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黒煙の原因

 要塞都市という名に恥じぬ頑丈そうな建物が立ち並ぶ街並み。

 そんなあらゆる攻撃にも耐えられそうな街の中にもうもうと立ち昇る、巨大な黒煙。

 最初は一本の細い線のようにも見えたその黒煙はどんどんとその範囲を拡大していき、今や空の一部を黒く染め上げてしまっている。


「何かあったにしては街の人間が落ち着きを払っているわね」

「そうだよね。みんな全然慌ててない。祭りごとかなにかなのかな?」

「シフォン様とトール殿たちはここでお待ちください。我々で様子を確認してまいります。リオン、頼む」

「はっ、行ってまいります」


 ノエルとフィナンシェが煙を気にすることなく平然としている街の人たちの様子を訝しみ、テトラが護衛騎士の一人に命令して煙の発生源の確認に行かせる。


 こうしているあいだにも煙はその範囲を拡大しているが、街の者は普通に生活を続け、煙を気にした様子はない。

 ……ということはこの光景は事故などが起こったということではなく、フィナンシェの言うように何かの祭りごとの一環なのかもしれない。


『何かあったのか?』

《街中から煙が上がっているんだ。火の手が上がっている姿は見えないが煙の広がる速度が速い。何かが焦げているような匂いもするし、確実に何かが燃えているな》

『火事か?』

《いや、火事ではなさそうだ》


 煙の下に目を向けても火の姿は確認できず、焦げ臭い匂いはしているものの悲鳴などは聞こえない。

 おそらく計画的に何かを燃やしているのだと思うが、魔湧き前の景気づけかなにかだろうか?


「ラシュナにこのような祭りごとがあるという話は聞いたことがありませんが……」

「でも、みんな普通に生活してるし事件なんかがあったわけじゃなさそうだよ?」

「いずれにせよ、問題はなさそうね。街の人間が落ち着いているということはもしこれが予想外の事態だったとしてもそれを簡単に解決できるだけの力がこの街にはあるってことだもの。放っておいてもいいなら早く先に進みましょ」

「ノエルちゃん、まだリオンさんが帰ってきてないよ」

「そういえばそうだったわね……ただ待っているだけというのも暇だし、あそこの店でも覗いてくるわ」

「あ、私も行きたい!」

「私も行きたいです。あの、ご一緒しても……」

「もちろんいいに決まってるじゃない。全員であの店に行くわよ」


 フィナンシェたちの興味はもう煙から外れてしまったのか高そうなアクセサリーが大量に置いてある店に向かっていってしまったが、リオンが戻ってくるのを待たなくてもいいのだろうか?

 何も伝えていないのに急に居場所を変えてしまったらリオンが戻ってきたときに俺たちの居場所がわからず困ってしまうことになると思うんだが……。


「トール殿、心配はいらない。ここにはアンジェを残しておく。トール殿も気になる店があるのなら覗いてくるといい」

「そういうことなら……」


 俺がリオンとの待ち合わせの心配をしていたことに気づいたのかテトラが声をかけてくる。

 テトラの後ろでは護衛騎士の一人アンジェことアンジェリカがこちらに微笑みを向けながらその場で待機しているし本当に問題はなさそうだが……さて、どこに行くか。

 フィナンシェたちを追いかけるのも悪くないが、せっかく新しい街に来たのだからこの街ならではといったモノを見てみたいという気持ちもある。

 しかし、この街ならではのモノがどこにあるのかなんて知らないしな。


《テッドはどこか行きたいところあるか?》

『一時の方向にある店だな。初めて見る肉を売っている』

《初めて見る肉か……じゃあ、そこに行ってみるか》


 こういうとき、テッドの感知能力は便利だな。

 今までに見たことのないものを瞬時に見つけることができる。






「美味かったな」

『ああ、美味かった』


 テッドの行きたいという店に向かっていたら食べ物を扱う店ばかりを覗くことになってしまったが、結果的には悪くなかった。

 最初に行った店の肉は口に合わなかったもののそれ以外の三店で購入した品はどれも美味しかったし、見たことないものを扱っている店を探すように指示していたおかげで新しい味覚を堪能することもできた。

 当初の思惑通りこの街ならではの食べ物を口にすることができて大満足だ。


「それで、調査の結果はどうだったのだリオン?」


 テッドからリオンが戻ってきたのを感知したと聞いて戻ってきた先ほどフィナンシェたちと別れた場所。

 アンジェリカがシフォンたちを呼びに行き、全員が揃ったところでテトラがリオンに煙の原因を問いただす。


「黒煙の原因は祈祷師と名乗る女性が大量の木や葉を燃やしたことによる火災です。その女性は十日ほど前にこの街にやってきたらしく、物を燃やすことで様々な願いを叶えることができる力の持ち主という話を聞きました。あの黒煙も街の者に願われ発生させたもので危険はないということです」

「了解した。ご苦労だったな」


 リオンの報告が終わるとテトラがその労をねぎらう言葉をかけ、その後「しかし祈祷師か……。聞いたことがないな」と呟く。

 どうやら、テトラやシフォンでも知らない言葉らしい。


 まぁ、テトラたちが知っているか否かはおいておくとしても、モノを燃やして願いを叶える力の持ち主か。

 煙が発生するというのは少し迷惑だが、世界には色々な力を持った者がいるんだな。

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