荒野か町か
連休なのに全く休めないという謎。
明日は午前中までしか予定がないので今日よりも早い時間に更新できると思います。
今日も朝から飯が美味い。
特に、このチーズという食べ物が美味い。
『もっとくれ』
《お前も気に入ったか?》
『ああ、美味だ』
テッドの味覚にも合ったみたいだな。
かばんにチーズを突っ込むとすぐにまたくれと催促してくるし、相当気に入ったのだろう。
この分だと今テーブルの上に並んでる量だけでは足りないな。
新しく注文しておくか。
「これと同じ大きさのチーズを十皿頼む」
「はーい、チーズ十切れ分ですね。少々お待ちくださーい」
近くを通りかかった店員に注文を伝えると、店員がすぐに厨房へと姿を消していく。
十皿だと足りないような気もするが、足りなかったときはまた注文すればいいか。
そんなことよりも先に、こっちをどうにかしないといけないだろうな。
そう思いつつ、今日の予定について話し合っている二人に視線を向ける。
「アタシたちなら大丈夫よ。アタシの結界もあるし、危険はないわ」
「でも、どうしても急がなくちゃいけないってわけでもないんだから町で一泊した方がいいんじゃないかな?」
「より危険の少ない方を選択する。その考え方は冒険者として正しいわ。けど、何度も言ってるように――」
昨夜からずっと続いている話し合い。
朝食を終える頃には話もまとまっているだろうと思って放置してきたが、まだ終わってないのか……。
《これはもう、俺も口を出した方がいいよな?》
『知らん』
《まぁ、お前は美味いものさえ食えればどこでもいいもんな。行先なんて興味ないか》
テッドに意見を求めたのは失敗だったな。
この世界に来てからは食い気が優先になっているみたいだし、食事中のいま話しかけてもまともに返事をくれるはずもなかったか。
「野営した方が一日以上到着が早くなるわ。魔物や盗賊なんてアタシたちの敵じゃないんだから、野営をするべきよ」
「慢心はダメだよ。ノエルちゃんもさっき言ってたよね。より危険の少ない方を選択するのは冒険者として正しい、って。町に泊まる方が安全なんだから、今日は無理に野営をして危険を増やさなくてもいいと思うよ」
二人の会話を聞くも、昨夜から全然進展した様子がない。
やはり、俺も口を挟んだ方がいいな。
このままだといつまで経っても予定は決まらないし、予定が決まらないと出発もできない。
それに、二人の話し合いを聞くのもいい加減疲れてきた。
朝食が終わるまえに、さっさと予定を決めてしまおう。
「二人とも、今日の……」
「チーズ十切れお持ちしましたー」
口を挟もうとした瞬間に店員がチーズの載った皿をテーブルへと置き、去っていく。
……そういえば、注文していたな。
出鼻をくじかれたが、追加で注文を行ったのは俺だ。
文句は言えない。
気を取り直すか。
「二人とも、今日の予定についてなんだが俺は町に泊まった方がいいと思う」
「ほら、ノエルちゃん。トールもこう言ってるよ」
「なんでよ! アンタなら野営くらいどうってことないでしょ!?」
運ばれてきたチーズを三切れテッドにあげ、二切れを自分用に手前の皿へと取り分けながら、二人に意見を伝える。
フィナンシェと話していたときとは違い、ノエルが語気を荒げて反論してくるが意見は変わらない。
「野営は疲れるし、面倒くさい。それに、しっかりとしたベッドで眠りたいから町で一泊したい」
正確には、危険なことをしたくないというのが本音だが、俺の実力を誤解しているノエルにそう伝えても余計に気を荒げさせるだけだしな。
こう言うほかないような気がする。
「疲れるし面倒くさいって、そんな理由通るわけないでしょ!」
いや、普通に通ると思うが……。
十分納得させられる理由を言えたと思ったんだが、ダメだったか。
これでダメなら、もう少し詳しく説明しないといけなさそうだな。
「まず状況を確認しておきたいんだが、このまま先へ進むと今日の夕方頃には泊まれる町や村の存在しない広大な荒野の上にいることになる。そうだな?」
「ええ、そうよ」
ノエルがぶっきらぼうな返事をくれる。
「そして、その荒野より前で宿泊できそうな場所は昼頃には到着できてしまうほど近くにある町一つだけ」
「うん。その通りだよ」
いつのまにかチーズを口に入れ、幸せそうな表情をしているフィナンシェが素直に頷く。
「だから、早くブルークロップ王国の王都へ行きたいノエルは多少の危険を冒してでも今日のうちに荒野まで進んでおきたくて、フィナンシェは安全に町で夜を越したい」
「ええ、そうね。その通りよ」
「トールの言う通りだよ」
予定については二人に丸投げしてたからな。
昨夜からずっと適当に聞き流していたし、もし間違っていたらどうしようかとも思ったがちゃんと認識できていたか。
それなら……。
「それなら、やっぱり町に泊まった方がいいな。野営をするとなると交代で見張りをしないといけないが町で宿に泊まるならその必要はない。固い地面の上で寝なくてすむから、いたずらに体力を消費することもないしな」
これならノエルも納得して……。
「じゃあ見張りはアタシが一人でするわ」
「いや、それだとノエルの負担が大きすぎるだろ」
「大丈夫よ。そもそも、結界を張っておけば見張りなんていらないくらいなのよ」
「それだと魔力が……」
「結界を張りながら一晩中見張りをするくらい簡単よ。ベッドは用意できないけど、この条件なら野営することを認めてくれるかしら?」
「いや……」
ノエルは冒険者経験も長いし、本人が大丈夫だと言うなら大丈夫かもしれないが……俺の本音は魔物や盗賊から襲われるのが嫌だから町で安全に過ごしたい、だしな。
もし野営するなんてことになったら困るんだが……。