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先行き不安

 朝食後、ノエルに回復魔法を使用した特訓法について話す。


「いいわね、それ! 今すぐ出発しましょう!」

「待って、ノエルちゃん。そのまえに、しばらく街を離れることをギルドに伝えないとダメだよ」

「それもそうね。なら、早くギルドに行くわよ!」


 予想通り、ノエルはブルークロップ王国へ向かうことを即決。

 しばらく街を離れることを伝えるために、まずは冒険者ギルドへ向かうことになったわけなんだが……。






「駄目だ」

「なんでよ!? アタシたちがどこに行こうがアタシたちの自由でしょ!?」


 ギルド長からの否定の言葉にノエルが反論する。

 これは見事に、昨晩フィナンシェが言っていた通りになったな。


「理由なら説明してやっただろ……はぁ~、仕方ねぇな。いいか、もう一度言うぞ。今、ブルークロップ王国には各国の重鎮が集まって大事な会議をしている。また異常事態が発生したときに備えての会議だ。その中にはもちろん、なぜか全ての異常事態と関係していて更にそれらを解決してきた実績のあるお前達のパーティに関する決め事もある。会議での決定次第ではお前達に何らかの協力が要請される可能性もあるんだ。だから今、お前達の居場所がつかめなくなるのは困る。せめて会議の結果が届くまで待てねぇか?」


 フィナンシェが懸念していたのは各国の代表を集めた会議中で厳戒態勢のブルークロップ王国に強者として名の知れている俺たちが行ってしまうと無用な緊張を強いたり問題が起こったりするのではないかということだったから、ギルド長の言っている俺たちが今この街を離れるのは困るという理屈はフィナンシェの懸念していた内容とは少し違うみたいだが、俺たちがブルークロップ王国に向かうことをギルドが許可してくれないかもしれないという考え自体は間違っていなかったみたいだ。


「待てないわ! アタシはすぐにでもブルークロップ王国に行きたいの! 会議の結果なんて向こうで聞けばいいでしょ! それともなに? アタシたちがブルークロップ王国に行くって嘘を吐いてどこか別の場所にでも行くと思ってるの?」

「いや、そんなことは思ってないが」

「ならいいじゃない! アタシたちがこの街を離れることを認めなさいよ!」

「そう言われてもだな……」


 以前はノエルに頭の上がらなかったギルド長なのに、今日はやけにねばる。

 何か俺たちを行かせられない本当の理由でも隠しているのだろうか。


 たとえば……リカルドの街周辺に俺たちを狙ったカードコレクターたちが集まってきているとか。

 いや、それだったら直接そのことを伝えてくれるか。

 何も警告されていないということは俺たちの身に危険が及ぶような理由ではないだろう。


 それなら、領主様や王様から俺たちを街から出さないように言われているとかだろうか?

 俺たちに待機命令が出ているのならギルド長のこのはっきりとしない態度にも納得が……いかないか。

 街から出さないようにという命令が出ているのだとしても、そのことを俺たちに隠す必要はないはずだからな。


 カードコレクターではなく、命令でもない。

 依頼を伝えてくるわけでもないから、俺たちのパーティでなくては解決できないような問題がこの街周辺で起こったわけでもない。

 しかし、そうなるとギルド長のこの煮え切らない物言いとノエルへの強気な態度はなんなのだろうか。

 少し前までのギルド長なら、ノエルに強気で迫られれば首を縦に振っていたはずなんだが……。


「とにかく許可はできん」

「どうしてよ! ギルドに冒険者の行動を制限する権限はないはずよ!」

「いいや、ギルドには冒険者たちを管理する義務がある。冒険者が依頼以外の理由で長期間街を離れる場合に行先や帰還予定日をギルドに伝えなきゃいけないのもその義務を果たすために行っていることだ」

「それならなおさら、アタシたちは行先も帰還予定日もこうして伝えに来てるんだからさっさと許可を出しなさいよ! どうしても許可をくれないって言うなら勝手に出て行くわよ!」


 ギルドの権限は門番や衛兵にまで及んでいない。

 兵士たちに対して協力を頼むことはできても、命令することは不可能。

 つまり、いくらギルドが許可を出さないと言おうとも、犯罪者でもなければ街から出ていくことを止められることはない。

 だからこそノエルは勝手に出ていくなんてことを言っているのだろうが……今日のノエルはいつにも増して勢いが凄いな。


 早くテッドに近づけるようになるかもしれない手段があると聞いて今すぐにでも出発したいのに、それを邪魔されそうになっているから苛立ってしまっているのだろうか。

 一人で六つ首ヒュドラに向かっていってしまったときほどの迫力はないが、あのときのノエルの態度に近しいものを感じる。

 あのときみたいに激情に任せて短絡的な行動に出ないとも限らないし、これはしっかりとノエルのことを見張ってないとまずいかもしれないな。

 今回はあのときと違って俺やフィナンシェもノエルと行動を共にすることを決めているから、ノエルが一人で勝手に突っ走るなんてことにはならないと思うが。


「何度でも言うが、許可はできない。わざわざこの部屋まで呼び出した意味を考えてくれ」

「知らないわよ、そんなこと! 正当な理由があるっていうならコソコソしてないでさっさと教えなさいよ!」


 まぁ、街を離れるなんていう受付にさえ話を通しておけばいいような内容を伝えに来て、わざわざギルド長室に案内されたんだ。

 その時点で何かおかしいとフィナンシェとノエルが疑問を口にしていたし、俺たちに話せない事情があるんだろうなということは察している。

 ただ、この状態のノエルが理由も聞かずに納得するとは到底思えない。

 ギルドの許可を得ずに街を出たとしても軽い罰則を受ける程度で済んだはずだが……一応覚悟しておいた方がよさそうだな。

 このままだと、ギルドからの許可を得ないままブルークロップ王国に向かうことになりそうだ。

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