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暴走して最良

 ブルークロップ王国兵士たちの勝鬨の声が収まり、各々が古城からの撤退の準備を進め始めた頃、トーラの口からやっと先ほどの騒ぎに対する詳しい説明が行われることとなった――


「トール殿の発動した魔法がヒュドラを打ち負かし、毒を消滅させたのだ」


 ――終わった。


「え……説明、終わりか?」


 トーラが俺に対して下手にでていたからというのもあるが、つい敬語を忘れて聞き返してしまった。

 俺の口調を気にする様子もなく「うむ。それが全てだ」と頷きを返してくるトーラ。

 その態度を見るにどうやら本当に話は終わったと思っているようだが、正直、まったく理解できなかった。


 一番わからないのは俺の魔法のおかげで助かったというように聞こえた部分だ。

 トーラがどうしてそう思ったのかは謎だが、俺なんかの魔法であの量の毒やヒュドラがどうにかなるわけがない。


 この人は何か勘違いをしているのではないかという疑念が頭の中を駆け巡る。


 しかし、よく考えたらトーラは村の用心棒上がりの武人だ。

 もしかしたら説明などの頭をつかう仕事は苦手なのかもしれない。

 自分自身のことだ。本人もそれはわかっているはず。

 それでも討伐軍の長としての責を果たすため自らの口から俺に対して精一杯の説明をしてくれたにちがいない。


 ただ、詳しく説明してもらえると思っていただけに拍子抜けという気持ちは強い。

 状況もまったく理解できていないし、むしろ困惑も強まった。


 もっとちゃんとした説明をしてくれるやつはいないのか。

 本当にこれで説明は終わりなのだろうか?


「私が補足しよう」


 助けを求めて周囲に目を向けるとテトラが前に歩み出てくれた。

 フィナンシェもその横に立つ。

 よかった。二人が事情を説明してくれるようだ。


 二人は顔を見合わせ、こくりと頷く。

 今の一瞬でどちらが先に話すかを決めたらしい。


 俺に近づき、先に口を開いたのはフィナンシェ。


「トールが魔法をつかったと思ったら空がピカーッて光って全部解決したんだよ! さっすがトールだよね!」


 円を描くように両腕を大きく広げるという躍動感ある身振り付きの説明。

 何か凄いことが起きたのだとわかる。


「……………………それで、具体的にはどうなったんだ?」

「え? いま言ったことがすべてだよ?」


 …………またか。


 まずは概要を説明したあとに深く掘り下げるつもりなのだろうと思って言葉の続きを待っていたのだが、俺の期待していた言葉の続きは存在していないらしい。

 トーラと同じく、フィナンシェも今の説明で十分だと思ってしまっているみたいだ。


 フィナンシェならもっと論理立てた説明もできるはずなんだが……。

 まだそのときの興奮覚めやらぬといった感じなのだろうか。

 普段よりもアホっぽい。


 こうなったら――。


「古城周辺へと毒が降り注いだあの時、毒が地面や兵士たちに当たる直前に辺り一面が眩く光り輝いたのだ。その輝きが収まった時にはすでに毒は完全に消え去り、ヒュドラの姿もそこにはなかった」


 これはもうテトラからの説明に期待するしかなさそうだと思い彼女の方へ目を向けると、テトラはすぐに説明を始めてくれた。


 今のところはしっかりと話についていけている。

 突如発生した謎の光が毒とヒュドラを片付けてくれたということだろう。

 先の二人の説明よりもずっとわかりやすい。


「後から聞いた話によるとその光が確認される寸前にトール殿が魔法を発動していたことが分かった。フィナンシェ殿と第二部隊の全員がそのことを確認していることからもこれは間違いない。あとは簡単だ。謎の白い光とトール殿の発動した魔法、二つを結びつけることは誰にでもできる」


 なるほど。

 その証言と状況から、謎の光を発生させたのは俺だと判断したわけか。


「それにあの時、トール殿の他にあれだけの規模と効力を持った魔法を発動できる余裕のある者もいなかった。我々が仲間を失わずにすんだのはトール殿のおかげだ。心より感謝している」


 先ほど何度も頭を下げられたにもかかわらず再びテトラから感謝の意を示される。

 つい数分前に「何度頭を下げても足りないくらいだ」と言ってはいたが、まさか本当に再びするとは思っていなかった。

 こう何度も頭を下げられるとこちらが委縮してしまう。

 そろそろやめてほしい。


 というか、王族を守護すべき存在であるはずの護衛騎士が俺のような一介の冒険者相手にこう何度も頭を下げることは問題にならないのだろうか。

 俺はシフォンの友人だから頭を下げても問題ないとか、そういう理由でもあるのだろうか?






 テトラからの説明を聞いたあと、テッドからも新しい情報を得ることができた。


 そういえば、と。

 俺が意識を失う寸前、テッドが何か伝えてこようとしていたなと思い出してからはあっという間のできごと。

 テッドにあのとき何を伝えようとしていたのかと問いただしたらあっさりと状況の理解が進んだ。


 なんてことはない。

 トーラ、フィナンシェ、テトラの三人とテッドから聞いた話を整理したところ、トーラとフィナンシェの言っていた「俺が魔法を発動したからすべてが解決した」というのも間違いでないことがわかった。

 というより、たしかにその説明ですべてが完結していた。


 どうやらあのとき、俺の魔力が急激に膨れ上がったらしい。

 何が起きたのかはわからないが、俺が浄化魔法を発動しようとしたあの瞬間、俺の魔力量は一気に膨れ上がっていた。

 そして、あのとき俺はありったけの魔力をつかって全力で魔法を発動しようとしていた。

 結果、予想以上の量の魔力を制御しきることができず、魔法が暴走したのだろう。


 運が良かったのはその暴走が魔法の威力と範囲を高める方向へと働いてくれたこと。

 奇跡的に実力を遥かに超える威力の魔法を発動できたことによってヒュドラと毒を滅することに成功し、毒に溶かされようとしていた者たちの命を救うことができた。


 大勢の命を救い、被害を最小限に留めたのだ。

 英雄扱いも頷ける。


 暴走の代償として俺は意識を失うこととなったが、それもたったの数十分。

 意識を失ってから一時間もしないうちに俺は目覚めることとなり、その後も身体に異常などはない。

 数日後に全身が激痛に襲われるなどの恐れはあるが、今のところはその兆候もない。


 代償は軽く、結果は最高。

 ヒュドラ討伐に貢献することもでき、俺がこの場まで来た意味もあった。


 また実力以上の評価を受けることになってしまったのは不本意だがこれまでとちがって今回は間違いなく俺の功績みたいだし、そのことで感謝されるのは悪い気分ではない。

 このことでこれまで以上にカードコレクターたちから狙われることになったかもしれないという心配を除けば、最高の気分だ。

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