そこそこ長い夜のはじまり
兵士たちと一緒に夕飯を食べ、情報交換。
ブルークロップ王国の王族や王都の現状について俺たちに話してもいい範囲で教えてもらい、こちらからはリカルドの街の情報を提供。あとはノエルが得意げに魔法知識を披露していたから、ノエルからの魔法講義も提供したことになるだろうか。
兵士たちからの過剰な英雄視はむず痒く居心地が悪かったが、カラク工房謹製可変式金属棒メルロを伸縮する実演やノエルの披露した実用的な魔法知識の数々は兵士たちにも好評であったし、おそらく良い関係を築くことができただろう。
シフォンの国の者たちとはできる限り仲良くしていきたいからな。
良い関係を築けていれば幸いだ。
「おいしかったね。ブルークロップ王国のアイアンビット料理!」
「そうね。悪くない味だったわ」
六人でも使用できそうな、俺たちに用意された三人で使用するには少し大きいテントの中、フィナンシェとノエルが夕飯についての感想を言い合う。
たしかに、先ほど振舞われたステーキやスープはかなり美味かった。
特に、ステーキ。
ヒュドラに勝利したお祝いということで振舞われたアイアンビット料理だったため、ヒュドラ討伐に大きく貢献したとされる俺たちには一番良い肉の部位を使用したステーキが配膳されていたらしい。
アイアンビットで焼かれたビッグワイルドボア―という魔物の肉は絶品だった。
ビッグワイルドボアーのあとに出されたサーマルチキンという魔物の肉もアイアンビットと相性抜群であったし、量も多く満足のいく夕飯をいただくことができた。
まさに討伐軍さまさま。
討伐軍がアイアンビットを何体かカード化できていたことと討伐軍の中にアイアンビットを使用したブルークロップ王国流の調理法を知っている者がいたことは運が良かったと言える。
夕飯前のトーラからの話によると今日の夕飯にアイアンビットの使用を許可してくれたのはラーゼとのこと。
一国の王族が他国の独占していた魔物を勝手に使用してしまってもよいのかと、食べ終えたあとに疑問に思ったが、俺にも思いつくようなことを大国の第一王子やその護衛騎士たちが気づかないはずがないか。
よく考えると討伐軍はヒュドラという脅威を取り除いてくれた存在。アイアンビットを使用したことに何か問題があったとしてもベールグラン王国は強気に出られないだろう。
そもそも夕飯時に兵士たちから聞いた話ではベールグラン王家は全員消息不明で王都も壊滅的。
このままだとベールグラン王国自体がなくなる可能性もあるらしいし、それに比べればこの程度のことは問題にすらならないのかもしれない。
『一人多くないか?』
考え事の最中に頭に届いたテッドからの質問。
一人多いというのはノエルのことだろうか。
《聞いていなかったのか? リカルドの街に帰るまで野営時はノエルも俺たちと同じテントで寝泊まりすることになったんだ。テッドには悪いが、しばらくはかばんの中で寝てもらうことになる。最近はかばんの中で寝ていることも多いし、難しいことじゃないだろ?》
『かばんから出なければいいのだな?』
《そうだ。ノエルが近くにいるときはかばんから出ない。これだけ守ってくれればいい》
『了解した。そのくらいなら別にかまわん』
よし。これで何も問題はないな。
テッドはノエルが同じテントで寝ることを知らなかったみたいだがその話はいま伝えて了解ももらった。
フィナンシェがノエルの相手をしてくれているおかげで懸念していたノエルからの質問攻めも今のところはない。
ずっとこの調子ならノエルと同じテントで寝ることで困るということもなさそう――
「――そういえば、メタルロッドと言ったかしら? さっきの棒をつかった実演、もう一度見せてちょうだい」
……困ることもなさそうだなんて考えてしまったのがいけなかったのだろうか。
ノエルとの共同生活で困ることもなさそうだと考えた矢先に飛んできたノエルからの要望。
正直、面倒くさいにおいがぷんぷんしている。
ノエルが興味を持つのは魔法関連のことが多い。
そして、ノエルは興味を持ったことに関してしつこく、詳しく訊いてくる。
昼間の移動中に聞いた分には催眠魔術を使用すると物覚えが良くなるらしく、ノエルは知りたいことがあると偶に自分に催眠魔術をかけてまですべてを知ろうとする癖があるらしい。
カナタリのダンジョンで俺がテッドと話せると知った直後のあの奇行も催眠魔術によるものだったようだし、ノエルにああなられると得体の知れない恐怖に襲われる上に疲れる。
メルロも魔力をつかって長さを変えられる金属棒であるから、それで興味を持ったのだろう。
とはいえ、メルロの実演ならメルロに魔力を込めたり逆にメルロから魔力を抜いたりするだけでいい。詳しいことはメルロを作ったカラク工房に訊いてくれとも言えるし、そこまで面倒くさいことにはならないか。
幸い、まだ自身に催眠魔術をかけてもいないみたいだし、さっさと終わらせてさっさと寝てしまおう。