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介抱

 髪の隙間からチラリと見える横顔は血の気が引いて、青白い。

 考え事をしていたあいだにノエルの顔色がひどいことになっている。

 両手を床につき俯いているせいで綺麗な金髪が顔を隠すように下に向かって垂れ、ベッドの上から床にへたり込んでいるノエルを見下ろす形になっているため位置的にもほとんど見えていないにもかかわらず、それでもわかるほどの青白さ。

 呼吸も苦しそう。


 暇を潰すことに夢中で気づかなかったが、よく見るとノエルの昼食として用意していたパンや野菜なんかにも一切手が付けられていない。

 特訓開始から五時間以上が経過しているというのに、その間ロクに休憩もとらずにテッドの魔力から感じるらしい身が縮むような思いと死への恐怖に耐え続けていたのだろうか。


 これは、一度休ませた方がよさそうだ。


「休憩だ。ひどい顔してるぞ。それに、昼も食べてないだろ」

「…………そうね。お昼も食べていなかったわ」


 顔を上げる気力もないのか、俯いたまま覇気のない声だけが返ってくる。


 これまではしっかりと自制できていたはずなんだが……ここまで無理しているノエルは初めて見るかもしれない。

 時間はたっぷりあるし、今まで通りゆっくりと着実に距離を縮めていけばいいはずなのに、どうしてこんなになるまで無茶をしているのだろうか。

 ノエルの考えがよくわからない。


《テッド、かばんに戻ってくれ》

『休憩か』

《そうだ。しばらく休憩だ》


 テッドがかばんに入っていくのを見ながらかばんの中にいくつか食べ物を入れていく。

 これだけ入れればテッドも文句は言ってこないだろう。

 今のうちにしっかりとノエルを休ませないとな。


「立てるか?」

「……ゎ」


 何か言っているようだが全然聞き取れない。

 頭も小さく動いていたように見えたが、それは気のせいか、それとも力なく首を振ったのか。

 一つわかることは、自分で立ち上がる気力もなさそうだということ。


 とりあえず、ベッドの上に移動させるか。

 硬い床の上よりは幾分かマシだろう。


 そう思い、ノエルに肩を貸し立ち上がらせる。

 自分の足で自分の体重を支えるくらいはできるのか、思ったよりも重くない。

 歩くことはできないみたいだが、ベッドの中央付近までは五~七歩程度。

 移動するたびにノエルの体重が圧し掛かってくるとはいえ、この距離なら大した苦労でもない。


「寝かせるぞ」


 声をかけ、ノエルをベッド脇中央に座らせてから上半身を寝かせ、両脚もベッドの上にのせる。

 食事はもう少し回復してからの方がいいだろうから、ベッドから落ちないように身体の位置を調整してやりさえすればあとは放っておいても大丈夫だろう。


 一応、水くらいは飲ませておくか。


「水は飲めるよな? 身体を起こすぞ」


 背中に手を回し上半身を起き上がらせ、水の入った筒型の水差しをノエルの口に当ててやると、その中身をノエルが飲み下す。

 喉が二度、三度……としっかり動き、誤嚥する様子もない。

 問題はなさそうだな。


 ノエルの小さな口が、少しずつ水を飲み込んでいく。


 こうしていると風邪を引いたチビだちを看病したときのことを思い出すな……。

 何人か看病した記憶があるが、マルクのときは特に大変だった。

 院長がいなければマルクは確実に死んでいただろう。

 たしかあのとき熱が上がりすぎて危険な状態にあったマルクに対し院長が……あれ?

 あのとき院長は何をしたんだったか。思い出せそうで思い出せない。


 まぁ、院長が何をしたかはあとで思いだせばいいか。

 今はノエルだ。


 水の残量を確認し、このくらい飲めば十分だろうと思ったところで水差しをノエルの口から離す。


「…………ありがと」

「どういたしまして」


 ……ん?


 チビたちの看病をしているような気になっていたから何も疑問に思わず返事をしてしまったが、冷静になって考えてみるとノエルが俺に対して素直に感謝を伝えてくるのは珍しいな。

 感謝の言葉をもらうことはあっても、いつもはもっとツンとしているのに……。

 俺に対して素直に礼を言ってしまうくらい疲れているということか。

 あるいは、素直に感謝する気はなかったが声に感情をのせられないほど疲れていたためにツンとしているように聞こえなかったか。


 なんにせよ、呼吸もまだ苦しそうだし汗も凄い。

 テッドの魔力に触れ続けていたのだから当然といえば当然だが、顔色も依然として悪いまま。

 どのくらい休めば食事をとれるくらい元気になるのだろうか?


 とりあえず、気休めに浄化魔法でもかけておくか。

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