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狩りという名の殲滅戦

「《炎嵐》! 《氷葬》! 《泥粘土》!」


 立ち昇る炎の渦に凍結著しい死氷の世界。

 逃げようとする魔物には泥のような色をした土が地を這って追いかけ捕まれば最期、カラダをまとわりつくその土によって圧死または窒息死させられる。


 右に炎に左に氷。

 恐怖に足を止めれば地を這う土にその身を掴まれる。


 焼死。

 凍死。

 圧死。

 窒息死。


 遠慮なく降り注ぐノエルの魔術によってその身を炎に、氷に、あるいは土に包まれながら焦がれ、凍え、捕えられカード化していく大量のゴブリンたち。

 けたたましいほどの断末魔の悲鳴が耳に痛い。


「フィナンシェ殿、そっちを頼めるか!」

「任せてください!」


 さらに追い打ちとばかりに護衛騎士とフィナンシェの七人が所狭しとその死の世界を駆け巡る。

 もともとの機動力の違いに加えノエルが各人に張った《支点》という結界のおかげで炎や氷や土を気にせずに走り回れるからか、その勢いはもはや逃げ回るゴブリンたちとは比べものにならない。

 焦土や凍土の上でも難なく走り回る七人を前に次々とゴブリンたちがカード化していく。


 シフォンはいざというときの回復要因として居場所を明確にするためという理由でゴブリンの集落を見下ろせる崖の上に待機。

 俺とテッドも気軽に全力を出せないと思われていることや焦土や凍土等の足場の悪い場所での戦闘に不慣れということが理由で回復要因であるシフォンの護衛役として崖上待機を命じられたわけだが……。


「これ、ノエルだけで十分だったんじゃないか?」

「そうですね。噂には聞いていましたけど凄い魔術です……」


 戦場を見渡せる方が都合が良いという理由で同じく崖上から魔術を放ち続けているノエルに目を向けたあと、シフォンと二人そろって戦場へと視線を戻す。

 ゴブリンたちが造っていた簡素な家はあっというまに燃え尽き、凍り、破壊し尽くされ、見ていた限りではまだ一匹もこの戦場から逃していない。


 見下ろすかぎり大量のゴブリンの群れ。

 そしてそれを見たノエルはやる気満々。

 このまま成り行き任せにしておくとゴブリンたちとの戦闘が始まってしまうわけなんだが、シフォンたちはそれでいいのだろうか?

 ……などと考えていたことがバカらしくなるほど一方的な殲滅戦。


 護衛騎士としてシフォンの身の安全を第一に考えるならここは一度近くの町まで撤退して準備を整えたあとにまたここに戻ってくるべきなのではないかと言った俺に対し「我々に加えトール殿たちがいるのだ。何を心配する必要がある?」と返してきたテトラの気持ちが今ならわかる。

 あのときはテトラからの返事の直後にシフォンから伝えられた「この国の王女としてこれだけの規模の魔物の群れを見過ごすわけにはまいりません」という言葉に納得してしまい「そういう理由があるのならいいのか?」とシフォンたちと一緒にそのまま戦うことを選択したが、今も繰り広げられる崖下での殲滅戦の様子を見ればたしかに護衛騎士六人に加えてノエルやフィナンシェまでいるというのは過剰戦力にも程があるということが痛いほど理解できる。


 これはもう、戦場ではなく狩場と言った方がいいかもしれない。


 援軍を要請したり装備や道具を整えたりなんてする必要もなく、わずかな人数にいつもの装備だけでゴブリンたちを狩っていく八人。

 その姿はまさしく一人一人が一騎当千の猛者。


「武器を持ったゴブリンが百匹以上とか、全部で何百匹いるのかとか、そんなことは全く関係なかったな……」


 おそらく、フィナンシェがいまトドメを刺したのが最後の一匹だったのだろう。

 ゴブリンの姿はもうどこにも見当たらない。


『終わったか?』

「ああ、終わった。戦闘開始から何分だ?」

『十七分と二十一秒だな』

「たったの十七分か……」


 全部で何百匹いたのかは知らないが、崖下をその醜悪な緑で埋め尽くすほど大量にいたゴブリンの群れを殲滅するまでに要した時間はわずか十七分。

 味方ながら、恐ろしい殲滅力。


 一匹一匹がそれほど強くないゴブリンが相手だったとはいえあれだけの数をこの短時間で殲滅できるのなら、ラシュナのダンジョンの魔湧きもそう時間をかけずに鎮められるのではないだろうか。

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