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代償

 休日も五日目となり、明日からは冒険者業を再開することにもなっている……にもかかわらず、ノエルの体調が全然良さそうに見えない。

 瞼を上げる元気もないのか目は半開き、目の下にはクマまで浮かび上がり、顔も俯き気味で背中も小さく丸まっている。


 各国の代表が集まる会議で参考にするということで、どこかの国からやって来たというキッチリとした服を着た役人のおっちゃんがギルド長立ち合いのもと最近連続発生している異常事態についてそのすべてを経験している俺たちに色々と訊きまくってきたのが昨日のこと。

 ノエルもダララのダンジョンと六つ首ヒュドラに関係しているということでかなり長い時間質問攻めにされていたから昨日の特訓時間は五時間にも満たなかったと思うのだが、目に見えるほど疲労がやばいことになっている。


 昨日は一昨日まで特訓に充てていた時間の半分ほどの時間しかテッドに近づく特訓をしていない上に、ノエルは質問に答えることを苦にしていなかったようだから少しは休めたかと思ったが、やはり昨日半日特訓をしなかった程度では大して疲労も取り除けなかったらしい。

 昨日までの四日間で蓄積した疲労と、四日以上も特訓を続けているのにまったくテッドに近づけるようになっていないことに対する不満や不甲斐なさといった感情が表に出てきてしまっている。


「ノエルちゃん大丈夫?」

「大丈夫よ。今日こそは絶対に近づいてみせるわ」


 フィナンシェからの心配の声に普段よりも低い声音で答えるノエル。

 やる気があるのは良いことだが、どこか鬼気迫る様子で目をギラギラさせている姿には危うさを感じずにはいられない。

 明日からはテッドに近づく訓練時間が減るからということで、今日中に成果を出したいとでも思っているのだろうか。

 絶対に近づいてみせるという言葉がどの程度の距離まで近づけるようになることを指しているのかはわからないが、焦りすぎているように見える。


「テッドには時間をかけてゆっくりと近づいていけばいいと思うぞ」

「……そうね。気を張りすぎていたかもしれないわ。ありがと」


 とりあえず一声かけておくか程度の気持ちで思ったことを口にしただけだったんだが、意外にもあっさりと受け入れられたな。それに、感謝の言葉まで……。


 最近のノエルは素直すぎて怖い。

 突っかかってこられたらこられたでうざったく感じるとはいえ、ノエルが素直だと俺への対抗心も持てないほど疲れているのかと心配になるし、まったく突っかかってこないのもそれはそれで寂しくもある。

 素直でいても素直でいなくても面倒くさいとは、さすがはノエルだ。


 明日からのことを考えると今日は特訓を止めさせてテッドにもまったく近づけないようにしていた方が良いだろうか?

 ノエルからは反感を買いそうだが、今日無理をしたことが原因で明日怪我をすることになったりカード化することになってしまったりなんかしたら目も当てられないからな。

 今のノエルなら聞き入れてくれる可能性もありそうだし、今日は特訓をやめにしようと提案してみるのもありかもしれない。






 ……なんて考えた俺がバカだった。


 ノエルにとって、できないことをできないままにしておかないということは当たり前。

 しかもそれが魔力や魔法、魔術にまつわることであるのなら尚更できるようになろうと努力する。


 今回は明日以降の仕事に影響するかもしれないからという理由に納得してくれたおかげで今日は特訓を行わないと約束してくれたが、まさか約束をしたことによって行き場を失ったやる気とテッドの魔力に向いていたノエルの興味がすべて俺に向かってくるとは思いもしなかった。


 約束を交わして以降ノエルの口から出てくるのは俺が六つ首ヒュドラを討伐した際に使用した魔法についての細かい質問やテッドの魔力に触れ続けることで感じたことやわかったことなどスライムの魔力に関する考察ばかり。

 ノエルは真剣な顔つきで嬉々として質問や考察を語ってくるが、俺からすれば質問は以前に一度答えたものばかりであるし考察にもさほど興味はない。

 一度落ち着いたノエルの知識欲に再び火をつけてしまったようなカタチになってしまったことには後悔しかなく、対応するのも面倒くさいというのが本音。


 フィナンシェは楽しそうにノエルの話を聞いているから二人で会話していてくれと思ってノエルやフィナンシェから距離をとろうとしてもすぐに接近してこられるため逃げ場もなく、たまに挟まれるノエルの魔法うんちくもよくわからない用語が多かったりして理解しがたい。


 まだあるのかと思ってしまうほどの量の質問に一つ一つ答えていく作業は非常に疲れ、興味のない話に耳を傾けようとしても意味のわからない用語のせいで上手く頭に入ってきてくれず、意味のわからなかった用語の意味を尋ねるとその用語を説明する語句の中にこれまた意味のわからない用語や単語が出てきてしまうため結局は話の内容を理解することもできずに無為な時間ばかりが過ぎていく。


 テッドはかばんの中に突っ込んだ料理の数々に夢中でフィナンシェはノエルの話についていけてるようで楽しそうにしている。

 ノエルも自分の興味のあることばかり話しているからか少しずつ元気を取り戻してきているのに、どうして俺だけが無駄に疲れるだけの無意味な時間を過ごしてしまっているのだろうか。


 いくらなんでも、特訓をやめさせたしわ寄せが俺だけに寄りすぎているような気がする。

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