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ブルークロップ王国についてのアレやソレ


「――アンタ、シフォン王女についてどう思ってる?」


 ノエルの口から飛び出したのは俺がシフォンをどう思っているかという質問。


 ずっと聞きたかったことがあると言っていたから口にするのがはばかられるような――何か尋ね辛いことでも尋ねられるのかと思っていたが、よく考えたらノエルが俺に対して遠慮をするわけがなかった。

 訊きたいことがあればすぐに訊いてくるのがノエルだ。

 おそらく、ずっと聞きたかったという先ほどの言葉は、尋ね辛かったから聞きたいのを我慢していたという意味ではなく、もっと早くから尋ねたかったが尋ねられなかったという意味だろう。

 一昨日までの俺はこの街を目指しての移動に耐えきれず朝から夜までのほとんどを寝て過ごしてしまっていたし、昨日には受け答えできるくらいの体力は回復していたが移動中や街に入って以降のノエルはフィナンシェとばかり会話していたからな。

 単純に訊く機会がなかったのだろう。 


 しかし漠然とした質問だな。

 ノエルは一体何を聞きたいのだろうか。

 単純に一言、友達だと答えてしまってもいいが、どうもそういうことを訊いてきているわけではなさそうに見える。


 ノエルの表情からは好奇心のようなものは感じられず、先ほどの声音も単純に疑問に思っていたことを訊いただけというような感じ。

 態度だけを見れば普通に雑談の一つとして挙げられた話題でしかない。

 だが、言葉を発し終えたノエルの姿からはどこか真剣味を帯びているような印象を受ける……ような気がする。


 ……まぁ、普通にどういう意図の質問か訊いてしまえばいいか。


「質問の意図がよくわからないが、具体的に何を訊きたいんだ?」


 フィナンシェから俺やフィナンシェがシフォンの友達であるという話は聞いているだろうし、まさか本当に俺がシフォンとの関係性やシフォンに対してどのように思っているかなどということを訊いてきているわけではないだろう。

 これでもし大した意図もなくただなんとなく気になったから訊いてみただけとかいう答えが返ってきたら、変に深読みしてしまった数秒前の自分を殴り飛ばしたくなるくらい恥ずかしい思いをするかもしれない。


「シフォン王女のこと、怪しいと思わない?」


 返ってきたのは全く予想もしていなかった答え。

 少し声が潜められていたのは、不敬ともとれるような発言だったからだろうか。

 友達だと思っていると答えれば良いところを変に深読みして質問し返してしまったのではないかという不安は見事外れてくれたみたいだが――シフォンが怪しい?

 ノエルは何を言っているのだろう。

 質問し返したせいで余計に意味がわからなくなった。


「シフォンが怪しいとは思ったこともないが……」


 初対面時には怪しいと思わないこともなかったが、シフォンと行動をともにし始めて以降は少し世間に疎い優しく感受性豊かな女の子という印象しかない。

 幾度か記憶を辿ってみてもシフォンを怪しいと思えるようなことは何もないんだが、ノエルはどうしてシフォンが怪しいなどと考えたのだろうか?


「そうね。シフォン王女は怪しくないわ。正確にはブルークロップ王国が怪しいと言った方がいいかしら?」

「どういうことだ?」


 さっきからノエルは何が言いたいんだろうか。


「フィナンシェさんやギルド長から聞いた話だと、アンタが二つ首ヒュドラを倒した時にシフォン王女もその場にいたのよね? それも、アンタが止めを刺す前にシフォン王女の護衛騎士たちが二つ首ヒュドラを大分弱らせていたとも聞いているわ」

「そうだな。それは事実だ」


 俺やフィナンシェが駆けつけたとき、ヒュドラはすでにカード化しかけていた。

 トールとその弟子や筋肉ダルマたちの尽力もあったとはいえ、何故かシフォンを追ってきたというヒュドラからシフォンを守り抜き、ヒュドラを追い詰めたのは、紛れもなくシフォンの護衛騎士たち六人だ。

 二つ首ヒュドラ戦におけるテトラたちの功績はデカい。


「そこがおかしいのよ。ふつう、自国の兵が――ましてや王女やその護衛騎士がヒュドラなんていう伝説級の魔物の討伐に貢献していたのなら、もっと周囲に喧伝するはずなのよ」


 そういうものなのだろうか?

 俺にはよくわからないが、ノエルがこう言っているのだ。

 そういうものなのかもしれない。


「わかってないようだからもう少し詳しく説明するけど、ブルークロップ王国は代々第一王子が王位を継ぐことに決まっているの。これは絶対よ。後継がカラメラーゼ王子であるという事実は何があっても揺るがないわ。それに、カラメラーゼ王子自身もすでに文武ともに優秀という名声を轟かせていることは知ってるわよね? つまり、シフォン王女がヒュドラを討伐したからといって王位継承権を巡って内乱が繰り広げられるようになるわけじゃないのよ。それなのにヒュドラを倒した功績すべてをアンタに譲って、シフォン王女やその護衛騎士がヒュドラ討伐の場にいたことを知る者すら極わずかなんて状況――怪しいと思わない?」


 ……今の長々とした説明はおそらく政治関連の話題だったのではないかと思うが、そこら辺の事情に疎いせいかノエルが何を言っているのかほとんど理解できなかった。

 わかった部分だけを抜き出すと王女がヒュドラ討伐に貢献したのにそのことが知られていないのはおかしいということになるが、ノエルの言いたいことはそういうことでいいのだろうか?

 だとすると――。


「ブルークロップ王が過保護なだけなんじゃないか?」


 この街に来たいって言い続けていたシフォンの要求を外は危険だからという理由で何年も撥ね除け続けるくらい心配性らしいし、命知らずなカードコレクターからシフォンが狙われないようにしたかったとか、十分ありえる話なのではないだろうか。


「それか、アンタを有名にしたかったかね」

「俺を? なんのために?」

「そんなことアタシに訊かれてもわからないわよ。誰かがアンタに箔を付けたかったんじゃないの?」


 俺の考えに続けるようにして述べられたノエルの考えに疑問を呈すも、納得のいく答えは得られない。

 はぐらかされたわけではなく、ノエルも本当にこの状況になった真意がわかってないみたいだが、もしノエルの言う通り誰かが俺に箔を付けたくて俺が【ヒュドラ殺し】と呼ばれるような状況を作り上げたのだとしたら、その目的は何なのだろうか。

 …………わからないな。


 その後も、どうして六つ首ヒュドラ討伐なんていう危険な任務に第一王子のラーゼがついてきたのか、数百名という兵士の数に比べて回復魔法の使い手が一人では少なすぎる――最低でも二人以上いればヒュドラ戦ももっと楽だったのではないかというノエルの疑問に適当に答えつつ、「そろそろ特訓に戻るわ」とノエルが立ち上がるまでノエルに付き合った。

 ノエルの意識をテッドに近づく方法から引き離すことには成功していたみたいだが、けっきょく頭をつかわせてしまった。

 今の休憩は、しっかり休憩としての役割を果たせていたのだろうか?

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