表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/375

テッドとの暇潰し

 意気投合して盛り上がっているフィナンシェ、ノエル、シフォンの三人。

 今はフィナンシェとノエルが俺たちのパーティ内での取り決めや現在実践している基本的な戦法なんかをシフォンに教えているみたいだが……。


「敵を見つけたらアタシが魔術でズドンよ!」

「ノエルちゃんはすごいんだよ! こう、シュババババって一瞬で十体以上の魔物をカード化しちゃうの! 私とトールが戦闘をしないことも多いんだよ!」

「すごい! 流石は【神童】ノエル様ですね!」

「そうよ、もっと褒めなさい! アタシは凄いんだから!」


 なんというかもっとこう、説明の仕方というものがあるのではないだろうか。

 ズドンとかシュババババではいささか不親切なような……。


 それと、「アタシは凄いんだから!」と言いながら勝ち誇ったような表情でこっちを見てくるノエルからの視線がうっとうしい。

 ノエルが凄いことは十分理解しているから必要以上に張り合おうとしてこないでほしい。


「というか、こうして聞いていると今の俺たちのパーティって本当にノエル頼りだな」

『今更気が付いたのか?』

「いまさらって……まぁ、いまさらか」


 ノエルがパーティに加わる前もテッドの魔力とフィナンシェのおかげでほとんどの魔物が俺に近づく前に倒されていたからな。

 ノエルが加わって以降も戦闘中に俺のすることがほとんどないという状況は変わらなかったし、ノエルが魔物を撃滅していく姿を見ても戦闘時間がかなり短縮したなとかフィナンシェの戦闘回数が激減したなとか、そのくらいにしか思っていなかったかもしれない。


「魔物の数が多いときやノエルが疲労しているときは俺も戦闘に参加するとはいえ、そんな機会滅多にないからな。討伐依頼を達成しやすくなった程度にしか考えていなかったみたいだ」

『そのようだな。相変わらず現状の認識が甘いヤツだ』

「テッドこそ他人の話なんてほとんど聞かないだろ」

『聞いた上で把握できていないお前よりはマシだと思うがな』

「いいや、話を聞いていないお前よりは話を聞いている俺の方がマシだと思うぞ」

『聞けば理解できる』

「聞く気がなければ理解もできない。ほら、俺の方がテッドよりも現状を認識しているんじゃないか?」


 と、張り合ってはみたもののどっちもどっちだな。


 俺は話を聞き、この目で見た上で現状を正しく把握できていない。

 テッドはそもそも話を聞いていないが、そのかわりに言葉を必要としない事柄についてはその高い感知能力によって俺よりも正しく把握・分析できている。


 結局のところ、俺もテッドも中途半端にしか現状を把握できていないことにはかわりない。

 どちらがダメかと問われれば両方ダメと答えるのが正解だろう。


「どっちの方がマシかなんていう不毛な会話はここまでにしておくとして、戦闘面でノエルに頼りきりという現状はどうにかした方がいいかもしれないな。誰かの負担が極端に大きすぎるというのはパーティにとってよくないような気がする」

『そうかもしれないな』


 戦闘面以外ではテッドの感知能力が役に立っている場面が多いが、いざ戦闘となるとノエルの一人勝ち。

 よく考えると、俺はテッドの感知した内容をフィナンシェとノエルに伝えるくらいしか仕事をしていない。

 せっかく休日を使用してまでゴブリン相手に修行を積んでいるというのに、そこで培った実戦経験を活かす機会がないというのも味気ない。

 シフォンがパーティに加わって良い機会でもあるし、この機に戦闘時におけるパーティの在り方というものをしっかりと考え直した方がいいかもしれないな。






 それにしても、フィナンシェたちの話し合いはいつまで続くのだろうか?


 もうかれこれ一時間以上は経過しているはずなのに、全く終わる気配がない。

 ノエルが特訓を始める気配もないし、今日は朝からノエルに付き合うつもりでここに来たぶん肩透かしを食らった気分だ。


 三十分くらいまえからは発声するのも面倒になってテッドとの会話も念話でするようになってしまっているし、これ以上待たされると退屈すぎて眠ってしまうかもしれない。

 そうなると昨日の夕飯とさっき食べた朝食についての感想も語り終わったいま、次に語り合うべきは眠くならずにすむような話題に決定だな。


 眠気がやってこないような目が覚める話題、なにかあっただろうか……?

 パッとは思いつかないが……あ、そういえば。


《そういえばシフォンはブルークロップ王から俺たちのパーティに入る許可をもらってこの街に来たと言っていたが、これっておかしくないか? ラシュナのダンジョンに向かっていたはずのシフォンがどうして俺たちと再会するまえから俺たちのパーティに入ってもいいという許可をもらっているんだ?》


 シフォンは家のしきたりに従って魔湧きの日を迎えるラシュナのダンジョンに向かっていた。

 そしてその途中でたまたま俺たちと再会し、俺たちに仲間になってくれないかと提案することを思いついた。


 そのはずなのに、どうしてたまたま再会した俺たちとパーティになってもいいなんていう許可をもらっているんだ?

 もしかして、ブルークロップ王は俺たちがラシュナのダンジョンに向かうことを予想していたのだろうか。


 シフォンはラシュナのダンジョンに向かい、俺たちもラシュナのダンジョンに向かう。

 それならシフォンはどこかで俺たちと出会って俺たちに協力を申し出るだろう、と。

 そこまで予想できてこその大国の統治者ということなのだろうか……。


 もしそうだとしたら、なんだか行動を見透かされているようで恐ろしいな。


『何を言い出したかと思えば、そのようなことを疑問に思っているのか。だから認識が甘いと言っているのだ』


 テッドなら何かわかるのではないかと思って聞いてみたが、この返答。

 本当に何かわかったことがあるのだろうか?


『初めから許可をもらっていた理由。そんなこと、初めから我々に助力を願うつもりでいたからに決まっている。ラシュナのダンジョンとやらの位置を思い出せ』


 ラシュナのダンジョンの位置――たしか、カナタリ領を出てブルークロップ王国を通り過ぎ、さらにその先の国の……ああ、そういうことか。


《たしかに、シフォンがラシュナのダンジョンを目指しているならカナタリ領近くのこの街にいるのはおかしいな。シフォンのいた王都からは方向が真逆だ》


 それに、ラシュナのダンジョンが魔湧きの日を迎えるのは数十日後。

 ラシュナのダンジョンまではここからでも十数日で行ける距離であるし、過保護なブルークロップ王がこんなに早くシフォンを旅立たせるはずがない。


『そういうことだ。少しは物を考えてから疑問を言え』


 これには、返す言葉もないな。


 っと、疑問が解決したところでフィナンシェたちの方も話し合いが終わったみたいだな。

 三人揃って俺に近づいてくるということは何か新しく決まったことでもあるのだろうか?


 近づいてきた三人の中からさらに一歩ノエルが歩み出て、口を開く。


「新パーティでの腕試しに行くわよ! 出かけるから、すぐに準備しなさい!」


 そして、胸を張り、いい笑顔でそう言い放ったノエルの声が食堂中にこだまする。


 シフォンが加入したから新しく連携を試したいとか、そういうことだろうか?


 どうやら、今日の特訓は中止らしいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ