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無作法ノエルの自己紹介

「トール様、フィナンシェ様。お会いしたかったです!」

「シフォンちゃん! 私も会いたかった!!」


 駆け寄ってきたシフォンを受け止めるようにフィナンシェもシフォンへと駆け寄っていき、広い部屋の中央付近で二人が抱擁を交わす。

 この位置からだとフィナンシェの顔は見えないが、フィナンシェと抱き合っているシフォンの表情はかなり嬉しそうに見える。

 おそらく、フィナンシェもシフォンと同様に良い表情を浮かべているのではないだろうか。

 目を閉じ、安堵したような笑顔をしているフィナンシェの姿が容易に目に浮かぶ。


 それはそれとして、シフォンが元気そうでよかったな。

 以前別れたときよりも良い表情をしているように思う。


「フィナンシェ様、お久しぶりです。お二人と別れてから、次はいつお会いできるのかと……」

「シフォンちゃん、呼び方呼び方」

「あ! すみません。王城ではフィナンシェさんとトールさんのご活躍ばかり聞いていたので、つい。それに、ここでお会いできるとは思っていなかったので……あの、お二人はどうしてここに?」


 敬称がちがうと笑いながら指摘するフィナンシェに対しシフォンがフィナンシェから身体を離し、俺やフィナンシェのことを尊敬するような目で見つめながらそう言ってくる。

 俺たちの活躍ばかり聞いていたことと様づけで呼んでしまったことの関係性はよくわからないが、どうして俺たちがここにいるのかという疑問が思い浮かぶのは至極当然。そう訊きたくなる気持ちはよくわかる。


 しかし、立ちながらするような話ではない。


「二人とも、とりあえず座って話しをしようか」


 ノエルのことも紹介しないといけないし、積もる話もあるだろうからな。

 長話になるかもしれないのだからゆっくりと腰を落ち着けて話した方がいい。


 それに、シフォンがお茶を飲んでいたテーブルにテトラたちが俺たちの分の席や飲み物なんかを追加してくれているみたいだしな。

 せっかく用意してくれたのだからあそこに座って会話をすすめた方がいいだろう。






 それにしても、広い部屋だな。


 部屋に入ったときから広いとは思っていたが、椅子に座って目線が下がった分余計に広く感じられる。

 リカルドの街の宿部屋八っつ分くらいはあるんじゃないだろうか。


 こんな広い部屋にたった十人と一匹しかいないというのは、なんだか落ち着かないな。


「それで、あの……こちらの方は?」


 今まで俺とフィナンシェしか目に入っていなかったのか、たった今その存在に気づいたというようにシフォンがノエルに目を向ける。


「ノエルよ。よろしく」


 目を向けられたノエルは堂々と自己紹介をしているが……凄いなコイツ。

 初対面の王族、しかもこれから頼み事をしようといているシフォンを相手にこの態度。

 ノエルの卒業した魔術師学校では礼儀作法も教えているという話をノエル本人から聞いた覚えがあるんだが、この世界では王族相手にこのような態度をとるのが普通なんだろうか?


「ノエルは俺たちのパーティメンバーだ」

「すっごい魔術をつかえるんだよ!」


 まぁ、俺たちから少し離れた位置に立ってくれているテトラたち護衛騎士六人もノエルの態度を気にしていないようだし、俺が気にすることでもないか。

 ノエルの紹介は適当に済ませてさっさと本題に入ろう……と、思ったんだが。


「ノエル様はもしかして、ベールグラン王国を襲ったヒュドラとの戦いでご活躍なさったという……あの魔術師様でしょうか?」


 シフォンはノエルと話をしたいみたいだな。

 何を話すつもりなのかはわからないが、真剣な顔つきをしている。


「あの魔術師様かどうかは知らないけど、ヒュドラの討伐には参加したわね」

「やはりそうでしたか。ヒュドラとの戦いでは我が国の兵たちが……」

「お礼なんていらないわ。あと、アタシと話すときはコイツに接するときと同じ態度で接してもらえるかしら?」


 ノエルの返答に対し、何かを言おうとするシフォンの言葉をノエルが先んじて遮る。


 話しの流れ的にお礼を言うつもりなのではないかとは俺も思ったが、まさかシフォンがお礼を言うと確定もしないうちにその言葉の受け取りを拒否するとは……。

 王族の言葉を遮ってはいけないなんていう俺でも知っているような無礼を平然と働いた上に相変わらずの態度だし、ことあるごとに俺にバカと言ってくるノエルだが、もしかしてノエルも本当はバカなのではないだろうか?

 この会話を見ていると、そう思わずにはいられないんだが。


「わかりました。それでは、ノエルさんとお呼びすれば……」

「ええ、それでいいわ」


 今もまたシフォンの言葉を最後まで聞かずに返事をしているし……もしかして、早く特訓を始めたくて気が急いているのか?


 それなら、早くシフォンに相談をしてしまうか。


「シフォン、一つ頼みを聞いてもらえないか?」

「トールさんが私に頼みごとですか?」

「ああ。実は――――」


 心優しいシフォンのことだ。

 事情を説明すれば、きっと協力してくれるだろう。

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