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至福の食事と寝床の心配

 広い食堂、大きなテーブル、テーブルの上に並べられた豪華そうな料理の数々。


 さすがはシフォンが使用している屋敷とシフォンのために作られた料理たちだ。

 部屋も料理も、ただの夕食とは思えないほどキラキラ輝いて見える。


《凄く香ばしい匂いがする。どれも美味しそうだぞ》

『それは楽しみだな』


 匂いや見た目も凄いが、テトラはさらにいくつかの料理が食べ頃なタイミングで運ばれてくると言っていたからな。

 並んでいる皿の数的に俺たちにもシフォンの夕飯と同じ料理を用意してくれているのだろうし、これだけのご馳走を食べられる機会なんて滅多にない。

 たしかに楽しみだ。


《これは疲れなんて気にしている場合ではないな。思いっきり楽しまないと損だ》

『そうだな。存分に味わわなくてはな』


 テッドの席もノエルの席から三メートル以上離れた位置にちゃんと用意され、料理が運ばれてくるという扉のそばにはテトラが立って扉の外にも意識を向けているように見える。

 テッドの存在を知らないテトラ以外の五人の護衛騎士たちをこの食堂に入れないように配慮してくれているのだろうか?


 テトラに目を向けたら頷きを返されたし、たぶん俺の考えが合っているということなんだろうな。

 これなら余計な心配や苦労、遠慮をすることなく食事に集中できそうだ。

 テッドを見られたとしてもなんとかなる公算は大きいが、見られずに済むのなら、やはり見られない方がいい。


「わぁ、美味しそう~!」

「綺麗な部屋ね。あの柱の意匠はどこの職人が造ったものなのかしら」


 隣ではフィナンシェとノエルが感嘆の声を上げている。


 こういった部屋や食事に馴染みのありそうな二人でもこの反応。

 やはり王族用に用意されたものだけあってかなり質が高いのだろう。

 ノエルが魔法や魔術関連以外のものにこれだけ興味を向けている姿は初めて見たような気がする。


 二人がそれぞれ料理と部屋の内装に目を向けているのも面白い。

 同じ部屋に案内されたはずなのに見ているものが全く違う。

 フィナンシェはいつも通り料理に目が釘付けだし、ノエルは部屋の四方で壁と一体化している柱に興味津々……というか、他にも豪華そうな調度品はたくさんあるのにノエルの興味は柱に向かうのか。あのテーブルや椅子なんかもかなり凝った見た目をしていると思うんだが……。


 ここらへんの感覚は孤児院育ちの俺では理解できないのかもしれないな。

 この世界に来るまでは美しいと言われるモノを見る機会なんてほとんどなかったし、人魔界この世界を問わず意匠について学んだこともない。

 それっぽい形をしているものは全て凄そうに見えてしまうからな。

 俺には物の美醜を見極める力は備わっていないのだろう。


 その点、ノエルはしっかりとした審美眼を持っていそうだ。

 今も柱の意匠についてシフォンと話し合っているし、話し合えるということはあの柱には話し合えるだけの価値や情報があるということだからな。

 色々なモノを見て美的感覚を磨く機会も多かっただろうシフォンが柱の価値を認めているのだ。

 あの柱にはきっと俺では想像もできないほどの価値があるにちがいない。


 ただ、俺は柱になんて興味もないしそんなことよりも飯だな。

 テトラ以外の全員が席に着いたしそろそろ食べ始めてもいい頃だと思うんだが……これらはどうやって食べればいいんだろうか。

 これほどの部屋でいただく豪華な料理の数々。

 おそらく、それなりの食事作法が要求されると思うんだが……。






 ふぅ、美味かったな。

 食べ方がわからなくて四苦八苦することもあったが、なんとか無事に食べきることができてよかった。

 味については思い出すだけで頬が落ちそうになる料理ばかりだったし、完食したのにまだ食べ足りないくらいだ。


 今思うと、会話が弾んでいたのもよかったのだろうな。

 こういう食事のときはできるだけ静かに食べるのが常識だとノエルは言っていたがフィナンシェとシフォンはそんなことを気にせず喋りまくっていたし、そのおかげで堅苦しくもなかった。

 テトラも注意してこなかったということは作法については気にしなくてもよかったのだろう。

 念のため、食べる皿の順番や食事の仕方なんかはシフォンを真似してみたがその必要もなかったのかもしれない。


 とはいっても、今後こういう場に参加する機会が絶対にないとも言い切れないし、ある程度の作法は覚えておいた方がいいか。

 覚えて損するようなものでもないからな。

 できないよりは、できるようになっておいた方がいいだろう。


『どれも美味だった。もっとないのか?』

「あー、美味しかった~」


 テッドもフィナンシェも満足そうな声を上げているし、ノエルは声こそ出していないものの口元が緩んでいる。

 俺も、ノエルとのコマ勝負の疲れが吹っ飛ぶくらい堪能させてもらった。


 今日は俺たちとの再会を祝して力を入れた料理を用意してもらったとシフォンも言っていたから、相当な金と手の込んだ料理の数々だたのだろう。

 俺としてはそこまで気合を入れなくても……とも思ったが、そこまでするほど俺たちとの再会を喜んでくれたということが純粋に嬉しい。


 間違いなく、これまでの人生で一番素晴らしい食事だった。

 気分も過去最高と言っていいほど良い。

 今日はぐっすりと眠れそうだな。


 ……そういえば、宿に向かう途中でテトラと出会ったからまだ宿をとってないな。

 そうなると、今日はこのあと、どこで眠ればいいんだ?

 この街は大きいから宿もたくさんあるとはいえもう夜だしな。


 こんな時間でも空き部屋のある宿は残っているんだろうか?

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