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無駄な消耗

 まさしく想定外の事態。

 魔湧きの日が予定よりも四日以上早くやってきてしまったらしいが……。


「しかし、一体どうして……」


 どうしてよりにもよって今日。

 せめて明日だったらもう少し体調も回復していたのに……。


 こんなことならシフォンに回復魔法をつかってもらっておけばよかった。


『魔湧きが始まったのか?』

《ああ、そうらしい。もう少し休んでいたかったんだがな》

『なに、予想が外れるなぞ珍しいことでもない。それよりも、今から戦うのだろう?』

《そうなるな》

『それならば魔力残量に気をつけろ。先ほど魔力をつかってコマを回せないかと、色々と実験してしまった』

《なにしてくれてるんだお前》


 所詮は予想。外れることもある。

 だから、魔湧きが予想よりも早く始まってしまったことは想定外ではあるもののそこまで驚くことでも悲観することでもない。


 だが、魔力が消費されてしまっていることは別だ。

 コマを回せないかなんていうくだらない理由のせいで魔力が無駄に消費されてしまっているなどまさか夢にも思わない。

 しかもわざわざ忠告してきたということは従魔契約によって共有化されている俺の魔力まで使用してしまったのだろう。


 俺が寝ているのをいいことに自分の魔力だけでは飽き足らず俺の魔力まで勝手に使用するとは……従魔契約による魔力の共有化は利点しかないと思っていたが、こうも勝手に魔力を使用されてしまうとなると魔力総量の多くない身としては不便なところもあるな。


 まぁ、仕方ない。

 テッドもこんなに早く魔湧きが始まるなんて思っていなかったからこそコマ回しなんてことに魔力をつかってしまったのだろう。

 ただ単にタイミングが悪かっただけだ。

 あとで今後は俺の魔力を勝手に使用しないように言い含める必要はあるが、俺も予想できていなかったのだから魔湧きの開始が早まる可能性も考慮できなかったのかとテッドを責めることはできない。

 というより、今はテッドを責めている場合ではない。


「要塞都市からの情報はまだ届いてないけど、そんなことを言っている場合じゃないわね。全員急いで準備しなさい! アタシたちもすぐにあの場所へ向かうわよ!」

「うん! 準備ができたらまたここに集合してノエルちゃんの浮遊魔術で壁の外まで向かおう!」

「シフォン様、こちらへ。足元にお気をつけください」


 ノエルの号令を聞き、全員が屋敷内へと戻っていく。


 俺も急ぎ部屋に戻って準備を整えなければ。


 今が夜で視界が悪いからということもあるだろうが、ラシュナのダンジョンの魔湧きで魔物がユールまで到達することはほとんどないと聞いていたのに壁の外から聞こえてくる音の様子だとかなりの数の魔物がすでにこの街の壁外まで到達してしまっている。

 このことから考えるに、おそらく今回の魔湧きの規模はかなり大きい。

 本来なら就寝時間であることからしてまだ寝ている者や起きたばかりの者が多く各街の壁外に十分な戦力が集められていないという可能性もある。


 なんにせよ、ノエル、フィナンシェ、護衛騎士たちの殲滅力が高いことは間違いないのだし、俺たちが早く戦闘に参加した方がいいことは明白だ。


『夜の戦闘だ。魔光石は忘れるなよ』

《テッドこそ、かばんの中の物を勝手に出したりしてないだろうな。コマ以外にも出されている物があったら準備の時間が無駄に増えることになるぞ》

『……心配せずとも手間を増やすようなことはしていない』

《今の間はなんだ?》


 部屋に戻り、防具を装着。

 剣を腰に差せばあとはかばんを背負うだけ。

 もともと荷物の少ない俺としては着ていた服装に武器と防具を身に着けかばんを背負えば戦闘準備は完了となる……はずだったんだが、さっきテッドの返答までに変な間があったことが気になるな。

 一応確認しておくか。


 かばんから出された物がないか確認するため魔光石に魔力を注ぎ、明るくなった室内をくまなく調べる。

 テッドの言っていた通り、かばんから出された物は見つからない。


《たしかにコマ以外にかばんから出された物はなさそうだな》

『先刻そう伝えただろう』

《それが信用できなかったからこうして調べたんだ。お前が紛らわしい間をつくったせいでまた余計な魔力と時間を消費したぞ。反省しろ》


 気が急いているのかほんの少しテッドへの当たりが強いような気もするが、まぁこのくらいは軽口の範囲内だろう。

 そんなことよりも今は早くバルコニーへ。


 念のためテッドがかばんに入っていることをもう一度確認し、それからバルコニーへと急ぐ。

 部屋を出て廊下を走り、階段の手前でシフォンと護衛騎士たちと合流し、バルコニーですでに準備を終え俺たちを待っていたノエルとフィナンシェと合流。


「全員揃ったわね。じゃあ行くわよ!」


 ノエルがそう宣言した瞬間その場にいた全員の身体が宙へと浮かび上がり、なおも戦闘中の壁外へと向かって加速しだす。

 普段の馬に牽引されながらの飛行よりは格段に遅いが、夜の闇によってほとんど何も見えないせいかいつもとは感じが違う。

 これから大量の魔物との戦闘が待ち構えているということも相まって気持ちが落ち着かない。


 …………なんというか、予想よりも早く魔湧きが始まったことやおそらく普段の魔湧きよりもすっと規模が大きいことといい、また面倒ごとに巻き込まれてしまっている気がしないでもない。

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