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街案内二日目 後編

 すいません。今日も少し投稿遅れました。

 シアターを出て次の目的地へと向かうあいだ、テッドやフィナンシェと劇の感想を言い合った。

 テッドは一言、なかなかに興味深かったと言っただけだったがこれはテッドの中では最大級の賛辞だ。かなり楽しめたのだろう。

 フィナンシェに至ってはあの場面は凄かった、この場面ではもうダメかと思ったなどと興奮した様子で語っていたかと思うと、十人の騎士たちがスライムの進行を食い止め人類を救ったところまで話が及んだところで急に涙を流し始めた。

 この劇を観るのは三回目だと言っていたのにここまで感動できるなんて本当に面白いやつだな、なんて思いながらフィナンシェの泣き顔を見ていたが、じゃあお前はあと二回あの劇を観たとして泣かないでいられるかと訊かれたらノーと答えるだろう。

 流石にフィナンシェほど素直な反応はしないだろうが劇の内容を思い出して少しうるっとくるくらいはするだろう。それほど心に響くいい劇だった。

 まぁ実際には劇ではなかったらしいんだが。


 劇が始まる前に疑問に思った映像やら投影やらといった言葉の意味をフィナンシェに尋ねたら、俺たちが見たのは劇じゃないっぽいことがわかった。

 映像というのは過去の出来事を記録したもののことで、その映像を俺たちに見えるように実体化させることを投影と言うらしい。

 ただ、シアターで見た映像は実話ではあるものの実際に過去にあった出来事を記録したものでも、実話をもとに誰かが演じた劇を記録したものでもないらしい。

 ではあの映像はなんなんだと訊くと、あの映像は幻惑魔法によってつくられた情景を記録したものであり、実体のない幻惑魔法を映像として記録できるのは科学魔法都市だからこそできることなのだと自信満々の顔で胸を張ったフィナンシェに教えてもらった。


 しかも、シアター内に投影される映像からは観客に向かって幻惑魔法が飛ばされているらしく、ただでさえ幻惑魔法を記録することでつくられたリアリティある映像の力が何倍にも増幅されて直接心に響くらしい。

 映像の内容をまるで自分が実際に体験しているかのように感じられたのはその幻惑魔法の重ね掛けともいえる構造のせいだったみたいだ。

 音に関してもスピーカーと呼ばれる道具から精神干渉の魔法効果が乗せられた大きな音が出ていたらしく、さらに物語に引き込まれるような工夫がされていたらしい。






 二番目の目的地は冒険者ギルド数十個分くらいの広さの農場だった。


「リカルドの街に流通している作物のほとんどはここで作られるんだよ。すごいよねー」

「へー、そうなのか」


 食べることが大好きなフィナンシェが言うのだから間違いじゃないんだろうが、この街に流通している作物のほとんどがここで作られているにしては農場が小さすぎる気がする。


「なあ、どう見てもそんなにたくさんの作物が収穫できるようには見えないんだが」


 そう尋ねると、見てればわかるよと言われた。

 教えてくれそうにないので仕方なく農場を見ること三十分。俺の目の前では信じられないようなことが起こっていた。


 三十分前、農場に来たばかりの頃は俺の足首くらいの高さだった作物が今は俺の膝くらいの高さまで成長し、他の作物も、花が見る見るうちに果実になったり、先ほど種が植えられたはずの場所からもう芽が出ていたりする。


「なんか、ありえないくらい成長していないか?」


 人魔界で畑仕事を手伝ったことがあるが作物はこんなに早く成長しなかったはずだ。

 普通は何十日、何百日と世話をしてやっと収穫ができるようになるはずなのにこのペースだとたった数日で収穫できてしまうのではないだろうか。


「えへへー、この成長がここのすごいところなんだ」

「どうなっているんだ?」

「えーとね、実は――」

 

 ちょっと気になってきいただけなのにフィナンシェによる講義が二十分も続いてしまった。

 さすがフィナンシェ。食べ物のこととなるとやけに詳しい。


 重要なところだけ抜き出すと、科学と魔法をかけ合わせて何倍もの効果を生み出すという例の凄い装置によって管理された特殊な土と水を使用しているためにそのような生育スピードが実現している、といったところだろうか。

 正直、どんな土や水なのか、それらがどのように作物の成長に関わっているのか、だからここの作物は美味しいんだよねとか色々言っていたがほとんど耳を通り抜けていってしまった。

 ここの作物が美味しいということと話し終わるなりその作物をフィナンシェが早速買いに行ったということだけはよくわかった。


 作物の成長関連の話で一番驚いたのは収穫までの期間の短さだ。

 農場には何種類もの作物があったが、収穫までに一番時間がかかるという作物でさえ十日に一度は収穫できるというのだから凄いとしか言いようがない。


 しかし、個人的にはそれよりももっと驚くことがあった。

 俺が一番驚いたこと。それは、飛行ロボットの存在だ。


 この農場での収穫は人の手ではなくロボットと呼ばれる小型の人工ゴーレムの手によって行われている。

 作物を世話し、収穫まで行ってくれるロボットの存在だけでも驚嘆に値するのだが、そんなロボットが農園内にたくさんいて、しかも、木に生っている果実を収穫しているロボットがなんと空を飛んでいたのだ。

 その光景を見たときは思わず目と口を大きく開けた状態で一分ほど固まってしまった。


 人魔界では人の手による飛行魔法の実現は不可能とされていた。この世界にも飛行魔法は存在していないらしい。

 しかし、科学と魔法の力を合わせることで飛行するロボットの作成には成功したというのだ。

 正確には飛行魔法ではないが、ありえないと言われていたものを目の前にして体が硬直してしまっても仕方ないだろう。


 飛行したままその場で停止したり収穫された作物の入れられたかごを持ってどこかへ飛び去って行ったりする姿はまさに夢のようだった。

 飛行ロボットは物の運搬等の用途で農場以外の場所でも使われているらしい。

 俺とテッドがこの街に来てからも何度か俺たちの近くを飛んでいたらしいがまったく気が付かなかった。


「トール、そろそろ次の場所行くよー!」


 どのくらい飛行ロボットを眺めていたのかわからないが、この農場で収穫されたばかりの作物を両手で抱えるほどの量購入してきたフィナンシェに呼ばれ俺たちは次の場所へと向かうこととなった。






 農場の後は色々なところを見て回った。

 疲労回復・魔力回復効果を持つ公衆浴場や特殊な調理法を用いた料理を提供してくれるフィナンシェおすすめレストラン、服屋で大きさや色を自由に変えられる服を上下一セット購入したり科学魔法都市でしか手に入らない物を売り物にしている科学魔法屋と呼ばれる店を何軒か回ったりもした。


 街中を移動する際に利用したワープゲートという名の不思議な扉も科学魔法都市ならではのものだった。

 ワープゲート自体はこの街を歩いている最中に何度か目にしたことがあった。

 見た目は地面に描かれた半径一メートルくらいの魔法陣の中心に扉が一つぽつんと立っているだけのものだ。

 建物も壁もないのに扉だけがあるのを見て、変なオブジェがあるな、くらいにしか思っていなかった。

 まさか、その扉が街中にいくつもあってそのすべてが行き来できるように繋がっているなんて思わなかった。

 フィナンシェに言われ、試しに一度開けてみたときはそれはもうびっくりしたものだ。

 なにせ、農場近くにあった扉を開けたらその扉から徒歩にして一時間の距離は離れているだろう冒険者ギルド近くの扉に通じていたのだから。

 しばらくは開く先の扉を色々と変更しながら扉を開けては閉めてを繰り返してしまった。


 科学魔法屋の商品も面白い物ばかりだった。

 魔力を流すだけで中に込められた魔法が発動する拳程度の大きさのボールや映像を記録できる道具に記録した映像を見るための道具、科学魔法都市とその周辺でのみ使用できる情報通信装置等々。


 シアターに行った影響か、映像関連の道具はすべて購入してしまった。

 他にはテッドが興味を示した、ただただ回り続けるだけのコマというおもちゃを俺、テッド、フィナンシェの人数分購入して宿に戻ってから皆で回して遊んでみた。

 回っているコマよりも、普段はあまりはしゃがないテッドが回っているコマを見てやけに興奮しているのが面白かった。


 宿に戻る直前、冒険者ギルド近くで出会った筋肉ダルマから、こないだの二人組の片方がお前等のことを見ていたから追い払っといたぞと伝えられた。


 筋肉ダルマが姿を見たのはケイン一人だけだった。

 

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