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 アイアンゴーレムの魔力を吸い出してから約一分。

 ついにそのときが訪れた。


「うおっ、急に感触が……ッ!?」


 テッドの魔力に怯えて動けなくなっていたアイアンゴーレム。

 そのアイアンゴーレムのカラダに押し当てるようにして手を置いていたせいで急に支えを失った身体が前へと倒れそうになる。


 アイアンゴーレムのカラダがなくなった……?

 ということは――


 そこにあったモノが突然消えたような感覚と現在進行形で倒れかけている己の身体。

 これらの情報から導き出される答えはただ一つ。


 アイアンゴーレムが――力尽きた。


 刹那に浮かんだその答えが正しいと証明する念話が、テッドから送られてくる。


『カード化したな』

《みたいだな》


 慌てて体勢を立て直し、転倒を回避。

 足元を探るとたしかに一枚のカードが落ちている。


《これがアイアンゴーレムのカードか?》

『そうだ。間違いない』


 いま手に持っているカード。

 これがアイアンゴーレムのカードかどうかはこの暗闇の中では確認できないが、テッドが言うのなら間違いないのだろう。


《それにしてもアイアンゴーレムは魔力を失うとカード化するんだな。それに、思ったよりも早くカード化した。魔力を吸い出しきるまでにはもっと時間がかかると思っていたんだが……》


 魔力を失うと動けなくなるというのはテッドの分析通り。

 しかし魔力を失うとカード化するというのは予想外だった。


 いや、ゴーレム種は魔力=体力なのだから魔力を失えばカード化するのは当たり前か。

 人間だって体力を失えば命が尽きる。

 魔力を失っても動けなくなるだけでカードにはならない……そう考えていた俺の方が浅はかだったな。


『次行くぞ。早くしろ』


 自分の浅慮に薄く笑みを浮かべているとテッドから次のアイアンゴーレムの場所に向かうという念話が送られてくる。


 たしかに、余裕のある今のうちにどんどん魔物を倒していくべきだ。

 そのためには遠距離から攻撃を仕掛けてくるアイアンゴーレムの排除が必須であるし、そもそも魔湧き中に時間をムダにするのはよくない。

 だが……。


《待て。他のアイアンゴーレムの前にこの辺りの魔物をカード化しておきたい。魔物までの誘導とその魔物の急所の位置を頼む》


 先ほどアイアンゴーレムから魔力を吸い出していた際、そして今こうして突っ立っているあいだも、どこかから攻撃が飛んでくるということはなかった。

 つまり、今この近くにはアイアンゴーレムはいない。

 それならば攻撃の飛んでこない今のうちにこの辺りの魔物を一掃しておくべきだ。

 この近辺の魔物はすでにテッドの魔力に触れて動けなくなっているはずだし、テッドの協力があればこの暗闇の中でも的確に魔物の急所を貫くことができる。


 弱き者が挫かれるは世の定め。

 動けぬ魔物などただの的でしかない。


 ――とはいえ、新しく湧いた魔物たちも次々とこの場に向かってきていることだろうしあまりうかうかとはしていられない。

 のんびりしていると大量の魔物に囲まれ身動きがとれなくなってしまう可能性やフィナンシェたちのようにテッドへの怯えを克服する魔物が現れてしまう可能性もある。


 一体ずつ、素早く、確実に。


 テッドの魔力に威圧されながらも多少は動ける魔物もいるかもしれないということを頭に入れ、油断なく着実に魔物を減らしていこう。






 手に触れていたモノが突然消失する感覚。


 これで、四体目のアイアンゴーレムもカード化した。


《たしかコイツで終わりだったな》

『正確には、確認できている個体は今のヤツで最後、だな。感知範囲内に入っていないアイアンゴーレムの数までは知らん』


 アイアンゴーレムをカード化したらまた次のアイアンゴーレムへ。

 そうやって間にいる魔物も倒しながら魔力を吸い出させてもらったアイアンゴーレムたち。

 二体目から魔力を吸い出している最中にテッドから伝えられた情報通りならば今カード化したヤツが最後の一体だったなと思いテッドに確認すると、感知していたアイアンゴーレムはすべて倒したという嬉しい報告が返ってくる。


 近くにいたがテッドの感知範囲内にいなかったアイアンゴーレムやラシュナのダンジョンから新たにやってきたアイアンゴーレムたちがこの付近をうろついている可能性はあるが、今のところはそれらしい気配はない。

 アイアンゴーレムが移動する際に聴こえてくる重量感のある足音が聞こえることもなければ俺たち目掛けて物が飛んでくることもないし、ひとまずはすべてのアイアンゴーレムを倒し終えることができたと考え、安心していいだろう。


「はぁ~」


 この辺りの魔物はあらかた狩り終えたし危険は少ない。

 そう思うと、浅くはない溜息が出る。


《ここまでほとんどずっと走りっぱなしだったからな。少し休憩するぞ》

『休むのなら門まで退いた方が良いのではないか?』

《いや、門から離れた地でひとり何をしていたのかと訊かれたら面倒くさい。身元を確認される過程で俺が【ヒュドラ殺し】だとバレでもしたらさらに面倒なことになりそうだし、今は門の前や街の中よりもここの方が数段落ち着ける》


 アイアンゴーレムや他の魔物たちを倒しているときに街門付近からこちらの様子を探るように動く火の明かりを見たような気もするし、警戒されているかもしれない中に出ていって矢や魔法を射かけられたりでもしたらたまったもんじゃないからな。


 未知の危地より既知の危地。

 テッドの感知があれば魔物からの奇襲は防げるわけだし、まだ最低限の安全が保証されているここにいた方が危険は少ないだろう。

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