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謝罪と天丼

 いきなり部屋に飛び込んできて謝罪するという筋肉ダルマの謎の行動に俺、フィナンシェ、依頼主二人の計四人が困惑していると、その困惑を感じ取ったのかしばらくのあいだ頭を下げた体勢で固まっていた筋肉ダルマが顔を上げ弁明を始めた。


「この間は殺気を向けちまってすまなかった。この通り謝罪する。俺には何をしてくれてもかまわねえ。だから、俺の仲間やこの街には何もしないでくれ。頼む!」


 どういうことだ?

 今この部屋にいるのは筋肉ダルマを除いて四人。そのうち依頼主二人はたぶん筋肉ダルマとの面識はないだろう。ということは俺かフィナンシェのどちらかに向けられた言葉だよな?

 それでもって、こいつのフィナンシェへの恨みは並大抵のものじゃなかったからフィナンシェに向けて謝罪してるわけではなさそうだ。

 そうなると俺に向けての言葉だとは思うんだが仲間や街には何もしないでくれってのはどういうことだ?


「あんなにすげえやつと一緒にいるんだ。あんたが強いってことはわかる。【金眼】が俺よりもあんたの方が強いって言ってた意味も分かった。そんなあんたに向けてあれだけ無礼なことをしちまったんだ。俺は殺されても文句は言えねえ。だが、他の奴は関係ない。何かするってんなら俺の命だけで勘弁してくれ!」


 鬼気迫る表情でなおも謝罪を続ける筋肉ダルマだが、あんたが強いってことはわかるとか俺の命だけで勘弁してくれだとか何を言っているのかよくわからない。

 他の面々に目を向けると、フィナンシェは外面モードで表情を取り繕ってるから何を考えてるかわからないが、依頼主二人の顔からは「何の話だ?」と考えてることがありありと読み取れる。

 俺も何の話かさっぱりわからんという感じの顔をしているのだろう。俺の顔色を窺った筋肉ダルマの謝罪がさらに苛烈さを増した。






 筋肉ダルマが入室してきてからどのくらいの時間が経過しただろか。

 筋肉ダルマの口は止まることなく現在進行形で謝罪が続けられているわけなんだが、その言葉のほとんどが俺の耳を素通りしていく。

 先程から俺のことは好きにしていいとかすまなかったとかそんな言葉ばかりなのだ。

 筋肉ダルマの言葉を耳にすればするほど、どうしてこんなに必死なのかとますます謎が深まっていく。


 まず、こいつはどうして俺が強いなんていう勘違いをしているんだ?

 三日まえ筋肉ダルマに絡まれたとき、俺はずっとこいつに恐怖し、震えた姿を見せていたはずなんだが。なんなら盛大に漏らしもした。

 あの姿を見て俺が強いと思えるなんてこいつの頭は一体どうなって……そういえばさっきなんか言っていたな。たしか、あんなすげえやつと一緒にいるんだ、とかなんとか。


 ああ、なるほど! こいつは俺がテッドを連れてるのを見て俺の強さを勘違いしたんだな。

 この世界にはカード化の法則ってやつがある。フィナンシェの説明だと、この世界では大きなダメージを受けた生物はカードになって一命を取り留めるかわりにカードから元の姿に戻してくれた者の頼みを一つきいてやらないといけないとかそんな感じだったか。

 つまり、筋肉ダルマは俺がスライムをカード化して従わせられるような強者だと勘違いしたわけか。


 どうして筋肉ダルマがこんな行動をとっているのかやっと理解できた。

 スライムを連れた強い奴に喧嘩を売っちまったから謝罪に来たってことか。

 俺はテッドが弱いことを知っているし人魔界ではスライムは弱いってのが常識だったからか、テッドが強いって言われることにいまだに違和感があるんだよなあ。なんだか慣れないっていうか、今だって、この世界ではスライムが世界最強だってことが頭から抜け落ちてたせいで筋肉ダルマの行動が全く理解できなかったし。


 さて、なんでこんな行動をとっているのかもわかったことだしそろそろなんとかしないとな。


「謝罪はもういい。お前やお前の仲間、この街にも何かする気なんてないから出ていってくれ。いま依頼の交渉中なんだ」

「本当か!? 本当に許してくれるのか!?」


 俺が謝罪を受け入れると告げた瞬間、信じられないといった顔で俺の目を見てくる筋肉ダルマ。

 こいつは俺がちょっとしたいざこざで街を滅ぼすような人物だとでも思っているのだろうか。


「ああ、許すから早く部屋から出ていってくれ」

「お、おおおおおお。ありがてえ。感謝する! ただ、これじゃ俺の気が済まねえからあとで謝罪の品は用意させてもらうぜ。ほかにも、何かあったら遠慮なく俺をつかってくれ! じゃあまたな!」


 そう言って部屋から出ていく筋肉ダルマ。

 部屋から出る直前、まるで神に祈りが通じたとでもいわんばかりの顔をしていたが大丈夫だろうな。あとで謝罪の品としてあいつの全財産とか持ってこられても困るんだが。流石にそんなことはしないか。しないよな?


「トールってなんか偉そうだよね」


 閉められた扉を眺めていたらフィナンシェに小声で話しかけられた。


「偉そうにした覚えはないんだが」


 とりあえず俺も小声で返す。


「そうなんだ。でも、さっきまでのカルロスさんに対する態度もそうだけど、初対面の人や年上の人に対しては敬語をつかわないと偉そうにしてると思われちゃうよ?」

「そうだったのか。これから気をつけるよ」


 人魔界では立場が上の者にだけ敬語をつかえばよかったんだが、この世界では初対面の相手や年上に対しても敬語をつかわないといけないのか。

 ギルド内ではギルド長にだけ敬語をつかえばいいと思っていたがそうではなかったようだな。


 そうだ。筋肉ダルマのせいで中断されてしまった話の続きを聞かなければ。

 話を聞くまえに、筋肉ダルマのせいとはいえ俺たちがきっかけで中断させてしまったんだから一応謝っておくか。


「カルロスさん、ケインさん。説明を中断させてしまい申し訳ありませんでした。話の続きをお願いします」

「あ、ああ。じゃあ説明の続きを……」


 試しに敬語をつかってみたが、こんな感じでいいんだろうか。

 孤児院で教わった通りにしたから大丈夫だとは思うんだが。

 そう思って三人の顔を見てみたところ俺の敬語が間違っているとか、そういった問題はなさそうだった。

 カルロスとケインは急に態度を変えた俺を見て一瞬だけ怪訝そうな顔をしたものの気にしないことに決めたようだし、隣に座るフィナンシェはそれでいいとでも言うように頷いているから、きっとこれでいいんだろうな。


「今回頼みたいのはこの街に……」


 カルロスが説明を再開してすぐ、またしても先程と同じところでカルロスの言葉が区切られる。

 なんか嫌な予感がするな。

 そう思い耳を澄ましてみると、ドタドタと近づいてくる足音が聞こえ、またもや豪快にこの部屋の扉が開かれる。

 入ってきた人物はもちろん筋肉ダルマ。

 しかし、筋肉ダルマの次の行動はまたしても予想外なものだった。


「おい、そこの二人! お前ら、三日前に【金眼】がパーティ組むかもって噂してた奴らだな!」


 今度はなんだと思っていると、筋肉ダルマは俺やフィナンシェではなくカルロスとケインを指差してそう言い放った。

 まだ執筆してないのでどうなるかわかりませんが構想上では次話あたりから一気に物語が動き始める予定です。

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