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ゴブリンたちの謎

 焼け焦げた地面や凍った地面、穴だらけになった地面。

 二十分ほど前とはすっかり姿かたちを変えてしまった崖下の地形がノエルの魔術によってどんどん元の姿を取り戻していく様はまさに圧巻といえる。


 ただ、かなり広範囲の地面が一斉に姿を変えていく様はどこか不気味なようにも見えるが……なんというか。


「器用なもんだな」

「アタシを誰だと思っているの? このくらい当然よ。けど、アンタが褒めたいっていうならもっと褒めてもいいのよ?」


 器用と言われて気を良くしたのかノエルが誇らしげに笑みを浮かべるが、胸を張って褒めてもらいたそうにしているその姿からは一流の魔術師らしさというものがまるで感じられない。

 こうしていると見た目通りの女の子にしか見えないな。

 いや、ノエルの実際の年齢より幼くも見えるから、見た目以上に子どもっぽい女の子、だろうか?


 というか……。


「いつも褒めてるだろ」


 ことあるごとにノエルの魔術の腕を褒めている覚えがあるんだが、俺の言葉はノエルの耳には入っていないのか?


「いつも褒めてるですって? ……何よソレ! 随分と上からの物言いじゃない! アタシのことバカにしてんの!?」

「いや、そんなつもりはないが」

「じゃあ、どういうつもりなのよ!」


 なぜか激昂してくるノエル。


 そんなに上からだっただろうか?

 思ったことをそのまま伝えたつもりだったのに、どうしてノエルが怒ったのかよくわからないな……。


 まぁしかし、今の反応からして俺の言葉を全く聞いていないというわけではなさそうだ。

 ということは、これまでに俺が送った言葉も今みたいな感じで何か勘違いした受け取り方をされてしまっていたのかもしれない。

 ノエルが何をどう勘違いしてどのように俺の言葉を受け取ったのかはわからないが、あまり良い受け取り方はされていなかったのだろう。


 誤解があるなら解いておくべきか?

 それとも、何も言わずに不満を吐き出させた方がいいか?


 ……今のノエルに何を言ったところで更に誤解が深まるような気しかしないし、放っておいた方がいいかもしれない。

 ある程度愚痴を言わせておけばいつものように大人しくなるだろう。


『戻ってきたぞ』


 ちょうどいい。

 フィナンシェたちも戻ってきたようだし、それを理由にノエルのそばから離れるか。


「フィナンシェたちが戻ってきたみたいだ。話を聞いてくる」

「あ、ちょっと! まだ話は終わってないわよ!」

「ノエルはそのまま地形を元通りにする作業を続けてくれ。フィナンシェたちからの報告は俺とシフォンで聞いてくる。シフォン、話を聞きに行こう」

「え? ノエルさんとお話しなくてよろしいのですか? 怒っているみたいですけれど」

「大丈夫、いつものことだ。少しすれば機嫌も直る。それよりも早くフィナンシェたちからの報告を聞きに行こう。今はそっちの方が重要だ」

「え、あ、はい」

「ちょっと何言ってんのよ! いいわけないでしょ! ちゃんと話を聞きなさいよ! ねぇ、待ちなさいってば! …………もうなんなのよアイツ!」


 とりあえず、ノエルがあの場を動けない今のうちにできるだけ遠くまで逃げてしまおう。


「あ、トール! シフォンちゃん! おーい!!」


 フィナンシェが大きな声を出しながら大きく手を振ってくる。


 たまたま集落を離れていたゴブリンの残党やゴブリンとは全く関係のない他の魔物が近くにいるかもしれないのにあんなに大きな声を出していいのだろうか?

 ……と思ってはみたものの、フィナンシェや護衛騎士たちの戦力を考えれば大丈夫か。

 それこそヒュドラ級の魔物でも出てこない限りは相手にもならないだろう。


「フィナンシェ、お疲れ様。ゴブリンの総数と捕えられていた人間がいたかどうかを教えてくれ」


 この場所はノエルからもいい感じに距離が離れている。

 ここなら報告を聞くのにちょうどいいだろう。


「うん、わかった。でも、報告はノエルちゃんもいるところでね。その方が手っ取り早いから」


 …………なるほど。一理ある。


「あー、そうだな。その方が説明も一回で済むもんな」

「うん! 早くノエルちゃんのところに行こ!」


 ……なんとかノエルから逃げ延びたと思ったんだが、まぁそうなるよな。






「一通り見てきたけど人間のカードは一枚も落ちてなかったよ」

「ゴブリンのカードは全部で八百一枚でした。内五枚が上位種です」


 フィナンシェに続けて護衛騎士の一人が言葉を述べる。

 上位種というのはたしか特別な力を持った個体のことだったか……ゴブリンではなくゴブリンマーシャルやゴブリンロードと記載されているこの名前が微妙に違うカードたちが上位種だろうか?


「この規模の群れだから上位種くらいいるんじゃないかとは思っていたけど、ゴブリンロードなんて厄介なやつまでいたのね。人間の方は……残念だけど食べられちゃったみたいね」


 ノエルが護衛騎士の一人が差し出してきたカードを一枚手に取りながらそう感想を口にする。


 やはりこのゴブリンロードというやつは上位種で間違いないみたいだな。

 他の四体の上位種もゴブリンマーシャル、ゴブリンスマート、ソーサラーゴブリン、カッパーゴブリンの四枚でおそらく間違いはないだろう。


 それにしても、ゴブリンに食われるだなんて想像するだけでも恐ろしいな。

 武器を持ったゴブリンが百匹はいたことを考えると、武器をいくつも所持していた者やゴブリンがどこかで拾ってきた武器が含まれていたとしても最低五十人くらいはゴブリンに食べられてしまったことになるのではないだろうか。

 八百一匹という数からして、二百や三百……もしかしたら千以上の人間が食べられていたとしてもおかしくはない。


 なんにせよ、誰も助からなかったことは気の毒で、ひどく恐ろしくもある。


「周辺も調査してみましたが、大した情報は得られませんでした」


 極めつけはどうしてこれだけの数のゴブリンたちがここにいたのかわからないということ。

 この近くの町や村の者はここにゴブリンがいたことを知らないのか、それとも知っていながらも手が出せずに懊悩としていたのか。

 内界内に七人いるという予言者たちは誰一人として世界の危機を予言していないという話を数十日前にギルド長から聞いたような気がするが、これも今までに体験してきた異常事態とやらの一つなのではないかという気がしてならない。

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