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危険なし

「なんなのよアイツ!」


 ノエルがギルド長への恨み言を口にしながらギルドを出ていき、フィナンシェがそれを追いかけていく姿を見送る。

 本当なら俺やテッドもノエルとフィナンシェを追いかけたいところなんだが、そのまえにやれることをやっておかないとな。


「あー、二人とも行っちまったけど、いいのか? なんか怒ってたあの嬢ちゃんもパーティメンバーの一人だったよな?」


 ギルド一階依頼掲示板前にいたクライヴに近づくと、俺に気づいたクライヴがギルドの出口を見ながらそう心配してくる。


 無論、まったく問題がないわけではないが、フィナンシェがついて行ったのだからノエルが暴走して酷いことに……なんて事態にはならないだろう。

 宿に戻れば二人とは合流できるだろうし、もしいま何者かから襲撃を受けたとしてもテッドがいれば逃げ切るくらいはできる。


 諸々の事情を勘案すると、いま俺がすべきことはクライヴから情報収集をしておくことだろう。


「ちょっとギルド長と揉めてな。そんなことより、少し話でもしないか?」

「おっ、いいぜ。そういうことならあっちで座って話すか」


 暇してたからちょうどいいと言いながら食堂の一角を指差すクライヴに頷きを返し、偶然空いたばかりの椅子に腰を下ろす。


 とりあえず、何か注文するか。

 立ち食いが主流の食堂内に存在する数少ない椅子に座ったのだ。

 何も注文しないというわけにはいかないだろう。


 ついでに、テッドの昼食も済ませておくか。


《食べたいものはあるか?》

『ベーコン入りパスタを五皿』

《それだけでいいのか?》

『五皿で充分だ』


 テッドの食欲を考えると五皿では絶対に足りない。

 とはいえ、人魔界にいた頃は一皿だって注文できないほど苦しい生活をしていたことを考えるとこれでも十分贅沢。

 あまり多く注文しすぎて悪目立ちしても困るし、とりあえずは五皿にしておくか。

 まぁ、俺が【ヒュドラ殺し】だと知っている者が多いのかすでにギルド内の視線のほとんどが俺に向いてしまっているから意味のない自重かもしれないが。


 ……というか、二人しか座っていないのに五皿の時点で十分多いな。

 普段からよく食べるフィナンシェと一緒にいるせいか、少し感覚が麻痺しているかもしれない。


「で、話っていうのは? 何が聞きたい?」


 注文を終えると、すぐさまクライヴが話しかけてくる。


 俺は話をしたいと言っただけなんだが、知りたいことがあって話しかけたことが見事に見抜かれているな。

 いつもは軽い挨拶くらいしかしないのに、今日は話がしたいと言ったからだろうか?


「この街周辺とブルークロップ王国の情報を知りたい。できれば、この街からブルークロップ王国までの経路についても何か気になることがあったら教えてほしい」


 ここ数日クライヴたち筋肉ダルマパーティの姿を見かけることがなかったことを考えるとクライヴたちは街を離れていた可能性が高い。それも、日数的に考えて筋肉ダルマたちが行っていた場所はカナタリのダンジョンではない。

 ということは、どこかの町か村に行っていたはず。

 もしかすると他国に行っていた可能性もある。


 優秀な冒険者であるクライヴたちのことだ。

 行きや帰りのために行先やリカルドの街周辺に関する情報をある程度集め、安全を確認してから出発したはず。

 それも筋肉ダルマパーティの中で情報収集を担当しているクライヴならまず間違いなく現在のリカルドの街周辺の状況を知っているし、もしかするとブルークロップ王国の治安やブルークロップ王国で行われているという会議についての情報なんかも知っているかもしれない。


 できれば、ギルド長が俺たちのブルークロップ王国行きを止めたがっていた理由を知っていてくれると助かるんだが。


「ブルークロップ王国に行きたいけど何か気になることがあるってことだな? そういうことなら――」






 そういうことなら悪いが力になれそうにねぇなと言ってクライヴが話し始めた内容は、リカルドの街周辺も、リカルドの街からブルークロップ王国までの経路も、ブルークロップ王国の国内も、どこも危険はないというもの。

 危険な魔物や盗賊が住み着いているなんてこともなければ、魔物が大量発生したなどという情報もない。

 聞けば聞くほど、ギルド長が俺たちを引き留めようとしてきた理由がわからなくなっていく。


 クライヴは俺たちがこの街にいることに何か意味があるというようなことを言っていたが、政治的な駆け引きがどうとか言われても、そもそも政治がわからなない俺ではその話を理解することは不可能。


 結局ギルド長の思惑については何もわからなかったが、ブルークロップ王国までの道のりが安全であるという情報を知れただけでも良しとするか。


「おっと、リーダーも報告が済んだみたいだしもう時間だな。今度会ったらヒュドラとの戦いについて聞かせてくれ」


 受付に依頼の達成報告をしに行っていたらしい筋肉ダルマと合流し、そのまま武器屋にいるはずのジョルドとローザさんに会いに行くと言って立ち去っていくクライヴの後ろ姿を眺めながら教えてもらった情報について考えるも、やはり怪しい点はないように思う。


 ……ダメだな。俺がいくら考えても答えは出ない。

 こういうことはフィナンシェやノエルに任せた方がいいな。


 話を聞いた限りでは危険があるわけでもなさそうだったし問題はないと思うが、万が一と言うこともある。

 クライヴに教わった情報をもとにフィナンシェやノエルがギルド長のあの態度の理由を解明してくれると何の心配もなくブルークロップ王国に向かって旅立てるんだが……。

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