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やるつもりのなかったコマ遊び

 コマで遊び始めてから一時間くらいは経っただろうか?

 そろそろ疲れてきたな。


「どうしてアタシのコマが先に止まるのよ。アンタ、もう一回勝負よ!」


 コマにひもを巻いて、投げて、回転が止まったらまたひもを巻いて投げる。

 延々と同じことの繰り返しだし、この動作はコマ遊びが好きなテッドに付き合ってもう何百回と行ってきた。


 それでも久しぶりのシフォンとのコマ遊びということで初めのうちは楽しかったが、十回を越えた辺りからはただの作業になってしまっている。

 体力的には全く問題なくても精神的な疲労が凄い。


「そうよ、頑張りなさい! 今度こそいけるわよ! え? あ、あぁぁぁ!」


 特に、隣でコマに向かって声援を送っているノエルのせいで疲労が凄い。


「ちょっと! ぶつかってくるなんて卑怯よ! アタシのコマが止まっちゃったじゃない!」


 負けず嫌いなノエルのことだからコマを始めたらこうなるのではないかとは思っていたが、まさかコマに向かって声をかけるほど熱中するとは思わなかった。


 最初はコマの回し方すら知らなかったくせに、コマを回せるようになって「どちらのコマが長く回転していられるか勝負しましょう?」などと言い始めてからはどんどんハマってこの始末。

 本当に面倒くさいことこの上ない。


「コマがぶつかるのも勝負のうちだ。それに俺はテッドに付き合わされて何百回とコマを回してきたんだから、今日コマを回せるようになったばかりのノエルが勝てなかったとしてもしょうがないだろ」

「そんなこと関係ないわ! アタシはいま勝ちたいのよ!」

『付き合わされたとは随分な物言いだな』

《相手をしてくれと何度せがまれたと思ってる。付き合わされたのは事実だろ》

「もう一回よ! 次は負けないわ!」


 コマで勝負なんてことになったら絶対に付き合わされると思ったからノエルにはあえてコマの回し方しか教えなかったのに、勝負という発想に自力で辿り着いて勝負を挑んでくるとは……本当に厄介なやつだ。

 回転しているコマを眺めるだけなら数回も投げれば満足という気持ちもわからなくはないが、できることならずっとコマを眺めて楽しんでいてほしかった。

 コマを回すことに飽きたとしてもせめて勝負以外の楽しみ方を見つけてくれれば……というかコイツ、これがテッドに近づくための特訓だということを忘れてるんじゃないだろうな?


「やっぱりテッド様はコマを回すのがお上手ですね。すごい綺麗に回転しています」

「シフォンちゃんも前に一緒に遊んだときよりも上手になってるよね! ひもをつかった技まで身に付けているとは思わなかったよ!」

「これですか?」

「そう、それ! シフォンちゃんすごい!」

「これはお城に来た商人の方が教えてくださった技で、つなわたりというそうです。次に会うときまでに腕を上達させておくとテッド様と約束したのでテトラたちとたくさん練習したんですよ。私はこの技しか覚えられなかったのですが、テトラたちは他にもいくつか技を……」


 俺やノエルから少し離れたところで遊んでいるテッド、シフォン、フィナンシェは随分楽しそうだな。

 今すぐ俺もあっちにまざりたい。


「ちょっと! どこ向いてんのよ! アタシとの勝負に集中しなさい!」


 どうして俺は一人でノエルの相手をさせられているのだろうか?

 シフォンがこの屋敷に人数分のコマを置いてなければ、コマの数が足りないことを理由にノエルからの勝負を断れたかもしれないのに……。

 本当ならコマ遊びには参加せずノエルたちがコマで遊んでいるところを近くで見ているだけの予定だったのに、どうしてこんなことになってしまったのだろうか?


「ノエルこそ俺との勝負じゃなく特訓に集中した方がいいんじゃないか?」


 何かに熱中することによってテッドへの恐怖が薄れテッドに近づけるようになるというのなら俺に対抗心を燃やしいている今のノエルの状態は特訓に理想的だったのかもしれないが、肌が痛くなるほどの熱量をぶつけられることにもいい加減疲れてきた。

 その熱意の少しでもテッドの方に向けてくれないと俺の身体が持たない。


「なに言ってるのよ。アタシはコマを回して楽しむ。ついでにアンタを倒す。そうするとテッドに近づけるようになる。それがこの特訓でしょ? 何も間違ってないじゃない」

「いや、それなら……」

「なによ? 文句でもあるの?」


 おかしい。

 今の理論なら必ずしも俺に勝つ必要はないはずなのに、なぜか俺に勝つことが特訓内容の一部みたいな言い方をされてしまっている。


 それに、シフォンはテッドが怖い存在ではないと知ることが大切と言っていたような気がするのに、コマで遊び始めてからノエルは一度もテッドの方を向いていない。

 これでは何かに熱中してテッドへの恐怖心を薄れさせるという目的は達成できても、テッドへの理解を深めるという目的の方は達成できないのではないだろか。


 そもそも、シフォンに強気な態度をとっていたノエルがテッドに対して本当に物怖じしているのかという疑問もあるが……スライムはこの世界じゃ最強の生物だしな。王族相手に動じないノエルでもスライムが相手だとさすがに弱気になってしまうなんてこともありえるのかもしれないな。


「今の勝負は惜しかったわ……これならもう少しでアンタに勝てそうね。さ、早く次の勝負を始めましょう。次こそはアンタに吠え面かかせてあげるわ」


 さて、それはそれとして、俺はあと何回付き合ったらこの疲れるだけの作業から解放されるのだろうか?

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