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一人は危険

 朝起き、飯を食い、ベッドに腰かけ寛ぎを得る。

 いつもと変わらぬ朝のひと時。


 ノエルと同じ部屋で寝起きするのは初めてだったため何か変わったことでもあるかと思ったが、ただ寝る場所が広く豪華になっただけでそれ以外は昨日までのテント生活と何も変わらない。

 今のところは問題が起きることもなく、むしろ目的地に向かって移動する必要がなくなった分ノエルものんびりと大人しく朝の時間を過ごしていて静か。

 昨日までよりもゆったりとした時間を送ることができている。


「今日からしばらくは休みだったよな?」

「ええ、そうよ。昨日まで忙しかった分、しっかりと身体を休めなさい」


 ノエルに話しかけるとすぐに返事がくる。

 仲直り以前は話しかけても無視されることもあったことを考えるとだいぶ友好的になったな。


 まぁ、それはそれとして今日はどうしようか。

 冒険者稼業をしばらく休業すると最初に聞いたときは一日中部屋で過ごして休養に努めようと思っていたが、今の体調は思っていたよりも悪くない。

 久しぶりに街中を見てまわるというのも選択肢の候補としては十分にアリだ。


 フィナンシェは新しいメニューや店が出てないか確認すると言って朝早くから飲食店巡りに出かけていってしまったし、ノエルはノエルでテッドの魔力に慣れるために特訓をしたいからテッドを貸してくれと言ってきている。

 ノエルがテッドのそばでも普通に行動できるようになることはパーティの今後のためにも必須であるし、テッドの魔力に慣れる特訓をするために休息期間を長くとっているような節もあるから、テッドを預けることに否やはない。

 しかし、そうなると今日は一人で行動することになるんだよな。


 ノエルはこの部屋の中でテッドに近づく特訓をすると言っていたから、もし外に行くことを選択すれば俺は必然的に一人で行動することになる。

 たぶん大丈夫だとはいえ、カードコレクターに狙われる可能性を考えると一人での行動はできるだけ避けたい気持ちもある。

 せめてテッドと一緒であれば怪しいやつが近づいてきてもテッドが気づいてくれるし、回避能力も上がるから襲われても逃げ切れる自信もあるんだが……。


 こんなことで悩むことになるならフィナンシェについていけばよかったな。

 テッドはしばらくノエルと一緒にこの部屋の中に籠ることになるし、そうなると俺がこの部屋の外で一人にならないためにはフィナンシェと一緒にいるしかなくなるわけなんだが肝心のフィナンシェが今どこにいるのかはわからない。


 ……今日はもう外に出るのは諦めるか。

 これといって行きたい場所があるわけでもないからな。

 おそらく問題ないとは思うが万が一敵に襲われでもしたら目も当てられない。

 身体を休めた方が良いのも事実であるし、今日はテッドやノエルと会話でもしながらのんびりと過ごそう。


「準備できたわ。始めてちょうだい」


 俺の今日の予定が決まると同時、ノエルの方も特訓を始める準備ができたようだ。

 服装なんかは先ほどまでと何も変わっていないが、顔つきが変わっている。


「テッド、出てきてくれ」


 気合十分といった様子のノエルの姿を確認してからテッドに声をかけ、かばんから出てきてもらう。

 テッドがかばんから姿を見せた瞬間、ノエルの身体がびくりと震える。


 ノエルがテッドの魔力に怯え始める距離は五メートル。

 この部屋は広いため壁際にいるノエルとその反対の壁際に寄せたテーブルの上に出てきてもらったテッドの距離はギリギリ五メートルに届いていないはずなんだが、それなのに身体が震えたということはノエルはまだテッドのことが恐いのだろう。


『ここにいればいいのか?』

《そうだ。今日からしばらくはそこでノエルの特訓に付き合ってやってくれ》

『食べ物はあるのか?』

《ちゃんとある》


 念話を送りながらテッドのいるテーブルの下から果物を取り出し、テッドの横に置く。

 テーブルの真下に置いてある大きな袋の中には大量の果実や干し肉が用意してある。食事の心配はいらない。


『それなら構わん』


 テッドが果物をカラダに取り込み、ノエルがペタンと座り込む。

 記録は三メートル六十センチ。


 ベールグラン王国で討伐軍と別れて以降、翌日の移動に支障が出ない程度に毎晩訓練を行っていたおかげか四メートル以内にまで近づけるようにはなってきたがそこから先が中々難しいらしい。

 魔力に対して鋭敏というノエルの長所が見事に裏目に出てしまっている。

 ここ数日はまったく進歩がない。


「アンタ、どうすればもっと近づけるようになるか教えなさいよ!」


 それでも叫ぶだけの気力がある分、出会った頃よりは格段に進歩している。


「何度も言ったと思うが、俺はスライムに近づいても何も感じない。だから、嫌な感じとやらの克服法もわからない」

「なら、どうすればもっと近づけるようになるか考えなさいよ!」


 真剣な表情と声であることからしてテッドに近づけないことにムカついて八つ当たりをしてきているわけではないことはわかるんだが、やる気がありすぎるのも困りもんだな。

 どうすれば近づけるようになるかと俺に訊かれても困る。

 ノエルも自分で色々と考えているだろうし、フィナンシェにもテッドに近づくコツはないかと何度も訊いている。

 フィナンシェもノエルのためにと必死で頭を働かせているのだ。二人が真剣に考えてもわからない解決法を二人よりも頭が悪くテッドに近づくことの大変さもよくわかっていない俺が思いつくはずもない。


「くやしいっ。どうして近づけないのよッ!」


 さて、今日は何センチくらい近づけるようになるだろうか。

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