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充足する達成感と忘れていた約束

 剣を鞘に納め、地面に落ちたカードを拾う。


「ふぅ、疲れた」


 身体は熱く、頭は重い。

 だが、悪い気分ではない。


 達成感が充足しているおかげで、肉体的な疲労は凄いが精神的な疲労は皆無。

 心は晴れやかで、清々しい。

 身体は重いのに心は軽く、身体を動かすたび、魔物を倒すたびに実感することのできた強くなっているというその事実が、今はたまらなく気持ちいい。


「そろそろ帰るか」


 今拾ったカードを入れて、手元には十六枚のゴブリンのカード。

 戦闘中に自分の身体の動きを確認することもできたし、弱い魔物とはいえたった一日でこれだけの数の魔物を倒すことができたのだ。

 成果は上々。実戦経験を積むという目的も充分に果たせただろう。


 あとは身体に無理のない範囲で訓練を継続していけば少しずつでも実力は上がっていく。

 いずれ、パーティ内でも役に立てるくらい強くなれるはずだ。


「明日からも頑張れそうだな」

『それはよかったな』

「ああ、いいことだ」


 頑張れそうというか嫌でも頑張らないといけないんだが、行動に成果が伴うとわかっていればいくらでも頑張ることができる。

 といっても、フィナンシェやノエルと一緒で苦労するような依頼なんてリカルドの街周辺には転がってないから、俺が頑張ったところで微妙なところか。

 早く、頑張った分だけパーティに貢献できるようになりたい。






「やっと帰ってきたわね!」


 予定よりも遅くなった宿への帰還。

 扉を開けると聞こえてきたのは責めるような、待ちきれなかったような、怒りと歓びがまぜこぜになったようなそんな言葉。

 ノエルが俺に対して小言等を言ってくるのはいつものことだが、休日の宿に戻る時間についてまで文句を言われたことは今までなかった。

 これは、何かあったのだろうか?


「ただいま」

「おかえり。トール、テッド」

「ただいまじゃないわよ! 予定より遅いじゃない!」


 笑顔で俺たちを迎えてくれるフィナンシェと帰るのが遅いと不満げに叫ぶノエル。

 フィナンシェが笑顔でいるということは、異常事態が起こってまた危険な依頼が俺たちのパーティに回ってきたとかそういうわけではなさそうだな。

 しかし、依頼関係の相談事があるというわけでないのなら、ノエルからここまで不満をぶつけられている理由がわからないんだが……。


「早く始めるわよ!」


 そして、唐突な開始宣言。

 何を始めるというのか、まったくもって意味がわからない。


「……何を始めるんだ?」

「特訓よ! 今朝約束したじゃない!」


 ……ああ、なるほど。特訓か。


「そういえば、そうだったな」


 実力がついていたことが嬉しく舞い上がってしまっていたせいですっかり忘れていたが、たしかに今朝そんなような約束をした覚えがある。

 朝から特訓を始めようとしたノエルに対し、今日はテッドと出かけるから帰って来てからにしてくれと言ったんだったか。そのときに昼過ぎには帰ると伝えたにもかかわらず、今はすでに日暮れ前。

 これは不満を言われても仕方ないな。


「テッド、特訓だ。出てきてくれ」

『またか』

《ああ、まただ》


 ノエルがパーティに加入して以降毎日数時間は特訓を行っているからテッドがまたかと言いたくなる気持ちもわからないではないが、またとは言っているもののテッドはただかばんから出て自由にしていればいいだけ。

 ノエルのいる方に近づきさえしなければあとは何をしていても良いのだから、窮屈なかばんの中にいるよりもずっと楽なはずだ。


《じゃあ頼んだぞ》

『頼まれるようなこともないがな。それよりも肉を頼む』


 まぁ実際、テッドがノエルに対して何かをするわけではないからな。

 伝えていた時間よりも遅い時間に宿に戻ってきてしまったことに引け目を感じてなんとなく頼んだぞなんて言ってしまったが、テッドからしてみれば頼まれるようなことなんて何もないか。

 そんなことよりも肉だな……。


《干し肉しかないぞ?》

『肉ならなんでもいい』


 なら、干し肉でいいな。

 量はとりあえず大皿一皿分でいいだろうか。


《これで足りるか?》

『充分だ。感謝する』


「さあ、始めるわよ!」


 かばんから出てテーブルの上にのぼったテッドの横に干し肉をのっけた皿を置くと、テッドは食欲十分。ノエルは気合十分。

 フィナンシェと俺が見守る中、今日も今日とてノエルはテッドに立ち向かっていく。

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