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少しの変化、色々なカタチ

「――要するに、アンタの体験を大事な会議の参考資料としてまとめるから話す内容を整理しておきなさい、ってことね」

「なるほど……」


 ノエルに対し「ギルド長室に行ったあとのことを覚えていない。何があったか教えてくれ」と正直に頼んでみたら「アンタって正真正銘のバカね。ふざけてるの?」という厳しい言葉のあと、「しかたないわね……」と意外にも懇切丁寧にすべてを教えてもらうことができた。

 これで、ギルド長へ報告した内容から俺たちに伝えられた会議関連の話まで、すべてを把握することができたはずである。


「それにしても、フィナンシェはどこに行ったんだ?」

「さあ? 晩ごはんがどうとか言って出ていったわよ?」

「つまりは夕飯の買い出しか」

「そうなんじゃない?」


 今、部屋の中にいるのは俺とテッドとノエル。

 目が覚めたとき何故かフィナンシェは部屋の中におらず、その代わりに何故かノエルが部屋の中にいたわけだが、今が夕飯前の時分だというのならノエルはそろそろ自分の宿に戻った方がいいのではないだろうか。

 フィナンシェはおらず、テッドはギルド長との会話内容をまったく覚えていなかった……というか最初から聞いていなかったということで、何故か部屋の中にいたノエルに対しギルド長室に入って以降のことを質問して引き留めてしまった俺が言えることではないかもしれないが、宿によってはこのくらいの時間に受付を閉め切ってしまうところもあるのだから、のんびりと椅子に座っている場合ではないような気がする。

 そうでなくても、俺の記憶がある範囲ではノエルは宿で部屋を予約していない。

 さすがにないとは思うが、ノエルがもしギルドを出て真っすぐここに来たあともずっとこの部屋にいたのだとしたら、まだ今夜の寝床を確保できていない可能性もある。


 窓の外は、もう暗い。

 ノエルが以前利用していた宿がどんな宿かは知らないが、満室になってしまう可能性もゼロではないのだから急いだ方がいい……と思うが、当のノエルはこの部屋から出ていく気がないように見える。

 部屋の天井スレスレに火球と水球を浮かべてくるくると回している場合ではないと思うのだが……。


「ノエルは帰らないのか?」


 俺が寝ていたあいだに部屋の確保は完了していて宿に戻る時間も遅くていいからこの部屋で夕飯を食べてから帰る、というような返事を予想しての質問だったのだが、次の瞬間その予想は完全に外されることになった。

 小首を傾げながら俺の発言の意図がよくわからないといった様子で口を開いたノエルが――


「へ? 帰るもなにも、今日からアタシもこの部屋に泊まるわよ?」


 ――と口にする。


「え?」


 ノエルの発言の意味はわかった。

 しかし理解が追いつかない。

 困惑のあまり、自然と聞き返すような声が出る。


「だから、アタシもここに泊まるわよ?」


 俺がどうして聞き返したのかわかっていないのだろう。

 聞き取れなかったとでも思ったのか、ノエルが再度同じことを言ってくる。


 ――アタシもここに泊まるわよ?


 もう一度言われたその言葉を反芻しながら、室内に視線を巡らせる。

 よく見ると、いつもの二人用の部屋とは違う箇所がいくつかある。


 まず、ベッドの数が二つではない。

 いつもなら二つ横に並んでいるはずのベッドの数が一つ増え、三つのベッドが等間隔に横に並んでいる。


 次に、ベッドの数が増えたことによって部屋の大きさも変わっているのか、全体的にいつもより広い。

 部屋の中に置かれている椅子の数も増え、テーブルも一回り大きくなっている。


 他にも、部屋の隅に置かれたノエルの物と思われる荷物、家具の配置、ベッドの大きさ……細かい部分がいつもと違う。

 ベッドの大きさに関しては確実ではないが、三つのベッドを横並びに配置するためか、おそらく二人部屋用のベッドよりも少し小さくなっている。


 ギルドに行く前、フィンシェが部屋をとったときにはすでに三人部屋と確定していたのか、それともギルドを出たあとにノエルも俺やフィナンシェと同じ部屋に泊まることになったのか。

 ノエルと同室になるなんて話は聞いた覚えがないから後者だろうな。


 というか、それ以前にこの宿に三人部屋なんてものはなかった気がするんだが……。

 俺たちがこの街を離れていたあいだに新しく作ったのだろうか?


「この街を離れる前に借りていた家はもう引き払っちゃったし、ベールグラン王国からここまで三十日以上も同じテントの中で寝てたんだからアタシと同じ部屋でもかまわないわよね?」

「それは、まぁ、かまわないが」


 ノエルが宿暮らしではなく貸家暮らしだったことはいま知ったが、他人との共同生活には慣れている。その言い分も理解できる。

 俺たちと喧嘩別れする形で街を離れたから、もう戻ってこないと思って借りていた家を引き払ってしまったのだろう。

 ベールグラン王国でテントを共にするようになってから今朝まで何の問題もなかったし、同室であることにも文句はない。


『飯はまだか』

《そういえば遅いな》


 俺も腹が減ってきた……。


 夕飯を買いに行ったというフィナンシェは一体どこで何をしているのか。

 そう思いかけた瞬間、部屋の扉が開かれる。


「ただいまー! すっごく珍しいもの見つけてきたよ!」


 そう言ってフィナンシェが差し出してきたテンプラなる黄色い料理は、色々な形があって見た目にも面白く、味も美味しかった。

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