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準備万端

 ラシュナのダンジョンに向かって出発するため、荷造りを進める。


 かばんに食料を詰め込んではみたが、改めて見ると凄い量だな。

 日に日に増えるテッドの食欲。

 それに対応していくうちにいつかはこのときが来るのではないかと思っていたが、遂に必要な武器や道具をギリギリ入れられるくらいにまでかばんの大部分を食べ物に圧迫されてしまった。


 そろそろテッド用にフィナンシェのおやつ袋のようなものを買ってやらないとまずいかもしれない。

 このままだと、本当にかばんの中身を食べ物に占領されかねない……というか、これ以上モノを詰め込もうとしたらかばんが破れるのではないだろうか?


「とりあえずこのくらいあれば足りるか?」

『そうだな。不足するようならまた買い足せばいい』


 満足そうな様子のテッドからの返答。


 つまり当面はこれで大丈夫ってことだな。

 これでは足りないぞ、などと言われなくてよかった。

 すでにテッドの入る空間すらもあってないようなものなのに、これ以上は足しようがないからな。


「準備も終わったことだし、行くか」

『本当に行ってしまうのか? ……ここの飯は美味かったな』


 少し元気がないようなテッドの反応。


 珍しく寂しそうだな。

 この世界に来てしまったときやリカルドの街でシフォンと別れたときですら平気そうにしていたのに、そんなに飯が好きか。


「たしかにここで飯が食べられなくなるのは名残惜しいが、その食事を作ってくれていた護衛騎士たちも今回の旅には同行する。設備や調理時間なんかの問題もあるから全く同じ味にはならないにしても、似たような味付けの料理なら今後も食べられるんじゃないか? それに、そろそろラシュナのダンジョンに向かって出発しないと魔湧きの日に間に合わなくなる」


 テトラと再会してこの屋敷に来てから二十日。

 日中はノエルがいつのまにか用意していた冒険者ギルドからの依頼をこなし外で食事をすることもあったが、朝晩は毎日この屋敷で食事をとっていた。

 それも、俺たちに出される料理もシフォンの前に並ぶ皿の上のものと全く同じものばかり。

 王族用に洗練された料理ばかりだからか屋敷で出された食事はどれも美味しかったし、見たこともないような料理も多く驚きもあって楽しかった。


 あの料理の数々を食べられなくなるというのは俺も寂しい。

 だが、あの料理を作ってくれていた護衛騎士たちは今回の旅に同行してくれる。

 そこまで悲観する必要はないだろう。


『護衛騎士はシフォンを守る役目を負った者たちだろう? 本当に食事なぞ作れるのか?』

「疑り深いな。テトラが言っていただろう? 今回シフォンに同行してきているのは我々六人だけだと。信用できない者はそばに置けないという理由でこの街からの使用人の貸出も断っていたみたいだし、実際に俺たちと護衛騎士以外の人間はこの屋敷にいなかった。食事を用意していたのは間違いなくテトラたちだ」

『それなら、これ以上は何も言うまい』


 テトラたち護衛騎士六名はシフォンを守る存在。

 シフォンのそばにいることが前提の役目を与えられているために様々なことが行えるよう教育を施されているとテトラは言っていた。

 そして当然、その様々な教育の中には調理や屋敷の管理に関する知識・技術も含まれていた……らしい。

 魔湧きを鎮めるというブルークロップ王家のしきたりは王族に課せられた試練であり、あまり多くの人員を連れていくことは良しとされていないとも聞いている。

 よって今回のシフォンのラシュナのダンジョン行きには使用人たちは同行せず、同行してきたのはテトラたち護衛騎士だけみたいだが、その護衛騎士は六人全員が様々な道に精通した万能超人ばかり。

 俺たちが屋敷にいたあいだもずっと護衛騎士兼世話役兼使用人といった立ち回りをしていたというのだからどれだけ凄いのかと頭が上がらない。

 使用人の仕事の中には料理人の役割も含まれていたのだから護衛騎士の料理の腕は今更疑うまでもないし、旅の途中でもきっと美味しい食事を作ってくれることだろう。


 たぶん今頃はフィナンシェもテッドと同じことを思っているんだろうな。

 俺としては食事よりも快眠を約束してくれるベッドを備えた寝覚め抜群のこの極上の部屋から離れる方が名残惜しいが。


「食事の心配も解決したようだし、今度こそ本当に行くぞ」


 テッドにそう声をかけ、部屋を出てフィナンシェたちとの待ち合わせ場所まで進む。


 この二十日間、やれることは全てやった。

 メタルリザードを想定した戦闘訓練もフィナンシェやテトラたちに協力してもらいながらなんとか格好がつくくらいの技術は身に付けたし、ノエルとのコマ勝負にも何十時間と付き合ったおかげでノエルもまだ二メートル六十センチ以内には近づけないとはいえ、辛うじてテッドの三メートル以内には近づけるようになった。

 ノエルに近づきすぎないようにさえ気をつければ、テッドの三メートル以内には魔物は近寄ってこないし、魔物からの遠距離攻撃はノエルの結界とシフォンの回復魔法でしのぎ切れる。


 準備はほぼ万全と言っていいほどに整えた。

 不安も少ない。


 目指すはラシュナのダンジョン魔湧きの日。

 目的はシフォンの手伝いとノエルの名声を高めること。

 そして、個人目標は魔物たちとの戦闘の中で何かを得ること。


 魔物たちとの戦いを経て、少しでも強く成長できればいいんだが……。

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