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揺れる想い

 この世界の武器は重く、その重さで長さもある長剣はゴブリンには扱いきれない。

 だが、いま俺の隣を浮遊しているゴブリンたちからの戦利品の中にはその長剣がいくつも含まれている。

 ゴブリンたちが長剣を使用していた姿も俺は見ている。

 そして、テッドは言った。


『――そこにある長剣、軽いぞ』と。


 それはつまり、俺の横に浮かんでいるこの武器の内いくつかはこの世界で作られたものではない可能性が高いということ。


 これでも、この世界に来てからいくつもの国をまわってきた身だ。

 この世界の武器の構造や重さがどの国も大差ないことは知っているし、特別軽い武器を扱っていた店なんかも今のところは知らない。


 テッドの感知は物体の内部構造まで見通すことができる。

 ここにある長剣がこの世界の長剣よりも軽いというのは間違いないだろう。


 …………ん? あれ?


《待て。魔物が力を求めるという話はどうなった。その話とここにある武器が軽いことに何か関係があったか?》


 魔物は力を求めるもの。

 しかしその考えはこの世界の魔物には当てはまらないかもしれない。

 だから――という話だったはずなのに、どうして長剣が軽いという話になったんだ?

 魔物は力を求めるという話はどうなった。


『わからないか? 魔物は力を求める。だがこの世界で見かけたゴブリンたちの中に長剣や槍等の重量や長さのある得物を扱っているものはいなかった。それがもし、これまで長剣等を扱うゴブリンに遭遇しなかった理由がこの世界のゴブリンが力を求めない存在だからなどという理由ではなく手に入れたとしても扱えないから放置していたという理由だったのだとしたら――という話だ』


 そこまで言ってテッドが念話を止める。

 今一つ理解しきれなかったためにまだ説明の途中なのかもしれないと思い、続きの言葉を待ってもみたがいくら待てども続きの言葉はなし。

 どうやらさっき念話ですべての説明が終わってらしい。


 しかし、どういうことだ?

 結局のところ魔物が力を求めるというあの話には何の意味があったんだ?

 説明されたはずなのになんとなくしか理解できなかったんだが、いくらなんでも説明が下手すぎるのではないだろうか?


 とりあえずわかっている情報から推測してみると、この世界のゴブリンが力を求めているかどうかはわからない。しかしもし求めているのだとしたら長剣なんかの有用な武器を扱わない理由は何か……と、いうことを俺に説明するためにその話を出しただけ、ということになりそうだが……。


《浮遊魔術で移動中のいま、俺が武器に触れられないこの状況においてそこに浮いている武器が軽いということを納得させるために引き合いに出しただけで魔物が力を求める云々という言葉自体には特に深い意味はなかったと。そういうことか?》

『そうなるな』


 そうなるのか。


 要するに、そこに浮いている武器が軽いということに説得力を持たせるためだけの言葉だったわけか。

 考えすぎてなんだか損をしたような気分だ……。


 しかし、それはそれとしてゴブリンたちが使用していた武器の中にこの世界のモノではないかもしれない物が混じっていたということは興味深いな。

 それも一本や二本ではなく三十本以上の長剣とテッドは言っていた。

 武器だけこちらの世界に来てしまったということは石扉に触れない限りは起こらないと言われている“世界渡り”の条件からして考えにくい。

 ということは、最低でも複数人の人間がこの世界まで飛ばされてきているはずだ。


《武器の状態はどうだ? 損耗具合なんかからいつ頃作られた物かわからないか?》


 何年前に作られた物かどうかはわからなかったとしても、どのくらいの期間手入れされていないかということくらいはわかるはずだ。

 ゴブリンに武器を手入れするだけの知能があるとは思えないし、手入れされていない期間がわかればその人たちがいつ頃その武器を手放したのかがわかる。


『製造年や製造場所はわからないが、手入れされなくなってからは一年も経過していないな。人間の手を離れたのは最近なのではないか?』


 これらの武器が人の手を離れたのは最近。

 それなら、この武器を持っていた人たちもまだこの近くにいるかもしれない。

 もし近くにいなかったとしても、その者たちが外界に行ってしまったとは考えにくいし、内界を探し回ればいつかは会える可能性も高い。


《テッド、これはもしかし……》

『トール。わかっていないようだから言っておくがそこにある武器はゴブリンの巣にあったものだ。おそらく持ち主はすでに殺されている』

《……え?》

『たびたび孤児院のことを口にしていたお前のことだ。“世界渡り”をしてきた可能性の高いこの武器を持っていた者たちから話を聞けば元の世界へと戻る手がかりが掴めるやもしれぬと希望でも見出していたのだろうが、お前がこの武器を持っていた者たちと出会える可能性は限りなく低い』


 言われてみれば、武器を使用していた者が死んでしまっている可能性はかなり高い。

 というか、ほぼ確実に死んでしまっている。


《いや、“世界渡り”してきた者がどこかで武器を売ってその武器を買った者がゴブリンに襲われたとか、さっきの山にたまたま大量に武器を落としてしまった可能性とかもあるんじゃないか……?》


 とりあえず反論してみたが、可能性は低いな。

 どれも現実感がない。


『もう一つ伝えておくことがある。そこにある武器はたしかに人魔界の武器に似た構造をしているが、それらの武器が人魔界から来たという確証はない。人魔界と似た製造技術を持つ、どこか別の世界から持ち込まれた物かもしれない』


 たしかに、その通りだ。


『お前が人魔界に帰りたいと思っていたとは知らなかった。希望を持つことを悪いことだとも思わない。だが――』


 俺も人魔界に戻れるなどとは思ってもいないし、戻りたいなどとは考えたこともないはずだった。

 しかし、人魔界を恋しく思う気持ちがないのであれば俺以外にもこの世界に渡ってきた者がいるかもしれないと知ってわずかながらも心が弾んだ理由に説明がつかない。

 だからだろうか?


『――叶わぬ希望ならさっさと捨ててしまった方が気が楽だぞ』


 テッドから伝えられたその言葉に、胸を締め付けられるような痛みを覚えた。

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