表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/375

真相は闇の中

 じっとしてることに飽きたのかテッドは昼寝を始めてしまったし、ノエルは話す余裕もないほど憔悴している。

 フィナンシェも帰ってこない。


 暇だな……。


 この世界の文字を練習するために書き始めた日々の記録も昨夜のうちに昨日の分まで書き終えてしまっているし、その記録もすべて読み返し終えてしまった。

 依頼で街を離れる場合には冒険者ギルドに物を預けられるという仕組みを利用してしまったせいでベールグラン王国へ向かう前に購入していた本はすべてギルドに預けたまま、手元にはない。

 コマも一人で遊ぶには寂しすぎる。

 メルロを扱う練習はまたノエルに詰め寄られる可能性があるからノエルの前ではやりたくない。

 せめて眠気があればテッドのように昼寝に興じるという贅沢もできたが、生憎と眠くはない。


 眠るには早く、外に出るにしても一人では心許ない。


 何か暇潰しに使える物はないかと視線を巡らせてみても要望に応えてくれそうな物は見当たらず。

 物で暇を潰すことができないのであれば物以外のモノ――すなわち考え事で暇を潰すしかないという考えに至ってしまうのも致し方ないこと。


 外に何もないなら自身の内側に求めるしかない。ということで考え事を始めてみたものの、特段考えなくてはいけないようなことはないように思う。

 つまるところ、考え事をしようにも、考えることが見つからない。

 フィナンシェやノエルなら考えるべきことの一つや二つくらいすぐに思い浮かぶのだろうが……我ながら自分の頭の出来が残念でならない。


 何かないだろうか。

 考えなくてはいけないようなことや暇を潰せるような考え事。

 一つくらい思いつきそうな気もするんだが、何かないか、何か………………そういえば、何事もなく無事に戻ってこられたな。


 たしか、モラード国で俺を攫おうとした操糸魔法とやらの使い手がベールグラン王国の中でも王族に近い権限を持つ者にしか命令権のない特殊部隊の所属だったとかなんとかで、その部隊の者が襲ってきたということは俺を狙っている人間がベールグラン王国の上層部にいる可能性が高く、ベールグラン王国では人間からも襲われる危険があるという話だったはずなんだが、あれは一体何だったんだろうか。

 王都がメチャクチャになっていたから、俺を攫おうとしたやつもヒュドラの攻撃に巻き込まれて死亡またはカード化していたとか、俺に構っているような余裕がなくなっていたとか、そういう理由があって襲われなかっただけなのか、それともすでに俺を攫ったり襲ったりする理由がなくなっていただけなのか。


 ベールグラン王国に向かっている途中のどこかで「ベールグラン王国はヒュドラが出現することを知ってたのかもしれないね。だから焦ってトールを攫おうとしたのかも」とフィナンシェが言っていたような記憶があるから、もしフィナンシェの言う通りベールグラン王国が俺を攫おうとした理由が【ヒュドラ殺し】と呼ばれている俺の力を頼るためだったとしたならば、ヒュドラが出現し王都が壊滅した時点で俺を攫う理由が消失した可能性もなくはない。

 ただ、その場合モラード国におけるダララのダンジョンのときのようにもっと他国に頼るなり俺に対しても普通に交渉を持ちかけるなりといくらでも穏便な方法はあったのではないかという疑問が残る。


 そう考えると、俺を狙っていた偉い人物が王都の壊滅に巻きこまれてカード化または死亡したか、俺に手を出せるような状況ではなくなったから襲われなかったという理由の方がしっくりくる。


 王都に暮らしていた王族か貴族が一人でも見つかれば真相もわかるのかもしれないが、残念なことに王都を捜索したときに王族や貴族のカードはなかった。

 トーラの監視のもと救出者の名簿が作成され、その名簿にラーゼが幾度も目を通した結果いなかったというのだからこの情報に間違いはない。なにしろ、大国の第一王子であるラーゼのお墨付きだ。見落としや誤りがあるはずがない。


 一人も見つからなかったのは、王族や貴族たちはヒュドラが出現することを知っていて事前に退避していたからか、ヒュドラの出現場所が王城付近だったからか。

 どちらにせよ、ヒュドラの出現当時王都にいたはずの王族や貴族たちは誰一人として見つからなかったし、発見されたという話も聞いていない。

 まぁ、王都壊滅から数十日が経過しても未だに見つかっていないということは今後も見つからない可能性が高いんだろうな。


 いろいろと考えてはみたが、結局のところ関係者が一人も見つかっていないのではどうしようもない。

 せめて俺を攫おうとした操糸魔法の使い手と同じ部隊に所属している者でも発見できれば何かわかるかもしれないが、仮に発見できるとすれば王都跡から捜し出したあの六千枚以上のカードの中からしかありえない。

 しかも、部隊内では本名で呼び合うことも、ましてや本名を教え合うこともなかったと聞いているし、あの大量のカードの中から名前も容姿もわからない人物を探し当てることは不可能。

 もし探し出せたとしてもその人物が正常な精神を保てているという保証もなければシフォンたちの回復魔法で元に戻るという保証もない。


 やはり、真相は闇の中か……。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ