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ゴブリンという魔物

 一匹見たら三十匹はいると思え。

 それが、この世界でのゴブリンの扱いらしい。


 ゴブリンは繁殖力が強く、凶暴性も高い。

 仲間同士で殺し合いをすることもしばしばあり、仲間以外を見つければ確実と言っていいほど襲ってくる。


 ゴブリンを見つけたら警戒し、即討伐または逃亡せよ。

 これが、戦闘を得意としない者たちに伝わるゴブリン発見の際の鉄則。

 戦闘を生業としていない者にとってゴブリンの存在は百害あって一利なし。

 暴徒の前に自ら身をさらす馬鹿はいない。


 では、冒険者はどうか?


 冒険者には荒くれ者が多い。

 戦闘に自信を持っている者も多数いる。

 そして戦闘に自信を持っている者のほとんどはゴブリンよりも強い魔物を狩れる実力の持ち主。

 当然、力を持ち血気盛んな冒険者たちはゴブリンを見つけるとすぐに「獲物だ!」と言ってゴブリンに突撃を仕掛け、その結果、命を落とすことも多い。

 たかがゴブリンと侮ったがゆえの全滅、カード化。

 ゴブリンに倒された者のカードは誰にも見つけてもらえず、人間がカード内で精神を保っていられる十五日という期間を大幅に超えてしまうことが多い。


 しかし、そういった者たちはまだ良い方。

 ある程度の実力を持った者は自身の限界を知っているし、危険に対する鼻も利く。

 冒険者歴が長ければ高い確率でゴブリンに負けた際の危険性も知っている。

 そのような者たちは早い段階で見切りをつけ、撤退の判断を下せる可能性も高い。


 本当に危険なのは、戦闘経験の少ない初心者。それと無知な者。

 冒険者に成りたての者は冒険者になった折に初めて自分専用の武器を手にすることも多く、武器の力を自分の力と誤認・過信してしまう傾向にある。

 大した実力がないにもかかわらず武器を手に入れたことで勝気や自尊心を増大させてしまった者は総じて短絡的な行動に走り、九割九分の確率でカード化してしまうというのが冒険者の間での常識。

 初心者でなくても新しい武器を手に入れたらその性能を確かめたくなるのが性。

 それが初心者ともなれば自分が一足飛びで強くなったと勘違いしてしまっても仕方がない。

 そして初心者であればあるほど、ゴブリンの危険性について知らないことが多い。

 結果、ゴブリン程度と近づいていき、死に至る。

 無知な者も同様にゴブリン程度となめてかかって死に至る。


 ゴブリンにカード化された者にとって最悪なのは、カード化したのち誰にも見つからずに引き返せないところまで精神が崩壊してしまうこと。

 一方、それ以外の者たちにとって最悪なのはゴブリンの中にカード化を戻せる個体がいた場合。


 群れをなし、武器を扱うことも可能なゴブリンたち。

 その中には稀にカード化した生物をカードから戻せる個体が存在する。


 もしその個体に当たりカードから戻されたとしたならば、その者に待つ未来は死あるのみ。

 運が良ければ生き延びられる可能性もあるが、よほど条件が揃っていない限りはカードから戻された直後の逃亡は不可能。

 逃亡に失敗した者は生きたままゴブリンに喰われ、ゴブリンの血肉へと変わることとなる。


 魔物の血肉となり、武器や防具等の装備や道具、場合によっては大量の食糧までもを魔物に提供、果ては魔物がその数を増やすための栄養にもなってしまう存在。

 それが中堅以上の冒険者や魔物についての講習を一通り受け終えた兵士たちから嫌われる『餌』と呼ばれる者たちである。


 餌という呼称自体はゴブリン以外の魔物に捕まった者に対しても使用されるが、『ゴブリンの餌』となると他の魔物の餌となった者たちとは扱いがだいぶ変わる。

 ゴブリン以外の魔物の餌となってしまった者には憐みや揶揄を含んだ言葉が投げかけられ、ゴブリンの餌となってしまった者には侮蔑と怨嗟の声が投げかけられる。

 これは人間一人が餌になることによって三匹のゴブリンが十日は生き延びられるほどの食料となってしまうからであり、また、人間の扱う武器がゴブリンの扱う武器としても丁度良い大きさをしてしまっているためである。

 ゴブリンに捕まった者は肉体から持ち物に至るまでその全てをゴブリンに利用され、それらを利用したゴブリンたちはまた新しく人間を襲い、捕え、その数を増やす。

 ゴブリンに利を与え人間に害を与えてしまう存在であるがゆえに、ゴブリンの餌は他の魔物の餌よりも強く嫌悪されているということらしい。






 ――と、ここまではなんとなく理解できたが……。


「それで、ここには何匹くらいのゴブリンがいそうなんだ?」

「さあ? 武器を持っているゴブリンだけでも百匹以上はいるんじゃないかしら?」


 ラシュナのダンジョンへと向かう途中、異変を感じたというフィナンシェに連れられてやってきた山の中。

 小高い崖の縁からこっそり見下ろした巨大な集落。

 簡素な家を造りそこで生活しているらしい醜悪な顔をした緑の小鬼のような生物たちはどこからどう見てもゴブリンの群れに間違いない。

 それもただの群れではなく、超大規模な災害級の群れ。


 その巨大なゴブリンの巣を見てノエルは数を数えるのも面倒くさいというように言葉を返してくるが、その口元は小さく笑っている。

 おそらく、これも名を馳せるチャンス……とかそんなことを考えているんだろうな。

 この様子だと眼下にいるゴブリンたちとの戦闘は避けられなさそうだ。


 それにしても……。


「一匹見たら三十匹はいると思え、か」


 なるほど。

 一匹見たら三十匹、それなら、百匹見つけたら残りはあと何百匹いることになるんだろうか?


 ノエルの魔術があるとはいえたくさんいれば倒しきるまでに時間がかかってしまうことになるのは間違いないし、できれば千は超えていないことを願いたい。

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