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入城不可?

「ハァ、ハァ……なんで、近づけないのよ…………」


 いつも通り、ノエルが息も絶え絶えになりながら掠れた声で悔しそうに現実を呟く。


 ここ数日でノエルがテッドに近づけるようになった距離はたったの一センチ。

 以前は一日に数センチは近づけるようになっていたことを考えると、最近は全然進歩できていない。


 やはり、魔力に敏感なノエルがこれ以上テッドに近づくということは、俺やフィナンシェが想像している以上に難しいことなのだろうか。


 シフォンが短期間でテッドに近づけるようになったからノエルも努力すればいずれはテッドのそばで活動できるようになると思っていたが、そもそもの話、俺やフィナンシェはシフォン以外にテッドに近づけるようになった人間を知らない。


 ギルド長も筋肉ダルマたちもテッドの三メートル以内には近寄ろうともしないし、よく考えるまでもなくテッドの魔力に関する必要な情報が足りていない。

 ノエル以外にノエルほど魔力に聡い人間がテッドに近づいたこともなければ、フィナンシェとノエル以外にテッドに近づけるようになった事例も存在していない。強いていえば、この世界に来てすぐの頃に襲ってきたひょろ長のカードコレクターはテッドに接近しながらも動き続けていたが、あれはどう見ても正常な精神状態じゃなかったしな。


 現状では、努力すればすべての人間がテッドに近づけるようになるという確証がない。


 こうなると、前に一度考えた「人によってテッドに接近できる限界距離が決まっているのかもしれない」という仮説が真実味を帯びてくるな。

 そして、もしこの仮説が正しいのだとするならばノエルはいくら努力しようとももうこれ以上テッドには近づけないということになる。

 とはいったものの、この仮説を伝えたところでノエルが諦めるとも思えないし、やけになって無茶な手段に出られても困る。


 ……いや、もういっそのこと、無茶をさせてみるか?


 今やっている訓練を続けてもノエルがテッドに近づけるようになるとは思えないしな。

 それならいっそ、無茶をさせた方がいいのかもしれない。

 そっちの方が、テッドに近づけるようになる可能性は高いような気がする。


 一度、フィナンシェに相談してみるか。


「ノエルのことなんだが、シフォンに回復魔法をつかってもらうっていうのはどうだ? 回復魔法があれば疲労を気にすることなく特訓を続けられるよな?」


 今日はもう寝るわと言いながらベッドに倒れたノエルを見ながら、自分のベッドの上でくつろいでいたフィナンシェに身体を寄せ小声で相談。

 ノエルなら早く近づけるようになるかもしれない方法があると聞けば必ず挑戦するだろうし、俺たちも久しぶりにシフォンに会うことができる。

 これなら誰も損をせず、むしろ、全員が得をする良い案なのではないだろうか。

 そう思ったのだが……。


「うーん、それなら今よりも早いペースで近づけるようになると思うけど……」


 フィナンシェからの反応が、思っていたものと違う。

 色よい返事をもらえると思ったんだが、どうも何かを気にしているように見える。


「何か気にかかるのか?」

「うん。私たちがブルークロップ王国の王城を訪ねたとして、ノエルちゃんはシフォンちゃんに会わせてもらえるのかなって思って」


 ……どういうことだろうか?


「シフォンなら会ってくれるんじゃないか?」


 シフォンなら俺たちのパーティメンバーだと言えばこころよくノエルに会ってくれるのではないだろうか。


「それなんだけど、私とトールはシフォンちゃんとまた会う約束をしているし、王太子殿下からも一度城に遊びに来るように言われているよね? だから、私たちがシフォンちゃんと会うことは何も問題ないと思うんだけど……シフォンちゃんと会ったこともなくて招かれてもいないノエルちゃんが入城を許されるのかなって思っちゃって」


 城というものが遊びに行くような場所なのかどうかは置いておくとして、王太子殿下というのはラーゼのことだよな?

 よく覚えていないんだが、遊びに来るようになんて言われていただろうか?

 まぁ、それはそれとして。


「たしかに、シフォンはお姫さまだからな。簡単には会えないかもしれないな」


 シフォンとは友達ということですっかり抜け落ちてしまっていたが、普通に考えて王族というのは気軽に会えるような存在ではない。

 通常は城に入ることですら難しく、王族に会って話をするなんてことは更に難しい。

 その上、シフォンに引き合わせようとしている相手は実力者であると有名なノエル。

 俺たちにシフォンや城にいる人たちを害する意志はないとはいえ、そのことを相手がどう判断するかはまったくの別問題。

 ノエルはラーゼやトーラたちと面識があるはずだが、だからといって城に入れてもらえるかどうかはわからない。


 ……六つ首ヒュドラとの戦いで【ヒュドラ殺し】の名に相応しい活躍をしてしまった俺が入れるのだとすれば、ノエルも城に入れそうなものだけどな。

 いずれにせよ、入城を許可されるかどうかは俺たちにはわからない。


 ただ、できればノエルには早めにテッドに近づけるようになってほしいんだよな。


 ノエルの実力ならテッドに近づけなくてもパーティでの活動に支障をきたすこともないと思うが、俺たちのパーティは二つ名持ちが三人にスライムが一匹。カードコレクターから狙われる条件が見事に揃ってしまっている。

 まともな思考の持ち主なら俺たちを脅威とみなし、襲ってくることはない。

 だが、カードコレクターには頭のネジが外れたやつが多いと聞いている。

 事実、ひょろ長はテッドの存在を知りながら二度も襲撃してきた。

 テッドの情報がカードコレクターの耳に入れば今後も襲われる危険がある。

 中には、強い人間を大量に蒐集している厄介なカードコレクターもいるらしいし、何があるかわからない以上はノエルがテッドに近づけないなどという欠点を残しておくわけにはいかない。


 ノエルの人柄もまったく知られていないわけではないし、シフォンとラーゼに頼み込めばなんとかならないだろうか?

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