王都の姿
訓練を行いつつ討伐軍に同行すること十日。
作業中の兵士たちの邪魔にならないよう討伐軍から少し離れた場所で訓練をしていた俺のもとに「王都が見えてきた」という情報をテトラが伝えに来てくれたから訓練を中断して王都が見える場所まで連れてきてもらったはずなんだが、この場所から見えるのは遠くにある瓦礫の山のみ。他にはヒュドラが通った跡か平原しか確認できない。
ただ、ヒュドラの通った跡にできた穴だらけで荒廃してしまっている見るも無残な状態の道は、今この場所からあの瓦礫まで真っすぐ繋がっている。
王都が見える場所までの案内を頼んで連れてきてもらったのがこの場所。
しかし、ここから見えるものは瓦礫の山だけ。
そして討伐軍の進路も瓦礫の山に続いている。
……まさか、あの瓦礫の山がベールグラン王国の王都だとでも言うのだろうか?
「そうだ。あれが現在のベールグラン王国王都の姿だ」
訝しげな表情でも浮かべていたのだろうか、隣に立つテトラに顔を向けるとすぐにあの瓦礫の山が王都の成れの果てであることを教えてくれた。
テトラが言うのだ。
あの瓦礫の山が王都であることはもはや疑いようがない。
だが、どう見てもおかしい。
まず、完全に街の形を保っていない。
王都だというのに城もなければ城壁もない。
残存している建物の一つすら確認できない。
次に、瓦礫の山が小さすぎる。
まだ遠くにあるためいまいち判然としないが、瓦礫の積み上がっている範囲とあの瓦礫の量から考えると、どう見ても王都と呼ばれるほどの都市が存在していたようには思えない。
あの瓦礫の量だとせいぜいそこそこの大きさの村一つ分といったところ。
他にも存在していたはずの大量の建物なんかの瓦礫がほとんど残っていないのは王都がヒュドラの毒に溶かされまくったからだろうか?
ここに来るまでのあいだに王都の被害が甚大であることは聞いていたが、予想していたよりも酷いありさまだ。
つい数十日前まであの場所に王都が存在していたなんて、言われなければ気づくことすらできなかっただろう。
「如何に堅牢に守りを固めた王都といえど、ヒュドラが相手ではその守りも意味を成さない。王都が滅びるまで一日もかからなかったそうだ」
テトラが述べた言葉が、ヒュドラの脅威を痛いほど物語っていた。
遠くから見たときには気づかなかったが、近づいてみれば一目瞭然。
瓦礫の山の周辺はかなりの高範囲にわたって毒によって空けられた多数の巨大な穴やヒュドラの爪痕が残されている。
『六つ首ヒュドラは王都に突然現れた』
その情報通り。
俺たちが遡ってきた道以外に王都へと続いているヒュドラの破壊跡は見当たらない。
傷痕と瓦礫だらけになってしまった今の姿ではどこがこの王都の中心だったのかわからないが、六つ首ヒュドラは王都の外から来たのではなく王都の中心に突然出現したという、聞いているだけでも恐ろしいその話は嘘偽りのない真実であったらしい。
「ひどい……」
「そうね。何も残ってないわ」
元王都ともいえる場所の惨状を見て沈痛な面持ちを浮かべているフィナンシェとノエルが静かに呟きながらゆっくりと王都全体を一見する。
二人は以前にもこの場所を訪れたことがあるらしいからそのときの記憶と目の前の光景を比べているのだろう。
俺はこの王都が無事だったときの姿を知らないが、王都というくらいだ。きっと綺麗で賑やかな場所だったにちがいない。
そのきれいな王都と見るも無残な今の王都との比較……もし俺の生まれ育った町ルーゼやリカルドの街がこの王都のようなことになったらと思うと、想像しただけでも胸が強く締め付けられる。
この場所とは何の縁もない俺でも悲惨だと思う光景。
二人にとって、そしてそれ以上にこの王都で暮らしていた人たちにとって、王都のこの現状が痛ましいものであることは間違いない。
「これより、捜索救助活動を開始する! 聖属性魔法と土属性魔法をつかえる者はこれまでどおり毒の除去と地面の整備! それ以外の者はカード化しているベールグラン王国民の捜索にあたれ!」
事前に通達されていたとおり、トーラの号令が終わると各自与えられた命令に従って行動を開始した。