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魔湧きの日

 俺たちのためと言ってノエルが口にした言葉。


 まわきの日とは、一体なんなのだろうか?


「へー、魔湧きの日が来るんだー」

「そうよ。魔湧きの日が来るのよ」


 フィナンシェはまわきの日が何か知っているみたいだな。


「頑張らないとだね! トール! テッド! ノエルちゃん!」

「ええ、そうね。そのためにも早くテッドのそばでも活動できるようになりたいのよ」

「そうだったんだ。そういうことならできるだけ早く出発した方がいいね! 私、応援するよ! 頑張って! ノエルちゃん!」


 二人の間でどんどん会話が進んでいくが、まったく話についていけない。……置いてけぼり感が凄いな。

 そろそろ詳しい説明が欲しい。


「まわきの日ってのは一体なんなんだ?」


 ダンジョンに訪れるものというノエルの発言と、頑張らないといけないというフィナンシェの発言から考えると、また厄介事の類だろうか?


「え……アンタ、まさか知らないの?」

「あ、そっか。トールは知らないよね」


 ノエルが驚き、フィナンシェが思い出したように納得する。


 ありえないものを見るかのように目を見開いているノエルの様子から察するに、この世界の人間、あるいは冒険者なら、知っていて当然のことなんだろうな。

 それにしては、今まで一度も耳にした覚えがないが。


「ノエルちゃん、あのね――」


 フィナンシェがノエルに何事かを耳打ちすると、ノエルがテッドの入ったかばんに目を向けたあとに「そうね。わかったわ」と言って頷く。


 何を言ったかは聞こえなかったが、おそらく俺がモノをあまり知らないということをフィナンシェの想像した俺の過去話つきで説明したんだろうな。

 出会ったばかりの頃に色々と訊いたせいで世間知らずだと思われているし、この世界の人間なら絶対に近づくことのない存在であるスライムのテッドと一緒にいることから、何やら凄絶な過去があると勘違いされている節もあるからな。

 きっと、人間とほとんど関わってこないような生き方をしていたんじゃないかとでも伝えられたんだろう。


 フィナンシェ同様、俺がまわきの日について知らないことに納得した様子のノエルが俺の顔をじっと見ながら説明を始める。


「魔湧きの日っていうのは魔物が大量に湧く日のことよ。いくつかのダンジョンでは周期的に魔物が大量発生するのよ」

「それが、五十日後にラシュナのダンジョンという場所で起こるってことか?」


 魔物の大量発生……魔湧きの日というのは、やっぱり面倒事だったか。


「そういうことね。それでここからが重要なんだけど、魔湧きの日は冒険者にとって稼ぎ時なのよ」


 言われてみれば、たしかに稼ぎ時かもな。

 大量に発生した魔物の討伐やダンジョン周辺に存在する町村の防衛……ギルドも大量に依頼を発行しそうだし、聞いているだけでも仕事には困らないような感じがする。


 しかし……。


「国は何もしないのか?」


 ダンジョンで魔物が大量に誕生すると魔物たちは居場所を求めてダンジョンの外へと出てきてしまう。

 そうなると当然、ダンジョン周辺の町村は被害を受けるだろうし、場合によっては周辺国にも被害が及ぶ可能性がある。

 それを防ぐために国も全力で兵士を派遣しそうなものなのに、冒険者が仕事をする余地なんて本当に存在しているのだろうか?


「もちろん、国も協力してダンジョン周辺の警戒を強めるわ。けど、魔湧きの日がいつ頃来るかはわかっても、厳密に何日後に来るかはわからないのよ。ラシュナのダンジョンも四十日~六十日後くらいに魔湧きの日が来ると言われているわね。加えて、魔湧きの日に発生する魔物の数は毎回違うの。そうね……ラシュナのダンジョンだと総数二百くらいのときもあれば、総数二千五百にも及んだときもあるという話よ」

「二千五百か。それは凄いな」


 二千五百という数はたしかに凄い。

 それは凄いんだが……この説明はまだ続くのだろうか?

 これ以上話が長くなると俺の頭じゃ理解が追いつかなくなるんだが……。


「そう。すごいのよ。でも、次の魔湧きの日に何体の魔物が発生するかは誰にもわからない。国も少なくない数の兵を派兵するけれど、兵数にも限りがあるし、派兵された兵士たちだけじゃ手が足りないことも多いのよ。特に、ラシュナのダンジョンのある国は兵士たちを遊ばせておけるほど兵数に余裕がないのよ」


 つまり、魔湧きの日には派遣されてきた兵士たちだけでは対応できない数の魔物が誕生することも多く、特にラシュナのダンジョンとやらのある国ではいつ来るかもわからない魔湧きの日のために二十日間も大量の兵士をダンジョン付近に留まらせておく余裕はないと。

 ノエルが言っていたのは、こういうことだろうか?


「なるほどな……」


 ノエルがテッドに近づけるようになれば魔物に襲われる心配をせずに一方的に魔物を殲滅でき、稼げる。

 そして、魔湧きの日は約五十日後。

 早ければ四十日後にはラシュナのダンジョンが魔湧きの日を迎える。


 だから、早くブルークロップ王国に向かった方がいいと言っているのか。


 俺やフィナンシェは今初めてラシュナのダンジョンの話を聞いたが、ノエルの中では魔湧きの日に合わせてラシュナのダンジョンに行くことはもう決定済みのようだし、どうせ行くのであればテッドに近づけるようになっていた方が稼ぎも増える。

 今でも十分すぎるほど金は持っているが、金が無くて困ることはあっても、金があって困ることはない。

 たしかに、約五十日後に訪れるという魔湧きの日のことを考えると今すぐブルークロップ王国に向かった方が俺たちのためになるかもしれないな。


「ラシュナのダンジョンで活躍して、名を広めるのよ! これもアタシが世界一の魔術師になるための足掛かりなんだから、もちろん協力してくれるわよね!!」


 ……まぁ、ノエルの本音はこっちみたいだが。

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