゃないみたいだが、少なくとも依頼達成の報告のために冒険者ギルドに向かう途中から冒険者ギルドを出るまでのあいだは毎日のように監視の目を感じるらしい。

 俺は視線を感知できないからテッドやフィナンシェが感知して報告してくれるのだが、どうも冒険者ギルドの周囲で視線を感じることが多いらしい。


 そして、俺たちや筋肉ダルマがケインを見かけるのも冒険者ギルドの近くだ。

 朝に見かけたこともあれば夕方に見かけたこともある。しかし、見かける時間帯は違っても見かける場所はいつも冒険者ギルドの近くだ。

 ケインの行動範囲と俺たちが視線を感じる場所が見事に被っている。


 ケインが襲撃者で俺たちを監視しているのなら何の目的があって冒険者ギルド付近で俺たちに姿を目撃させているのかわからないが、フィナンシェの話だと監視している者はわざと俺たちに監視していることを気付かせているような気がするということだった。

 もしケインが監視者であるのなら俺たちの前に姿を見せているのも監視していると気付かせているのもすべて俺たちに精神的な負荷をかけるための作戦かなにかなのかもしれない。

 個人的には、俺たちにもう敵は襲ってこないかもしれないと思わせてから不意打ちをした方が効果的なような気はするが、敵は俺がスライムをカード化できるくらい強いと勘違いしている可能性もあるらしいし不意打ちよりも精神に影響を与えた方が良い結果が得られると判断したのかもしれない。


 それよりも気になるのはカルロスがいまだに姿を見せないことだ。

 もうとっくにカードから戻されているはずなのに姿を見せないのが物凄く怖い。

 昨日ケインを見かけたときもカルロスは一緒じゃなかった。

 これは、ケインが俺たちの監視、カルロスが俺たちをカード化するための準備というように役割分担されているからだろう。

 つまり、今こうしているあいだにも俺たちを倒すための準備が進められているってことだ。

 こんなに恐ろしいことはない。


「トール、聞いてるのか!」

「うわっ、なんだ!」


 いきなり大声が聞こえてきてびっくりしてしまった。

 前を見るとギルド長がいる。

 隣にいるフィナンシェはなぜか顔を青くして固まっている。

 というか、いつの間にかギルド長室のソファに座らされている。

 どうして俺はギルド長室にいるんだ?


「なんだじゃねえ。ったく、大事な話をしてるってのにちゃんと聞いとけよ。どっから聞いてなかった?」

「最初からです」

「何も聞いてなかったのかよ。大物だなお前。ああ、いや、スライムを連れてる時点で大物だってのはわかってたことか。まぁいい。もう一度説明してやっから今度はちゃんと聞いとけよ」


 まだよくわかってないが何か大事な話があってここに呼び出されたらしい。

 なんだか最近こんなことばっかりだな。

 考え事をしているうちに目的地に着いてたりいきなり知らない場所にいたり。

 俺に考え事をさせて集中力を削ぐのが敵の企みだとしたらその企みは成功している。

 なるほど。ケインがわざと一人で姿を見せていたのは俺たちに混乱を与えるためだったのか。

 などとふざけている場合ではない。

 今度こそ話を聞き逃さないようにしなくては。


「めんどくせえから簡単に言うとだな。スライムがこの街に接近してきてるからなんとかしてくれ」

「嫌です。お断りします」

「なんでだよ!」


 なんでだよ! じゃねえだろ。受けるわけないだろそんな危険な依頼。


 ……え? だって、スライムってあのスライムだよな?

 どうしてそんなのが街に接近してきてんだよ。

 ここ数百年はスライムが縄張りから出てきた記録はないってシアターで観た映像ではそう説明されてたぞ。

 なんでこのタイミングで出てくるんだよ。


「報酬ならカナタリ領の領主様がたんまり用意してくれるらしいぜ? なぁ、受けてくれよこの依頼。お前ら以外に何とかできそうな奴いねえんだよ」


 相変わらず威厳のかけらも感じられないな、このギルド長からは。

 お前ら以外に何とかできそうな奴がいないと言われても俺にもどうにもできない。

 ギルド長は俺とテッドの実力を誤解してるから俺たちに頼んできたんだろうが俺たちにスライムをどうこうする力なんてない。

 今のこの状況は死にに行けと言われてるようなもんだ。

 俺はまだ死にたくない。


 俺たちの実力を誤解してるのが原因なら、もういっそ俺たちが異世界から来たってバラしてしまうか?

 そうしないと無理にでもスライムの所に連れて行かれそうな雰囲気を感じる。

 ただ、俺たちが弱いとわかったらそれはそれで問題があるような気もするんだよな。

 そもそも異世界人だとバレたら酷い目にあわされるかもしれないから黙っているんだ。ここでバラすのは得策じゃないだろう。

 かといって依頼を受けない限りはこの部屋から出してもらえそうにないし、この際、依頼を受けるふりしてそのままこの街から逃げてしまうか。

 スライムが近づいてきているんだ。

 そのうち情報が出回って街の人たちも避難し始めるだろうし俺がスライムを何とかしなくても街ごと住人が消し飛ばされるなんていう最悪の事態にはならないだろう。

 俺だって救ってやれるもんなら救ってやりたいがそんな力は持ってない。

 俺にできることは逃げることだけだ。

 っと、その前に一つだけ聞いておこう。


「どうしてスライムが接近してきてるんですか? スライムはここ数百年縄張りの外に出てないって聞いていたんですが」

「ああ。俺も色々考えてみたんだがな。最初はどっかのバカなカードコレクターがスライム欲しさにスライムに手を出しちまったのかとも思ったんだが、お前等のことを思い出してな。もしかしたらお前の連れてるスライムに引き寄せられてるんじゃねえかって可能性に思い至った」

「……は?」

「いや、だから。スライムどうしでなんか引き寄せ合ったりしてんじゃねえかなって思ったわけだ俺は。そうでもなきゃ急にスライムが縄張りの外に出るなんてありえねえことなんだよ」


 ……なるほど。

 数百年縄張りから出てこなかったスライムが急に縄張りから出てきてこの街に接近し始めた。

 何が原因か、過去数百年と今で違うものは何かと考えるとスライムであるテッドの存在に行き着くわけだ。

 筋は通っている。

 たしかに、スライムが縄張りを出なかった今までとスライムが縄張りを出た今を比べるとテッドの存在が何らかの影響を与えているようにも思える。

 この街に接近しているというよりもテッドに向かって近づいてきているのかもしれない。

 テッドが原因じゃなかったとしても俺とテッドが“世界渡り”してきたことでスライムになんらかの影響を与えてしまった可能性もある。

 ってことはだ。スライムの接近は俺たちのせいかもしれないってことだ。

 しかも、スライムがテッドに向かってきているのならこの街から逃げても意味がない。

 俺の人生、終わったかもしれない。


「わかりました。その依頼、受けます」


 俺は力なくそう言った。

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