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説得失敗と知らない言葉

 宿に戻ってきた俺たちを迎えてくれたのは仏頂面のノエルと困ったように笑っているフィナンシェの二人。

 顔を見れば二人の間でどのようなやりとりがあったかはわかるが、一応聞いておいた方がいいだろうな。

 ブルークロップ王国へ行くのか、行かないのか。


「それで? どうするんだ?」

「もちろん行くわよ。アタシに苦手なものがあるなんて許せないもの」

「私は、今は行かない方がいいと思う。ギルド長があそこまで止めるように言ってくるってことは、やっぱり何かあるんじゃないかな?」


 拗ねたように口を尖らせたノエルが今すぐブルークロップ王国に行きたいと言い、わずかに考え込むような態度を見せたフィナンシェはギルド長から許可が下りるまでは行かない方がいいと言う。


 今すぐ行きたいノエルと、今は行かない方がいいと言うフィナンシェ。

 長期的に見れば、どちらもブルークロップ王国へ行きたいという意見だが……短期的に見れば、ノエルは「行く」、フィナンシェは「行かない」と、意見が食い違ってしまっている。


「まぁ、そうだよな」


 二人の様子から察してはいたが、予想していたまんまの返答にため息が出る。


 ギルドで俺やテッドと別れて以降、二人の間では考えの相違による言い争いにも近い議論が行われていたにちがいない。

 ブルークロップ王国へ行くという主張を変えないノエルを、フィナンシェがなだめる。

 おそらく、そんなやりとりが行われていたはずだ。


 クライヴから教えてもらった情報をもとに考えるなら、俺も今すぐ行っても問題ないと思う。

 ただ、フィナンシェの言うようにギルド長のあの態度を考えると、今は行かない方がいいのではないかと躊躇してしまう気持ちもある。


 ギルド長はたしか、せめて会議の結果が届くまで待てないかと言っていた。

 ということは会議の結果が届けばブルークロップ王国へ行くことを許可してもらえる可能性が高い。


 具体的にどのような会議が行われているのかはわからないが、各国のそれなりに高い地位にいる者たちが集まっての世界会議だ。

 代表者一人一人に本国での仕事もあるだろうし、会議が終了して結果が届くまでにそんなに時間がかかるとも思わない。

 ギルド長の態度という懸念事項のある現状、少しくらい出発を待たされるくらいどうってことないように思う。


 というか、会議がまだ終わっていないということを知ったのもついさっきだけどな。

 ギルド長から説明されるまでは会議なんてものは数時間もあれば終わると思っていたのに、まさか数日にわたって行われる会議があろうとは……。

 さすがは世界規模の会議。

 酒場や町長の家なんかを集会所として行われる町規模の会議とは全然違う。

 話し合われていることも、世界が危機に曝されるような異常事態が再び起こったときに関する対策や方針についてらしいしな。


「フィナンシェはあとどのくらいで会議が終わると思う?」


 この街から会議が行われている場所までは大体十日くらいの距離だと聞いているから、フィナンシェの予想に十を足した日数が俺たちの待たされる日数になるはずだ。

 その日数次第では、会議の結果が届くまで街で待機していようとノエルを説得することも可能かもしれない。


「たぶんだけど、十日もかからないんじゃないかな?」

「十日か」


 会議一つにそんなに時間がかかるのか……。


 ただ、十日以内に会議が終わるのであれば遅くても二十日後には会議結果がこの街に届くことになる。

 待っても二十日。

 これなら、ノエルを説得することもできるのではないだろうか。


「なぁ、ノエル。出発が遅れるとしても二十日くらい……」

「悪いけど、アタシは今すぐ出発したいの。たとえ十日でも待てないわね」


 ……そりゃそうか。

 どこかの凄い学校を首席で卒業したというノエルがこのくらいの計算をしてないはずがない。

 結果が届くのは二十日以内だろうと知った上で行くと主張していたことくらい、発言するまえに気づいてもよかったな。

 ギルド長の話では最低でもあと三日は会議を行って、それ以上会議が延長されるかどうかは三日後までの話の進行度合い次第。

 最短でも十三日は待たされることが決定しているのだから、十日も待てないと言っているノエルが二十日という条件で説得されるはずもない。


「それに、これはアンタたちのためでもあるのよ」

「俺たちのため?」

「そうよ、アンタたちのためよ」


 頑固なところのあるノエルをどうやって説得しようかと考え始めた頭に、ノエルの声が響く。

 自分が早くテッドに近づきたいからとワガママを言っているような声ではなく、まるで本当に俺たちのためを思っているかのような声。


 たった十三日~二十日程度早く出発したところで何かが変わるとも思えないが、俺たちのためとは一体どういうことなのだろうか?


「その様子だと知らないみたいね。いい? よーく聞きなさい」


 フィナンシェも何も知らないのか首を傾げ、当然俺も首を傾げる。

 そんな俺たちの姿を確認したノエルがもったいぶるように間を置いて、口を開く。


「今からおよそ五十日後にラシュナのダンジョンが――『魔湧きの日』を迎えるのよ」


 …………まわきの日?


 ノエルの口から飛び出てきたのは、知らない言葉だった。

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